ハンミョウ
会場について、お弁当をいただいて、すぐにぼくは逃走した。
裏のドアを開けた。そしたら、ごつん。外に人がいて煙草を吸っていらしたのだ。「あっ、ごめんなさい。」「いえ、すみませんだいじょうぶです。」
すぐ裏手に、遺跡の資料館があったことに目をつけていたのだ。瓶型の土器や、勾玉や、いろいろ展示してある。鹿屋のあたりは、太古から住みやすい場所だったのだろう。
資料館の横に気持ちよさそうな小径がある。ここから逃走を続けようと進む。足元からぱっと飛び立つ青い点。
ハンミョウだ!
しかも、すごい数がいる。あちらにもこちらにもハンミョウ。
ハンミョウは子どもの頃あこがれの存在だった。図鑑には普通種として載っていたが、育ったところにはなぜかいなかった。初めて見たのは、京都の金閣寺である。白砂の上をぴょんぴょん飛んでいた。
講演を終え、また裏ドアから逃亡しようとしたら、子どもたちがたくさん来ていた。それで観念して、「ハンミョウ見に行こうぜ」と言ったら、目が輝いた。
「ハンミョウってどんなのですか。」「知らないのか! 今見せてやるよ!」
こっちだよ、ほら、ここ。
さっきと同じように、ぴょんぴょん跳ねている。一人の男の子が、物凄い勢いでキャップを脱いで、ぱっとかぶせた。
危機一髪逃げるハンミョウ。男の子はぱっ、ぱっと元気よくおいかける。
何発目かで、キャップの下に抑えた。男の子がそこからぐずぐずしていたら、近くにいた女の人がぱっと素早く抑えた。「ほらなんとかさんがいった!」と誰かが言っている。
連携プレーで、女の人の手の中にあるハンミョウ。そしたら、「噛みつこうとしている!」なんて言っている。
「ハンミョウは肉食なんだよ。」「そうなんですか。」「きれいない色をしていますね。」「逃がしてやろうか、ハンミョウ」。
車が動き出す。さっきの子どもたちが、手を千切れるくらい振っている。
ハンミョウをつかまえたのはさっきが生まれて初めてだって、彼らは知らないだろうな。ぼくは、ドキドキしていた。
9月 19, 2011 at 06:52 午前 | Permalink
最近のコメント