パドリーノの肖像
佐賀新聞社長の中尾清一郎さんは、私の友人である。
母親が佐賀の唐津生まれということもあって、私は佐賀に、そして中尾さんに深く親しみを感じている。
いっしょにシチリア島に旅行した時、中尾さんのあだ名は「パドリーノ」になった。現地で、ゴッドファーザーを「イル・パドリーノ」と言うということを知り、中尾さんにぴったりだと思ったのである。
もっとも、中尾さんは、こわいパドリーノではなく、お茶目でかわいらしいパドリーノだ。
先日、佐賀新聞社内で、佐賀テレビで新春放送されるという番組の収録があった。
パドリーノと、有田焼の魅力について語り合った。
パドリーノはイラチで、「早く撮影しましょう」とスタッフに急かす。
ぼくが聞いたら、2カメの予定が、まだ一つ来ていないから、到着を待っているということだったが、それでもパドリーノは「後でカメラが来たら追加すればいい」などと言っている。
そこで、ぼくが、「中尾さん、テレビの収録というものは、そういうもんじゃなくて、カメラがちゃんと揃ってからにしましょう」と言ったら、「仕方がない」というような感じで、どこかに消えてしまった。
パドリーノがいない。
ぼくが、呆然と座っていたら、しばらく経って、どこからか、微かに音楽が聞こえてくる。
あれ、誰かのスマホの呼び出しが鳴っているのかな、と思ったら、どうやらクラシックで、いつまで経っても止まない。
へんだなあ、音楽の幽霊かしら、と思っていたら、ようやく、心の中でメロディーがかたちをとりはじめた。
パルジファルだ!
それで、ああ、と腑に落ちて、近くにいたハッシーに、「ひょっとして、隣の部屋、社長室ですか?」と聞いたら、そうだという。
パドリーノは、撮影が進まないのに業を煮やして、隣の社長室にふっと入ってしまって、そこで、パルジファルをかけ始めたのだ。
あとで聞いたら、「こんな時はパルジファルでも聴かないと、気が休まらないでしょ」と言った。
それで、ぼくは、パドリーノは佐賀のルートヴィッヒみたいだなと思った。
あとで、福岡に移動しながらそのことを言ったら、パドリーノは、まんざらでもなさそうだった。
実際、えへへと口元がゆがんでいたのである。
11月 24, 2014 at 06:46 午前 | Permalink
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