深夜の遭遇
たまたま、スケジュールの都合で、小倉に連泊のなか、名古屋に「日帰り」で往復することになった。
まるで、母のふるさとでもある街に、自分が住んでいるような気持ちになった。それは、とても素敵な幻想でもあったのだけれども。
小倉に「帰って」きたのは、23時40分すぎ。最終の新幹線が広島で在来線の接続を待ったので、定刻よりもやや遅かった。
深夜の小倉駅。人通りがまだある。ぼくは、基本的に行き交うひとと目を合わせないようにして歩く。本当にもうしわけないのだけれども、「あっ」とか「あれ」とか言われて、話しかけられることが多く、本当はシャイなぼくは、どう対応したらよいかわからなくて、どぎまぎしてしまうのだ。
それでも、駅からリーガロイヤルホテルに向かう通路で、2、3度話しかけられた。数人の方が連れ立って歩いていて、「明日よろしくお願いします」と言われた。どうやら、学校関係の方らしい。
もう止まってしまった動く歩道に入り、もうすぐリーガロイヤルホテルだ、と思ってほっとして歩いていると、「あっ、茂木さん!」という声がする。
しまった、また見つかったか、と思って顔を上げたら、そこには、なんとよく知った人の顔があった。
「あれ、奥田さん!」
北九州で、ホームレスの方々の支援を続ける、奥田知志さん。牧師としての信仰から出発しながら、「絆(きずな)」とは人間がお互いに傷つけるかもしれないことである、人はみな罪深いという思想を持つ奥田さん。
ぼくが司会をしていた『プロフェッショナル 仕事の流儀』に二度出演された奥田さん。大好きな奥田さん。大切な奥田さんが、なぜか、こんな深夜に、リーガロイヤルホテルから駅に向かう通路を歩いてきている。
真っ先に思ったのが、リーガロイヤルホテルで飲み会か何かがあって、その帰り道なのかな、ということだった。そんな連想になったのは、その前の夜に、奥田さんや北九州市議会議員の白石一裕さんたちと、バーでいろいろと歓談した記憶があったからだろう。
しかし、その割には、なんだかしんみりとした雰囲気で、奥田知志さんは立っている。
「茂木さんは、まさか、今帰ってきたの?」
「ええ。そうなんです。名古屋に行ってきました。奥田さんは?」
「ぼくは、見回りですよ。」
聞いた瞬間、あっ! と思った。見ると、奥田さんは赤いジャンパーを着て、ジーンズにスニーカー、それにカバンを提げている。歩き回りやすいような服装をしている。
「いやね、さっき、駅の近くで、野外宿泊者かな、というような男性を見かけたものだから。しばらく、様子を観察していたのです。でも、ちょっとの隙に、どこかに行かれてしまった。きっと、そのあたりのどこかに入り込んだのでしょう。」
「見ると、そういうことがわかるのですか?」
「今日、泊まるところがないんじゃないかな、ということは何となくわかります。その男性は、カバンの上に、たくさんのものが入ったビニル袋を置いてあったしね。」
『プロフェッショナル 仕事の流儀』でも放送された、奥田知志さんの、深夜の見回り。今日泊まるところがないのかな、という方を見かけると様子をみて声をかけ、相談に乗る。場合によっては、ご自身の教会に連れていって、一時の避難場所にする。
今、奥田知志さんの東八幡キリスト教会は、あたらしい教会堂を建築しようとしていて、その一部は、ホームレスの方々のシェルターになるのだという。基金を募集しているようなので、もしよろしければ、奥田さんに協力してあげてください!
http://homepage3.nifty.com/higashiyahata/
奥田さんとは、会議やシンポジウムで、何度となく会っているけれども、深夜の小倉の街を、見回りされているまさにその現場に、偶然に遭遇することができて、ぼくはなんだかじんわりと心の奥から感動してしまった。
自分自身が、名古屋に日帰りして、深夜、疲れ切って少し心細い気持ちでリーガロイヤルホテルに向かっていた、ということもあるのかもしれない。
ぼくは、ホテルの部屋があるからいい。もし、今日泊まるところがなかったとしたら。
奥田さんは、人間はみな罪人だという。その罪人である人間は、他人の苦しみや痛みを、想像して時に行動することくらいは、できるのではないか。
深夜の駅の通路で、赤いジャンパーを着て立つ奥田さんの表情は、やわらかく、荘厳ですらあった。
奥田さん、うまく言えないけど、本当にありがとう。
5月 11, 2013 at 08:03 午前 | Permalink
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