桐島、コンビニ辞めないでね。
午前6時過ぎのコンビニは、お客さんの姿もまばらだった。
野菜サラダや、牛乳をカゴに入れたあと、そういえばこの前コロッケにソースをかけてどんぶりにしたら、とても美味しかったな、と思い出した。
それで、そのコーナーのあたりに立って、すこし呆然としていると、なんと、店内放送にて、そのタイミングで、「お肉たっぷりのさくさくメンチカツはいかがでしょう。あげたてのさくさくメンチカツ。いま、人気です」という音声が流れてきた。
そうかっ、メンチカツという手もあった!
見ると、ケースの中に、メンチカツがおいしそうに並んでいる。その瞬間、ぼくは、コロッケを買おうと思っていたのに、メンチカツにすることに決めた。
レジに向かって歩きながら、しかし、と考えた。今の音声は、店員さんも聞いていたはずだ。『桐島、部活辞めるってよ』にいかにも出てきそうな、黒縁眼鏡の男の子。今、彼を仮に桐島と呼ぶことにしよう。
ぼくが、「メンチカツください」と言うと、桐島は、「あ〜こいつ、今の店内放送につられて、さっそくメンチカツ買ってやがるの〜」と思わないだろうか。そこまで思わなくても、「メンチカツですね」と言う時に、つい、口元がゆがんでしまったりしないだろうか。
どうしよう。食べたいなあ、メンチカツ。でも、宣伝に簡単に影響されるようで、イヤだなあ。やっぱり、コロッケにするか。でも、メンチカツ、最近食べていないなあ。
そんな私の内面の葛藤を知らずに、桐島君は、ピッ、ピッと牛乳や野菜サラダ、その他のこまごまとしたアイテムを読み取っていく。もう、時間がない。
決断の瞬間。
「あの〜、それと・・・」
「はい?」
「コ、コロッケください!」
負けた。桐島の黒縁眼鏡に負けた。彼の口元が、「にやっ」とゆがむ、その映像の予想に耐えられなかった。
ほんとうは、メンチカツ、食べたかったんだよなあ。
コンビニを後にしながら、私の心の中で、コロッケとメンチカツがルーレットのようにくるくる回る。
コロッケ58円、メンチカツ139円。81円のお得。
とりあえず、ヨカッタことにしよう。節約だよね。
そして、今度こそは、「さくさくメンチカツいかがですか〜」という音声が流れていないタイミングで、桐島と対決してやるっ!
桐島、コンビニ辞めないでね。
9月 15, 2014 at 06:56 午前 | Permalink
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