イタリア紀行2012(2) バチカン広場の思い出
バチカンを訪れたのは、実に約十五年ぶり、二回目である。
以前に来たときには、ナポリであった国際学会の時に、確か一日だけやってきて、コロッセオや、サンタ・マリア・イン・コスメディン教会にある「真実の口」、スペイン階段といったお約束の観光地を訪問する中で、サン・ピエトロ広場にだけは行ったのではないかと思う。バチカン美術館にも、サン・ピエトロ大聖堂にも行かなかった。
十五年前のサン・ピエトロ広場訪問には、愉快な思い出がある。畏友の田森佳秀といっしょだった。ちょうど、先代の法王、ヨハネ・パウロ2世が祝福を与えるということで、たくさんの人が広場を埋め尽くしていた。大聖堂のだいぶ手前に柵があった。そこから入ろうとすると、イタリア語で、「信者じゃないとダメだ」というようなことを言われて、止められてしまったのである。
それから、不思議なことが起こった。私は諦めて柵のすぐ外に立っていたのだが、隣にいた田森が、イタリア人のおばさんの団体が通り過ぎる時に、さっと、そのおばさんの一人の肘を掴むようにして、紛れて入り込んでしまったのである。ちょうど、体型とか雰囲気とか、田森は、イタリア人のおばさんたちと印象が似ていて、うまく溶け込んでしまったようだった。
「あっ、あいつ、うまくやりやがった!」
唖然としているうちに、おばさんたちの団体は通りすぎてしまって、私は田森に続いて中に入るタイミングを失ってしまった。
まったく、田森らしいな。あいつは
やがて、ヨハネ・パウロ2世がいらした。人々が喜びの声を上げる。遠くに、豆粒のように小さく、しかししっかりと、法王の姿が見えた。儀式が終わると、人々が解散し始めた。やがて、田森も柵の中から戻ってきた。
「おい、うまくやったな。どうだった? 法王、近くから見えた?」
私がそう聞くと、田森ががっかりしたように答えた。
「いや、全然ダメ。前に人の頭がたくさんありすぎて、何も見えなかった。」
結局、柵の外にいた私の方が、法王の姿をしっかりと見ることができたのである。
10月 24, 2012 at 07:42 午後 | Permalink
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