食べる機械!
ぼくは、いわゆる「種なしぶどう」が好きだ。一つひとつの粒が大きいぶどうもいいけれども、あのちっこいぶどうが、ふさに沢山ついているやつを、両手ではがしては食べ、はがしては食べするのが好きだ。
そろそろ季節なのあで、両手でわしわし食べていると、つい、「食べる機械!」という谷貝くんの叫びを思い出してしまう。
大学院生のとき、家庭教師で黒坂くんを教えていたら、黒坂くんの友人の鈴木兄弟(ふたご)と、谷貝くんが「いっしょに教えてくれ!」と言ってきたので、4人まとめて教えることになった。
中学生の男の子4人。うるさくて大変だったけど、中でも谷貝くんは独特の男の子キラキラパワーに満ちていた。「チョークの神さま」事件も、そのうちこのスペースに書きたいと思うけれども、もう一つ心に残るのが、「食べる機械」事件。
勉強を始めて1時間くらい経ったときに、黒坂くんのお母さんがおやつをもってくる。みんな育ち盛り空腹盛りだから、それを楽しみにしている。
ある夏の日、昼間から勉強していて、おやつの時間になったら、黒坂くんのお母さんが、どんぶりにいっぱい、枝豆をゆでたのを持ってきた。みな枝豆大好物で、他のやつに食われないうちに、といそいで食べ始めた。
そのうち、谷貝くんが、「そうだ!」とひらめいたのか、両手で、次々と枝豆をつかんで、口の中にぷしゅっと押して放り込むという技を生み出したのだ。他の3人もあせって真似を始める。見ていても爽快なスピード。山盛りだった枝豆が、一気になくなっていく。
そして、その瞬間、谷貝くんが叫んだのだ。食べるのを一瞬やめ、天井を見上げて、勝ち誇ったように、「食べる機械!」と。
人間の記憶ってふしぎだね。彼らと過ごした何十時間、何百時間の中で、その瞬間が、鮮やかによみがえるのだから。
あの時、谷貝くんは食べる機械だった。そして、それは、誰でも通る男の子のキラキラパワーだったのだろう。
5月 14, 2013 at 08:12 午前 | Permalink
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