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2014/09/15

桐島、コンビニ辞めないでね。

 午前6時過ぎのコンビニは、お客さんの姿もまばらだった。

 野菜サラダや、牛乳をカゴに入れたあと、そういえばこの前コロッケにソースをかけてどんぶりにしたら、とても美味しかったな、と思い出した。

 それで、そのコーナーのあたりに立って、すこし呆然としていると、なんと、店内放送にて、そのタイミングで、「お肉たっぷりのさくさくメンチカツはいかがでしょう。あげたてのさくさくメンチカツ。いま、人気です」という音声が流れてきた。

 そうかっ、メンチカツという手もあった!

 見ると、ケースの中に、メンチカツがおいしそうに並んでいる。その瞬間、ぼくは、コロッケを買おうと思っていたのに、メンチカツにすることに決めた。

 レジに向かって歩きながら、しかし、と考えた。今の音声は、店員さんも聞いていたはずだ。『桐島、部活辞めるってよ』にいかにも出てきそうな、黒縁眼鏡の男の子。今、彼を仮に桐島と呼ぶことにしよう。

 ぼくが、「メンチカツください」と言うと、桐島は、「あ〜こいつ、今の店内放送につられて、さっそくメンチカツ買ってやがるの〜」と思わないだろうか。そこまで思わなくても、「メンチカツですね」と言う時に、つい、口元がゆがんでしまったりしないだろうか。

 どうしよう。食べたいなあ、メンチカツ。でも、宣伝に簡単に影響されるようで、イヤだなあ。やっぱり、コロッケにするか。でも、メンチカツ、最近食べていないなあ。

 そんな私の内面の葛藤を知らずに、桐島君は、ピッ、ピッと牛乳や野菜サラダ、その他のこまごまとしたアイテムを読み取っていく。もう、時間がない。

 決断の瞬間。

 「あの〜、それと・・・」

 「はい?」

 「コ、コロッケください!」

 負けた。桐島の黒縁眼鏡に負けた。彼の口元が、「にやっ」とゆがむ、その映像の予想に耐えられなかった。

 ほんとうは、メンチカツ、食べたかったんだよなあ。

 コンビニを後にしながら、私の心の中で、コロッケとメンチカツがルーレットのようにくるくる回る。

 コロッケ58円、メンチカツ139円。81円のお得。

 とりあえず、ヨカッタことにしよう。節約だよね。

 そして、今度こそは、「さくさくメンチカツいかがですか〜」という音声が流れていないタイミングで、桐島と対決してやるっ!

 桐島、コンビニ辞めないでね。

9月 15, 2014 at 06:56 午前 |