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2014/11/24

 パドリーノの肖像

佐賀新聞社長の中尾清一郎さんは、私の友人である。

 母親が佐賀の唐津生まれということもあって、私は佐賀に、そして中尾さんに深く親しみを感じている。

 いっしょにシチリア島に旅行した時、中尾さんのあだ名は「パドリーノ」になった。現地で、ゴッドファーザーを「イル・パドリーノ」と言うということを知り、中尾さんにぴったりだと思ったのである。

 もっとも、中尾さんは、こわいパドリーノではなく、お茶目でかわいらしいパドリーノだ。

 先日、佐賀新聞社内で、佐賀テレビで新春放送されるという番組の収録があった。

 パドリーノと、有田焼の魅力について語り合った。

 パドリーノはイラチで、「早く撮影しましょう」とスタッフに急かす。
 ぼくが聞いたら、2カメの予定が、まだ一つ来ていないから、到着を待っているということだったが、それでもパドリーノは「後でカメラが来たら追加すればいい」などと言っている。

 そこで、ぼくが、「中尾さん、テレビの収録というものは、そういうもんじゃなくて、カメラがちゃんと揃ってからにしましょう」と言ったら、「仕方がない」というような感じで、どこかに消えてしまった。

 パドリーノがいない。

 ぼくが、呆然と座っていたら、しばらく経って、どこからか、微かに音楽が聞こえてくる。

 あれ、誰かのスマホの呼び出しが鳴っているのかな、と思ったら、どうやらクラシックで、いつまで経っても止まない。

 へんだなあ、音楽の幽霊かしら、と思っていたら、ようやく、心の中でメロディーがかたちをとりはじめた。

 パルジファルだ!

 それで、ああ、と腑に落ちて、近くにいたハッシーに、「ひょっとして、隣の部屋、社長室ですか?」と聞いたら、そうだという。

 パドリーノは、撮影が進まないのに業を煮やして、隣の社長室にふっと入ってしまって、そこで、パルジファルをかけ始めたのだ。

 あとで聞いたら、「こんな時はパルジファルでも聴かないと、気が休まらないでしょ」と言った。

 それで、ぼくは、パドリーノは佐賀のルートヴィッヒみたいだなと思った。

 あとで、福岡に移動しながらそのことを言ったら、パドリーノは、まんざらでもなさそうだった。

 実際、えへへと口元がゆがんでいたのである。

11月 24, 2014 at 06:46 午前 |