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2011/10/07

ジョブズは、醜い技術の世界を、美しくした

朝、ツイッターのタイムラインを見ていて、一報を知った。「えっ!」と、言葉にならなかった。

ある程度は、予期していたのかもしれない。それでも、こんなに急にそれが来るとは思っていなかった。時が経つに連れて、失われたものの大きさに、ぼくは心が重くなっていった。

ニューヨークタイムズに引用された言葉に、「ジョブズは、醜い技術の世界を、美しくした」(“R.I.P. Steve Jobs. You touched an ugly world of technology and made it beautiful.”)とあった。ぼくの気持ちもそうだ。コンピュータの世界は、醜い技術、正確に言えば、美的なセンスなどどうでもいい、という人たちがつくる技術に支配されていた。

それが、ジョブズが出てきて変わった。ユーザーの「エクスペリエンス」の質。これが、コンピュータを考える上で大切なものであること。真剣にこの命題を見つめたのは、ジョブズだけだった。本当に、アップルだけだった。だから、ぼくたちは、アップルの旗の下に集結した。

ずっと、アップルのシェアは少数派だった。それでいい、とぼくたちは思っていた。どうやら、この世界の主流は、「エクスペリエンス」の質などどうでもいい、という人たちによって占められているらしい。そんな中、アップルの浮沈とともに、技術を美しくするという人たちの思いも動いた。

どうやら、エクスペリエンスの質が大切である、ということは、未だにそんなに理解されていないらしい。ジョブズ亡き今、誰がその遺志をついでいくのだろう。放っておけば、醜い技術があふれ、支配していくこの世界で、誰が技術を美しくしてくれるのだろう。

どうしてジョブズの死がこんなに悲しいのか。落胆しているのか。一緒に闘ってきたから。ぼくは、一ユーザーに過ぎなかったけれども。それでも、技術は、灰色のままだったから。ジョブズがいない今、どうやって、「エクスペリエンス」が大切であるという、その灯火を運んでいけるのだろう。

美しさとか、なめらかさとか、配置とか、曲線とか、そういうものもコンピュータの「計算」の一部分だということが、どうして理解されないのだろう。ジョブズは、それを理解していた。そして、おずおずと我慢をしてしまう私たちの多くとは違って、ジョブズは我慢をしなかった。妥協せずに、Insanely Greatなものを作り続けてくれた。だから、ぼくたちはジョブズを愛した。

彼は、代替のきかない人だった。昨日、ジョブズが亡くなって、こんなにも喪失感があったのは、育んで来たもののかけがえのなさと、通じないことの悔しさと、このクソッタレな世界の深さが一緒になって、もう、どうにもこうにも溜まらなくなってしまったからだろう。

スティーヴ・ジョブズ、たくさんの美しいものを、ありがとう。あなたが突然死んでしまって、ぼくたちはただ呆然としていますが、あなたが教えてくれて、闘ってくれて、実現してくれた「コンピューティングはアルゴリズムのことばかりじゃない」、という真実を、ぼくたちは決して忘れはしません。


10月 7, 2011 at 08:18 午前 |