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2010年10月27日 (水)

連続ツイート 秋刀魚の味

日本がダメになったのは、何だかんだ言っても、アジアのなかでそれなりに近代化の歴史も古く、ノーベル賞もたくさん出ているような立派な国だからかもね。シンガポールの人たちは、自分たちには何もない、と必死になっている。オレたちも、初心に返れば!!

しゅりんくっ! ぷれいりーどっぐくん、おはようしてからちょこまか動いてた。もう7時過ぎた!

秋味(1)秋が深まってきていることでもあるし、私の生まれた年(1962年)に公開された小津安二郎監督の『秋刀魚の味』について書こう。 http://bit.ly/99ym9u

秋味(2) 小津安二郎の凄いところは、ごく普通の人たちの、ありきたりの生活を描いて、地上でありながら天上の気配を感じさせるところ。『秋刀魚の味』でも、娘が結婚する以外には何の「事件」も起こらない。それでいて、切れば血が出るような凄みがある。

秋味(3)妹がひそかに思いを寄せていた三浦君に、兄がそれとなく意向を聞く。好きだったけれども、もう他の人に決まってしまったと三浦くん。「そうか」と兄が言うと、三浦君が、「トンカツもう一ついいですか」という。日常は、まさにこうだ。重大事が些事と分かちがたく。恐ろしい。

秋味(4)父が、妹に「三浦くんもお前のこと好きだったらしいんだけどね、もう決まってしまったらしいんだよ。」「それならいいの、私、後悔したくなかっただけなの」。兄に「案外平気だったね」。上から降りてきた弟が、「ねえちゃんどうしたんだよ。泣いていたみたいだぜ。」

秋味(5)父が、妹の様子を見に上がっていく。「下降りてきてお茶でも飲まないか」。この時に、妹役の岩下志麻がふりかえるそのシーンを、まるですでにそこにいない幽霊のようだと絶賛したのが、保坂和志さん。

秋味(6)『秋刀魚の味』には、同窓生たちが酒を酌み交わすシーンがたくさん出てくる。恩師を呼ぶと、鱧を知らない。「これは何ですか?」「鱧でしょう」「ハム?」「いや、鱧です。」「はあ、けっこうなものですな。魚偏に豊か、鱧か」「あいつ鱧食ったことないのかな、字ばかり知ってやがって。」

秋味(7)あまりにも有名な『秋刀魚の味』のバーのシーン。「日本が勝っていたら・・」「でも、負けてよかったじゃないか」「そうかもしれないな。バカなやつらがいばらなくなっただけでもね。艦長、あんたのことじゃありませんよ、あんたは別だ。」

秋味(8)『秋刀魚の味』で父を演じる笠智衆は、終始完璧な「紳士」である。気配りをし、思いやりを忘れない。その父が、娘を嫁にやったその夜、ついに崩壊する。泥酔し、『軍艦マーチ』を歌い、ひとりさびしく台所で水を飲み、頭を垂れる。秋刀魚のわたのようにほろ苦いラストシーン。

秋味(9)ごく普通の人々の生活を描き、底光りする日常の中に人間の孤独を描いた小津安二郎の『秋刀魚の味』は、尋常ではない傑作である。永遠の古典。この映画を数十回繰り返し見ているという人を私以外に二人知っている。保坂和志さんと、内田樹さんである。

以上、小津安二郎監督の『秋刀魚の味』についての連続ツイートでした。

何も起こらないかのように見える日常の繰り返しの中でいつの間にか取り返しのつかない形で変化してしまうからこそ、人生は興味深いし、また恐ろしい。その恐ろしさを描くところに、小津映画における日常の凄みがある。『脳のなかの文学』(文春文庫)

(2010年10月22日、http://twitter.com/kenichiromogiにてツイート)

10月 27, 2010 at 08:29 午前 |