世界の中心で、「あーうーあーうー」と叫ぶ。
サコカメラと、集英社の助川夏子さんとの取材。寝台特急サンライズ出雲が到着するのは午前10時前だと知って、「しめしめゆっくり眠れる」とほくそ笑んでいた。
そしたら、午前6時過ぎに高松に行くのと切り離すからホームで撮影、だとかいう。
ええ、そんな、と思ったが、仕方がなく5時30分に起きた。
爽やかな山陰の景色を楽しめたのはいいとして、とにかく眠い。
だから、出雲大社やJR西日本の車両基地の取材を終え、出雲空港で飛行機に乗り込むと、いつものように日航寄席を聞きながら、あっという間に爆睡していた。
はっと目が覚めると、窓の向こうに湾が見える。その向こうに富士山のシルエットがある。折しも、太陽が真っ赤な点となって沈もうとしてる。
「あーうーあーうー」みたいな感じで、ヘッドフォンをしたまま隣の外人さんに身ぶりで教えたら、そのおじさんもうんうんと頷いて富士山の方を見ている。
羽田に到着して、機内アナウンスを聞いて驚いた。「本日は、出雲出発及び羽田到着が、大幅に遅れたことを心からお詫びいたします。」
へっ? 遅れた? iPhoneのスイッチを入れて見たら、確かに、予定時刻を一時間以上過ぎている。たいへんだ! 波頭亮さんの研究会に遅れてしまう!
機外でサコカメラ、助川さんと落ち合った。助川さんからその間の「真相」を聞いた。私は、ぽわんと白煙が立って、えっ、そんな、ここはどこ、私は誰、みたいな感じになった。
「出雲を出るとき、羽田が強風ということで、飛べるかどうかわからないからと、滑走路に出たところで、いったんターミナルまで引き返したんですよ。」
「へっ!?」
「そのまま、ターミナルで、15分くらいいたかな。機長さんが出て、本当に丁寧に、今こういう状況だから、こうなるかもしれない、ああなるかもしれない、と説明したのです。」
「へっ!?」
「それから、アテンダントの方が、一人ひとりの乗客のところに来て、本当にすみません、とあやまってまわって。」
「あんなに一人ひとりの顔に近づけるとは思わなかったなあ」と、嬉しそうなサコカメラ。(サコカメラは、風体が「組長」風のおっさんである。)
「へっ!?」
「飲みものを配ったり、キャンディーを渡したりして」
「へっ!?」
「それから離陸したけれども、羽田に近づいたところで、やっぱり風が強くて通常の滑走路では着陸できないということで、再び機長さんが登場して」
「へっ!?」
「それで、機長さんが、今日はいつもと違う北向きの滑走路を使う。しかし、そこには現時点で60機が待機しているから、着陸がいつになるかわからないと言って」
「へっ!?」
「それで、アテンダントの方が、いつもと違うアプローチになるから、富士山がきれいに見えるかもしれないと言って。でも、見えなかったわよね、サコカメラ」と助川さん。
「ああ、見えなかったなあ」とサコカメラ。
「あっ、見えたみえた! 富士山見えた! どうりで、いつもと違う風景だと思った。」←イマココ。
私は、飛行機に乗り込んで爆睡していたおかげで、そんなドラマティックな展開があったとはつゆ知らず、「←イマココ」と記した時点から、はっと気づいて、富士山が見えるなあ、きれいだなあ、と思って、「あーうーあーうー」みたいな感じで、ヘッドフォンをしたまま隣の外人さんに教えたら、そのおじさんもうんうんと頷いて富士山の方を見ていたのである。
意識のない時には存在しないのと同じ、とは言うが、私は、爆睡していたせいで、ドラマティックな機内の展開を全く知らずにいた。
とてつもない損をしたような、なんだか不思議な気分。うかつにもほどがある。
「よく眠れてよかったですね」と助川さん。ちょっと棒読みだった気がする。
助川さんが集英社に戻るついでに、ホテル・オークラまで送ってくれた。道が空いていて、あっという間について、小幡績さんのお話を、15分遅れでは聞くことができた。
うれしかった。
なんだか、魔法のようだった。
その時、私は、世界の中心で、「あーうーあーうー」と叫んでいたのである。
5月 9, 2013 at 08:11 午前 | Permalink
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