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2011/09/16

マエハラとエビハラ。

講演の前に、工場の様子を少しだけ窓から見た。

すごかった。SFみたいだった。

「ここは、柱がないんですよ。」

「どうしてですか?」

「いや、装置のレイアウトを、自由に変えられるように」

「あっ、なるほど。」

「あの上を行き来しているのは、リニアモーターなのですが、ああやってプロセスを行ったりきたりしているのです。すべてが自動化されている。これだけ大きな工場で、ある時点で中に入っている人間は二十人たらずなのです。」

宇宙服のようなものを着た人が、あちらこちらと歩き回っている。

「CCDがCMOSになって、消費電力も画質も改善されたのです! これは井深賞を受けました!」

最先端の半導体工場の科学と技術の集積に、ぼくはただ感動していた。

懇親会は、ユウベルというところでやるのだという。

「ユウベル?」

「温泉があるんです!」

温泉と聞いて、ぼくはもうTシャツでも脱いでしまいたい気分だった。

時満ちる。

乾杯!

テーブルをふらふらしていたら、前に、いかにも怪しいシャツを着た男が座っていた。

「うーむ、怪しいなあ。」

「えっ、そんなことないですよ。」

「趣味は何なのですか?」

「映画を観ることですね。血が出るやつ。スプラッター。」

「ほら、やっぱり怪しい! 彼女は?」

「いません。」

「やっぱりなあ。」

「でも、欲しいんです。」

「彼女とも、やっぱり、スプラッター見るの?」

「それは、そういうところでは、妥協できませんから!」

「だめだ、こりゃー!」

みんなが笑っている。その怪しい男も笑っている。それが、マエハラだった。

マエハラは、鹿児島方面から来たらしい。

宴が終わると、みんなが、「バスで光の森に行く」と言っている。

「茂木さんも行きましょう。光の森。」

「ん? 光の森? 光の国じゃなくって?」

「光の森ですよ。」

「そこは、いったい何なのですか?」

「いけばわかります!」

バスにのってふらふらいったら、光の森についた。

そして、なぜだか、カラオケにいった。

「トレーン、トレーン、走っていく、トレーン、トレーン、どこまでも」

と熱唱しているやつがいる。

見たら、そいつはエビハラだった。

そういえば、ぼくは、懇親会の時に、こらっ、と、そのひとの頭をなでなでしていたのだった。

「あのなあ!」

まだ、なでなでしたら、そいつは、なでなでしやすいように頭で迎えにいく。

「こら!」と手を上げると、そいつがあたまをぐんと斜めに突き出す。

いいなあ、このリズム! 手と頭の第一種接近遭遇!

こういう光景は、どこか他でも見たことがある。そうだ、オレの書生、植田工だ。

エビハラくん!

ぐるぐる見ると、マエハラの方はいない。

光の森と聞いて、マエハラは逃亡したのだという。まだ飲んだり食ったりすると思ったのだろう。ああ見えて、案外繊細なところがあるのである、マエハラは。

カラオケ、というのだったら、きっとマエハラは来ただろう、誰かが言った。

残念なことだった。もうちょっとあの怪しさを追究したかったのに!

仕方がないから、ぼくは歌った。

朝の光のまぶしさに 
驚き目覚めたひとたち!

明けて今日、ぼくは出発がはやいからさっきからとっくに起きているが、朝の光はまだどこにもないし、マエハラ、エビハラはどこかに行ってしまった。

もうあと少しで、熊本サヨウナラだなあ。みなさん、ありがとうございました。

9月 16, 2011 at 05:55 午前 |