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2012/12/23

東アジア共同体について(1)EUとの比較において。

茂木健一郎

 東アジア地域は、領域内の国々の高い経済成長で、世界的にその存在が重要になりつつある。欧州、アメリカ、そしてアジアへと、21世紀における世界の重心は移ると予想されている。この東アジア地域において、平和と繁栄を維持するために、今こそ、「東アジア共同体」(East Asian Community)の構想を真剣に検討すべきときだろう。

 鳩山由紀夫さんは、一貫して「東アジア共同体」の大切さを説いてきた。鳩山さんのホームページには、東アジア共同体についてのステートメントがある(http://www.hatoyama.gr.jp/eastasian/)。

 また、民主党への政権交代直後の、2009年11月15日のシンガポールにおける東アジア共同体についてのスピーチの起こし原稿がある
(http://www.kantei.go.jp/jp/hatoyama/statement/200911/15singapore.html)。

 これらのテクストを参照いただいた上で、東アジア共同体の可能性と課題について幾つかの視点から論じたい。

 
 二つの大戦がもたらした惨禍についての真摯な反省に基づいてつくられた欧州共同体(EU)は、さまざまな問題を抱えながらも定着している。今年度のノーベル平和賞にも輝いた。

 東アジア共同体を構築するにあたっては、EUは参考になる事例だが、いくつか重要な差異もある。

 まず、地理的な差異。東アジア地域には広大な海があって、地理的な一体性が弱い。日本、韓国、中国といった中心となる国はもちろん、フィリピンや台湾、インドネシアといった参加が見込まれる国は、お互いに海で隔てられている。この点が、イギリスを除いて陸続きのヨーロッパと条件が異なる。

 人口、経済規模、軍事的バランスも、東アジアとヨーロッパでは異なる。ヨーロッパでは、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアといった主要国がそれぞれの特色を出しつつ拮抗しているのに対して、東アジア地域では、中国が、国土面積、人口で突出し、さらには経済的にも軍事的にも「唯一の大国」となりつつある。

 EUが、冷戦期から、自由や民主主義といった共通の価値観を共有する国々の集まりだったのに対して、東アジア地域にはそのような基盤がない。日本、台湾、韓国には市場経済と民主主義という共通価値があるが、圧倒的な存在感を持つ中国は、これらの価値を共有していない。

 北朝鮮は、経済システムも、政体も他の国とは異なる。いわば、冷戦期の名残りであるが、かつてのEUが、東ヨーロッパの共産圏に対峙して成長していったように、北朝鮮の存在は、東アジア共同体が発足し、発展する上でのさまたげには必ずしもならないだろう。より課題になるのは中国の存在である。「共同体」は、構成員がある程度平等な立場で参加することが前提だが、中国がそのような地位を受け入れるかどうかは予断を許さない。

 このように、東アジア共同体を考える上での状況は、EUとは異なる。しかし、異なるからといって、東アジア共同体が不可能なのではない。むしろ、異なる条件下において、「共同体」の試みが実現できるかどうか、人類史的なチャレンジがそこにあると積極的に考えるべきである。

 東アジアを隔てる広大な海は、竹島、尖閣諸島、南沙諸島のような領有権争いの現場にもなるが、一方で地続きの国境がもたらす緊張から解放する緩衝材としても機能し、またコミュニティ構築における一つのメリットともなりうる。鳩山由紀夫さんのシンガポール講演の中で提案された「友愛の海」構想は、その一つの例だろう。

 東アジアがヨーロッパとは違うからこその可能性もある。中国は、「中華思想」に象徴されるように、東アジア地域における「盟主」として振る舞ってきた。東アジア共同体は、そのような中国の動きに対する一つのチェック&バランス機能を果たせるかもしれない。

 米国は、東アジア共同体の発足を、自国の利益に反するものとして警戒する可能性がある。実際、EUは、米国に対する一つの対抗軸としても機能してきた経緯がある。共通通貨ユーロは、そのような動きの結実である。一方で、EU加盟国の多くは、北大西洋条約機構(NATO)を通して、米国と防衛協力をしてきた。イギリスは、歴史的、言語的なつながりから、米国との関係性が強い。

 EUにおけるのと同じように、米国は東アジア共同体における重要な存在であり続ける。東アジア共同体にも、米国がオブザーバー参加させるなど、何らかの結びつきを図るべきだろう。また。日米安全保障条約などを通しての米国との結びつきが強い日本は、東アジア共同体の中で太平洋地域への架け橋となる、主要な役割が期待される。

(東アジア共同体について(2)に続く)

12月 23, 2012 at 11:27 午前 |