少年は大人になり、王冠は雲になった。
夏目房之介さんと連れだって外に出る。
建物の明かりも、届く範囲は限られていて、どこか薄明のようなぼんやりとした感覚があって。その中を、ぼくは房之介さんとゆったりと歩いていった。
見上げると、空の雲がぐんぐんと飛んでいる。
「台風が近づいてきているのでしょうか。」
「さあ、まだ今日は大丈夫でしょうけれど。明日かあさっては。」
そういえば、房之介さんは、どんどん変化していくようなそんな生き方を、「孫悟空のようだ」と言っていたのだっけ。
孫悟空たちが、金斗雲に乗って、新宿上空を疾走している。
「ぼくはね、茂木さん。」
「はあ。」
「昔、妙なことに凝ったことがあって。雲が低く垂れ込めることがあるでしょう。あんな時は、高層ビルが、雲に突き刺さっているのを見るのが好きで、よくこのあたりに来ていたのです。」
「そうなのですか。」
「レストランなんかに行くと、そのすぐ上に雲があったりして。いくら見ていても飽きなかったな。あの頃は仕事場が近かったから、来ようと思えばすぐ来られたのです。」
対談中、房之介さんは、子どもの頃、雨が落ちてできる王冠が大好きで、窓から首を出していつまでもそれを見ていた、と回想していたのだった。
少年は大人になり、王冠は雲になった。そして、沢山の孫悟空たちが、金斗雲に乗って新宿上空を疾走している。
9月 17, 2011 at 08:23 午前 | Permalink
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