「こんにちは。しゃぼん玉を飛ばしているのですか?」
逗子の駅からタクシーに乗って、はっと気付くときれいな緑の山の近くを走っていた。
あれっ、鎌倉みたいだな。でも、もっと、そうだ、たとえば印象派の気配を強くしたような。
iPhoneで位置を調べたら、どうやら阿部倉山あたりのようだった。
きっと、そのあたりから海風に吹かれていたらしい。
湘南国際村に近づいたら、運転手さんが「たくさんあるよ」と言う。困ったな、と思って北森さんに電話したら、お出にならない。「センター」じゃないかと思うと言って、腕組みをして、観念した。
「センター」に着いたけれども、玄関の石の冷たさがどうもそうではない気もして、「いろいろの企業のがあるから」と運転手さんが言われても、やっぱりそちらでもないように思う。「あのう、みんなが使うやつです。」
結局、「センター」がやはりそうだった。無事部屋にたどりつく。所さんの隣しか空いていなくて、みんなの後から来たのだからやはりそこに座る。ちょっと緊張するんだよね。
セッションの合間、外に出てぐるりと歩いたら、いい感じの緑地に出た。以前、そうだこんな秋の日に、トンボたちが群れ飛んでいて、その中をおじさんが一人歩いていた、あの時の印象に似ている。
そしたら、フランクがいた。「富士山を探している」という。「富士山? うーん。ぼくは知っているはずだよね。日本人だから。でも、見えない。雲が邪魔しているのかな。」
フランクと話しながらも、不思議な雰囲気の人がいた。海の方を見て、ぶらぶら歩きながら、しゃぼん玉を飛ばしている。次から次へと飛ばしている。
こんなところで、大人が、しゃぼん玉を飛ばしているというのは、あまり見たことがないな。
でも、海から緑の丘に吹いてくる風は、気持ちよくて。しゃぼん玉も、生きもののようにあちらこちらへと揺れて。
そういう時って。あっという間だよね。ブレイクの時間もそろそろ終わりだから、フランクと戻ろうとして、やっぱりあんまり不思議だから、声をかけた。
「こんにちは。しゃぼん玉を飛ばしているのですか?」
「はい、しゃぼん玉を飛ばしています。」
「しゃぼん玉を飛ばすのが好きなのですか?」
「はい、好きです。」
「いつも、そうやって、持ちあるいているのですか?」
「そうです。持ち歩いています。」
「下の、研修室に来たのですか?」
「そうです。ずっと部屋の中にいたから、こうやって、外に来て、しゃぼん玉を飛ばしているのです。」
「ふうむ! どうぞ、楽しんでください!」
「はい!」
緑の丘を、フランクといっしょに下りていく。
どうやって戻るんだろう、と入り口を探したら、「桂」閉店後はドアをロックしますとある。
心配になったけれども、押したら開いて、階段が見つかった。
部屋に戻る。所さんの隣りに座る。磯崎が話し始める。
なんと、マックスウェルのデモンの話題ではないか!
ぼくはすぐに夢中になって、虚空を見つめ始める。外の気配は急速に消えるけれども、しゃぼん玉は確かにまだふわふわと飛んでいる。
9月 13, 2011 at 04:57 午前 | Permalink
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