「ぼく、ガソリン屋さんになる!」
走っていたら、見事なクロアゲハが、すーっと飛んでいった。
木立ちの間を、確信をもってまっすぐに飛んでいったので、ぼくは立ち止まって思わず見とれてしまった。
いいねえ。こういう典型的な個体は。羽根もきれいだし、精気に満ちているし。
その後、走る歩数にも、少し力がみなぎったような、そんな感じがする。
外に出た。川の横を、太陽に照らされながら走っている時、ひらひらと飛ぶ個体があった。
あっ、ホタルガだ。
こいつは、黒い羽に白い帯が入っていて、それがチラチラするし、アタマが赤くて、きれいなんだけど、何となく、夜の感じがする。人生の真っ直ぐがやがて挫折して、いろいろ発酵したり、鬱屈したり、れがまた内に籠もったりして、チーズのような匂いがするような、そんな気がする。
子どもの頃、蝶を追いかけていて、ホタルガが飛んでくるとうわーっと逃げたくなったのは、そんな大人の雰囲気に感染していたからだろう。
いやあ、まいったね。たっぷり走って、汗かいちゃったよ。
仕事へ向かうその道筋、5歳くらいの男の子と、お母さんが歩いていた。
お母さんが、「将来何の仕事をするの」みたいなことを言っている。そしたら、男の子が、「ぼく、ガソリン屋さんになる!」と即答した。お母さんが、「まあ、いいわね。素敵ね」みたいなことを言っている。
「ガソリン屋さんになる!」
男の子の心の中に、何か輝いているものがあるのだろう。
男の子が、精気に満ちたクロアゲハになって林の中を飛んでいる。
人生には、ホタルガのような時間もあって、それはそれで味わいに満ちていいのだけれども、誰でも、自分の「ガソリン屋さん」に出会うと、クロアゲハの飛翔をやがてたどるんだろう。
電車に乗って、ぼくはiPadを開き、熱心に仕事を始めた。「今、ここ」にしか、信じられるものはないから。
10月 12, 2011 at 06:51 午前 | Permalink
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