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2011/08/22

ハウスをつくること。

帝国ホテルで打ち合わせをしていて、トイレに行こうとしたら、後ろから「茂木さん!」と声をかけられた。

振り返ったら、村治佳織さんがいる。

「あれっ?!」

「昨日スペインから戻ったんです。」

「ここで何をしているのですか?」

「ぼうっとしていたのです。」

今日のニュース。村治佳織さんは、スペインから戻ると、帝国ホテルのロビーでぼうっとしている。

トイレから戻ってくると、もう村治佳織さんはいなかった。

日比谷公園を抜けて、ANAホテルを通って、政策研究大学院大学まで歩いた。

隣りの国立新美術館の建物が、美しく輝いている。

ボクが近づくのを見ると、中にいた学生さんが自動ドアを踏んで開けてくれた。

「わるいわるい。」

ハーバード大学に留学中の小林亮介くんが主催した、日本の高校生のためのliberal artsコース。
http://www.laborders.org/

会場に行くと、たくさんの学生たちがいる。

「ハーバードからは、何人来ているの?」と亮介に聞く。

「20人の学部学生が来ています。」

「20人! よくそんなに来たなあ。お前、偉いよ!」

日本の高校生たちに囲まれた。みんな、好奇心で目をキラキラさせている。

物凄いスピードで、いろいろな話をした。
量子力学のこと、意識のこと、クオリアのこと、日本の未来。日本語と英語の言語政策のこと。カミオカンデのこと。益川敏英さんのこと。英語の勉強の仕方。ピッチの上を、走り続けること。量子計算のこと。計算主義のこと。ヴィトゲンシュタインのこと。ラッセルのこと。

「プログレッシヴ」なマインド・セットに興味を持っているやつがいる。春休みにMITやイェールの授業にもぐりこんだやつらがいる。みんな、スーパー高校生だ。

近くに、ヴァージニア州からハーバードに行ったというジミーと、ニューヨークからハーバードに行ったというアレックスがいた。アレックスに、「なぜコロンビアに行かなかったんだい?」と聞いたら、アレックスは、「コロンビアはハーバードではないから」と言った。

アレックス、亮介、それにジミーといろいろな話をした。オバマ再選の見込み。中東革命。アメリカのティー・パーティーのこと。マーク・ザッカーバーグのこと。ビル・ゲイツのこと。

「いつも、こんなにいろいろな話をしているの?」

「そうです。」

「どこで?」

「ハウスで。ぼくたちのいるのは、キュリエ・ハウスだから。ぼくは神経生物学。彼は政治学専攻で、だけど同じハウスだから、いろいろ話す。」

「ハウスって、イギリスで言えばカレッジみたいなものか。」

「もともと、カレッジのシステムにならって設立されたのです。たいていは誰かの名前がついている。キュリエも同じ。ビル・ゲイツは、キュリエ・ハウスの出身。」

「ビル・ゲイツや、マーク・ザッカーバーグを考えると、ハーバードで最も成功するキャリア・パスは、中退することみたいだね。」

「そうですね。ははははは。」

ぽんぽんと後ろから肩を叩く人がいる。
振り返ると、黒川清先生だった。
黒川先生ほど、若々しくてエネルギッシュな人をなかなか知らない。

物凄いスピードで英語や日本語が飛び交う。愉しい時間はあっという間に過ぎる。

「あっ、もう行かなくちゃ。」

亮介たちが、見送りに来てくれた。

「もともと、去年の日米学生会議の教育分科会でずっとやっていた議論がもとに、開催したのです。」

「偉いな! お前、偉いよ!」

亮介と握手して別れた。

次の用件に向かって、六本木の暗がりを歩く。

人生で大事なのは、ハウスをつくること。

異なるバックグランドの人たちが、大切なこと、本質的なこと、未来につながることについて、語り合う場所をつくること。

ハウスをつくること。

8月 22, 2011 at 07:11 午前 |