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2013/01/17

「(日本の大学は)言語的に閉じている」

「(日本の大学は)言語的に閉じている」
タイムズ・ハイヤー・エデュケーション誌
2013年1月17日掲載

茂木健一郎

From Where I Sit - Linguistically closed for business

Ken Mogi

Times Higher Education. 17th January 2013

以下は、2013年1月17日、イギリスの「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」誌に掲載された文章の、著者(茂木健一郎)自身による日本語訳です。

原文(英語)は、下記URLをご参照ください。

http://www.timeshighereducation.co.uk/story.asp?sectioncode=26&storycode=422386&c=1

<翻訳>

教育は、現代文明の発展に欠かせない要件である。世界の主要国の大学システムの欠陥は、その国にとってだけでなく、グローバル社会全体にとっての重大な関心事となる。

タイムズ・ハイヤー・エデュケーションの世界大学ランキングは、日本で最も権威のある大学である東京大学を、27位と評価した。しかし、タイムズ・ハイヤー・エデュケーションが評価した5つの基準、すなわち、教育、研究、論文引用回数、産業活動からの収入、そして国際化のうち、東京大学の国際化の評価は、極端に悪い。これは、日本のより深い問題を象徴している。

グローバル化した経済と連関することに失敗していることが、日本の窮状の原因である。成長が停滞する「失われた10年」が、「失われた20年」になろうとしている今、日本の高等教育機関も、似たような停滞の中にあるように見える。日本の大学に、何が起きたというのか? 歴史をふり返ることが有効だろう。

1867年の明治維新は、日本に近代化をもたらした。明治新政府は、西洋から学び、追いつくことに熱心であり、ヨーロッパ型の大学を設立した。東京大学はもっとも早く設立された大学の一つであり、長らく、日本の最も権威ある高等教育機関と見なされてきた。

当初、東京大学における講義は、英語や他の主要なヨーロッパ言語で行われた。その後、母語で講義が出来るように、日本語自体の近代化が図られた。この過程で考案された多くの新しい言葉(たとえば、「科学」や、「社会」、「経済」など)は、日本語を豊かにし、日本語で教育や研究をすることが可能になった。とりわけ、人文系においてはそうであった。

今日、日本の主要大学においては、教育や研究は、日本語で行われるのが通例となっている。特に、人文系の学問においてはそうである。論文が英語で出版されるのが通常である自然科学においてさえ、教室や研究室における日常の議論は、日本語で行われることが多く、外国からの学生にとって大きな障壁となっている。

近代において、日本の大学は、ヨーロッパの科学や技術、文化を輸入する機構として出発した。その試みが成功したことは、日本の急速な近代化を見ても明らかである。しかし、ゲームのルールが変わると、過去に蓄積された資源は、財産というよりは障害になり始める。

以上のような歴史を背景として、日本の教育システムは、伝統的に、翻訳というフィルターを通して英語に接近してきた。たとえば、京都大学の入試問題は、ほとんどが日本と英語の間の翻訳で構成されている。このため、典型的な日本の学生は、入試のために費やされた長大な勉強時間にもかかわらず、自分の意見を英語で十分に表現することができない。

日本の教育システムが言語的に閉じているために、日本の大学は、特に学部の段階において、海外からの学生を引きつけることに困難を感じている。日本の大学にとって、「死の接吻」ともなり得る事態である。

日本の大学が言語的に閉じていることは、日本の経済的停滞の原因の一つかもしれない。ウェブ時代においてハイテク機器をつくるためには、多くの分野からの知識を有機的に統合する必要がある。論文出版において英語に重点を置いている自然科学と、日本語に重点を置きがちな人文学との間の言語の壁によって、領域を超えたコミュニケーションが難しいため、日本の大学の卒業生は、多くの利益をもたらす可能性のある専門分野の融合を、成し遂げることができないでいる。

このような孤立には、終止符を打たねばならない。グローバル化にふさわしい形で、日本の大学を再設計することは、日本にとって良いニュースであるのはもちろん、世界全体にとっても福音になることだろう。

茂木健一郎(Ken Mogi)は、東京のソニーコンピュータサイエンス研究所(Sony Computer Science Laboratories)の上級研究員(senior researcher)である。

<翻訳ここまで。>

1月 17, 2013 at 10:03 午前 |