ぼくに声をかけてくださった女性の方、つばさの先が飛び出してごめんなさいね。
京都からの新幹線の中で爆睡して、新横浜の手前あたりで目覚めた。
次の目的地であるホテル・オークラまでは、歩いて行こうと思った。
丸の内南口から出て外の空気に触れると、思ったよりも涼しい。
いつも着ている「ジョブズ・モデル」(自称)のIssey Miyakeのセーターをはおろうと思った。
信号を渡って、丸ビルの横の四角い座るところに、リュックを置いてセーターを着ようかな、と考えたと思いねえ。
だけど、そこの正方形の椅子みたいなやつには、すでに女性が座っていた。そうだなあ。30代くらいかなあ。それで、その方の近くで、リュックをごそごそするのは、何とはなしに気が引けた。
だから、そのまま通り過ぎようとしたんだ。ところが、その時、本当に秒単位で、微妙なことが起こった。
まず、四角い椅子みたいなところから、女性が立ち上がろうとした。それで、ぼくは、「あっ、行かれるんだ」と思って、方針を変更して、ちょっと回り込むような感じで、椅子みたいなところにリュックを置いて、セーターを取りだそうとしたと思いねえ。
ところが、その時、不思議なことが起こった。立ち上がって歩み去るとばかり思っていた女性が、なぜかこっちに近づいてきて、「あのう・・・」と言ったのだ。
ん? ん? ん?
なんで、君は、こっちに来るのか。なぜ、あのう・・・とか言うのか。
そしたら、意外な言葉が飛び出した。
「サインしていただいてよいですか。ひとの本しかないんですけど、いいですか。」
「あっ、は、はい。。。。」
なんとも間が悪いというか、リュックを置いてセーターを取りだそうとして、いちばん無防備なところをつかれたというか、まさか、そういう手で来るとは、思わなかった!
だって、まさか、ぼくが歩いて行くその一瞬の間に、ぼくを認識し、そして、いきなり、「サインしていただいてよいですか。」と来るとは思わないではないかっ! っていうか、起動早すぎ!
とにかく、シャイなぼくは、とっととサインをしてその場を逃走しようと思った。ところが、その女性が、ゆったりしているんだよね。春の海のように、ひもねすのたりのたりかな、みたいなかんじで。。
あら、ペン、どこだったかしらあん。本、これでいいかしらあん。どこのページに書いていただこうかしらあん。ここでいいかな。いや、やっぱりここかしら。ううん。こっちよねえん。
みたいな。
ぼくは、その間、どういう姿勢をもってお待ちしていればよいのか、間合いが計れず、マジで困ったんだよね。
それで、やっと「このページでいいわ」みたいな感じでその女性が誰かさんの本(確認できませんでした。その著者の方、ごめんなさい)を差し出されたので、ぼくは、がしっ! と受け取ると、いちばん早く終わる、空をはばたく鳥の絵を描こうとして、あせっていたのだろう。勢いあまって、つばさの先がページの外に出ちまった。
いやあ、今まで「はばたく鳥」をおそらく数百回描いているけど、初めての事態だねえ。ダメだね、修業がたりないね。どんな時でも、平常心を保たなくては。
というわけで、やっと開放されると、「あっ、さよなら!」みたいな感じで僕は逃亡した。転げるように歩きながら、Issey Miyakeのセーターを着た。
ぼくに声をかけてくださった女性の方、つばさの先が飛び出してごめんなさいね。あせっちゃったんだよ。ごめんね。
いやあ、涼しい風が、頬に心地良かったよ。快楽の起源は、開放だねえ。
5月 25, 2013 at 08:28 午前 | Permalink
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