鳩山由紀夫さんの「友愛」について
茂木健一郎
鳩山由紀夫さんの政治理念を象徴する言葉である「友愛」。今こそ、この言葉をかみしめ、活かし、深化させる時期が来ているように考えます。
世間では、「友愛」という言葉のニュアンスが、現実を直視しない甘い認識であるかのような印象もあるようです。「友愛」を唱える鳩山由紀夫さんを、浮き世離れした「宇宙人」と評する向きもある。しかし、実際には、「友愛」は、厳しい現実認識に根ざした、実践的な政治思想なのです。
「友愛」を最初に唱えたのは、オーストリア・ハンガリー帝国の駐日大使を父に持ち、日本人を母に持つリヒャルト・クーデンホーフ=カレルギーでした。クーデンホーフ=カレルギーが、その著書『Totaler Mensch, totaler Staat』の中で唱えた「Brüderlichkeit」(友愛)の概念が、鳩山由紀夫さんの祖父であった第52、53、54代内閣総理大臣、鳩山一郎さんに大きな影響を与えました。
クーデンホーフ=カレルギーは、友愛の精神に基づく「汎ヨーロッパ主義」を唱え、国際汎ヨーロッパ連合(International Paneuropean Union)の初代会長となりました。
ヨーロッパは、人間の理性に信頼した近代文明の発祥の地となりながら、二つの世界対戦を通して多くの犠牲者を出しました。そのような反省の下に、今のEU(ヨーロッパ共同体)はあります。ドイツとフランスなど、歴史上争いを繰り返し、対立感情も強かった国同志が一つの共同体となっている。もう二度と、戦争の惨禍を繰り返したくないという決意が、そこにはあります。
今年のノーベル平和賞は、EUが受けることになりましたが、1972年に亡くなった。クーデンホーフ=カレルギーさんがもし生きていらしたら、間違いなくクーデンホーフ=カレルギーさんこそが受賞にふさわしい方だったでしょう。
クーデンホーフ=カレルギーの理想主義は、強い印象を与えたようで、映画『カサブランカ』(1942年、アメリカ)に登場する、レジスタンス運動の指導者ヴィクター・ラズロ(イングリッド・バーグマンが演じるイルザ・ラントの夫)のモデルは、クーデンホーフ=カレルギーだと言われています。
この映画がつくられ、公開された当時はナチス・ドイツに勢いがあり、戦況の帰趨は明らかではありませんでした。そんな時代に自由の大切さをとなえた『カサブランカ』。この映画史に残る名作に通じる骨太の思想が、「友愛」です。
鳩山由紀夫さんが唱える「友愛」には、このような歴史的経緯があります。そして、今、とりわけこの東アジア地域において、「友愛」の思想を深め、実践する必要性が増していることは、心ある人にはすぐにわかることでしょう。
鳩山さんが提唱されている「東アジア共同体」の構想は、「友愛」の理念の一つの実践です。現実認識が甘いから、「友愛」を唱えるのではない。現実が厳しいことを認識した上で、しかし人間的価値を諦めないからこそ、「友愛」がある。「友愛」の思想を深め、実践すべき時は、今です。
12月 22, 2012 at 10:35 午前 | Permalink
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