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2011/09/01

陰謀史観、ビュリダンのロバ

カオルが、最初からぼくを待っていたかのように手を上げた。

「このあたりだったよな。」

いつも、ビルがわからなくなる。「ああ、ここだよ、ここ」

外国特派員クラブの廊下を歩いていくと、右側がぱっと明るくなる。

窓際のテーブルに、すでにヘミッシュが来ているのが見えた。

やがて、シンヤも、レーナも、パトリックも来た。

楽しいランチ。興味深い会話。

シンヤは、明日からベルリン。ネーション・ステートについて、それがいかに相対的な概念に過ぎないか、という点からアートのキュレーションをやり直そうとしている。

「そもそも、ナポレオン戦争以前には。。。。。」

レーナが聞いた。「あなたの、現在のプロジェクトは?」

「リヴァイアサンというのです。」ぼくは答えた。

「自由意志についてどう考えますか?」

ヘミッシュが笑った。「ぼくは、好きだなあ。自由意志についてどう考えますか、という会話が飛び交うテーブルは。」

カオルとパトリックは、教育について熱心に話し込んでいる。

ランチが終わったあと、バーに移って、ヘミッシュと赤ワインを一杯飲んだ。

「日本の電子出版はなかなか進まないけれども・・・」

「そのことについてだけどね、ケン、出版社のせいにするのは、ターキーのご馳走が並ばないのは七面鳥のせいだ、というようなものだよ。」

「どういうこと、ヘミッシュ?」

「アメリカの出版事情を見てごらん。電子出版が進んだのは、アマゾンのせいさ。彼らは、キンドルを買ってもらうために、利益がでなくても廉価版の電子ブックを出した。それで、電子出版が広がった。出版社が、自らの利益を削るようなことをやるはずがない。それは、経済の原則に反する。」

「ここにも、陰謀史観か。どうして、世界はそうなるのかな。ヘミッシュ、ぼくは最近思うけれども、ユダヤがどうしたとか、そういう典型的な陰謀史観以上に、日常的に潜んでいるね。至るところに。」

「原始状態においては、即座に白黒を判断させる必要があったから。細かい理屈付けを認識することは適応的ではなかった。」

人間は、非理性というエンジンなくしては、動くことも感じることもできないのかも知れぬ。

私たちは結局、陰謀史観の塊である。すべてを知った人は、ビュリダンのロバのように、動けなくなるのだろう。

9月 1, 2011 at 05:32 午前 |