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2011/08/26

スカイ・ハイ

午後2時30分過ぎ。シンガポール、チャンギ空港。そろそろ、ゲートの方に行かなくちゃ、と歩いていたら、ディスプレイ画面に釘付けになった。

「バタフライ・ガーデン ターミナル3」と書いてある。

搭乗開始予定時刻まで、あと10分。どうしようと、しばらく迷ったが、やっぱり走った。

でも、どこだか分からない。インフォメーションがあったから、そのお姉さんに、「あの〜その〜つまり〜表示板で見たのですが、このターミナルにバタフライ・ガーデンがあるということで。。。。」

大の大人が、バタフライ・ガーデンに興味を持つ、というのがどう思われるかわからなくて、おずおずと切り出したのだが、お姉さんはあっさり教えてくれた。

「そこのコスメティックスを右に曲がるとあります。」


何の表示もないから、不安だったけれども、暗い廊下を歩いていると、向こうの明るいところにちらちらと動く点があった。

間違いなく、バタフライ・ガーデンだ!

入っていくと、「大の大人」がたくさんいた。ひげ面や、リュックを背負っているのや、カップルや。子どもは一人もいない。

充実している。二階もある。何と七十種類以上の蝶が飛んでいるのだという。

お約束のオオゴマダラや、シロチョウ類、タテハチョウ類など目移りしたが、何しろ搭乗時間が迫っている。走った。

飛行機の上。どこにも所属していない時間。私だけに、属しているその時間。目を閉じて、バタフライ・ガーデンのことを思いだしたら、突然音楽が鳴った。

You, You've Blown It All Sky High
Our Love Had Wings To Fly
We Could Have Touched The Sky
You've Blown It All Sky High

中学校最後の文化祭。ぼくは、島村俊和くんと二人で、「蝶の楽園」を作るのだといって、教室を一つ借りた。なにしろぼくは生徒会長だったから、いちばん日当たりの良い教室を手に入れることができた。

前の日、ぼくは島村くんと八幡神社に行って、網をふるい、たくさん蝶をとって虫かごにいれた。何しろ秋だったから、イチモンジセセリやキタテハが多かったかな。

当日。勢い込んで蝶たちを放した。どころが、みんな明るいガラス窓の方に行って、パタパタやり続けている。目論見では、ひらひらと飛び回るはずだったのが、肝心の教室がガランとしている。

ぼくと島村くんはしばらく呆然とその様子を見つめていて、やがて、どちらからともなく、「放そうか」と言い出した。

窓を開けた。蝶たちが、自由を得て外に飛んでいった。

教室には、島村君が当時凝っていた「スカイ・ハイ」がエンドレスで流れていた。
何もない教室。
大音量のスカイ・ハイ。
蝶たちは、てんでんばらばら。
ぼくと島村くんは、呆然と立ち尽くしている。

「お飲み物は何にいたしますか?」

はっとする。戻ってくる。

飛行機の上。どこにも所属していない時間。私だけに、属しているその時間。

空白の時間に、スカイ・ハイが流れる。人生の「スカイ・ハイ」に乾杯する。

8月 26, 2011 at 09:08 午前 |