日本にはあるんだ!
マイクをつけて出ていこうとしたら、SHELLYが「もぎさん」と、そでに触れた。
「スティームかけておきましょうか。」
しまった。またばれてしまった。「衣裳」(といっても自前だけれども)のジャケットを、リュックの中にくしゃくしゃ丸めて入れていたのが見つかってしまった。
「この人は、ジャケットでもなんでも、ぐるぐる入れてしわだらけにしてしまうのです。」
SHELLYがジェームズ・ダイソンさんにそう説明している。というか、チクっている。
なんてこった。
スタジオ。ダイソンさんは素晴らしかった。例の「サイクロン」の掃除機は、5500のプロトタイプを作ったそうだ。「羽根のない扇風機」、エアマルティプライヤーは、別の目的のために開発していて、たまたまその原理が見つかったのだそうである。
「ほら、内部のこれが回転して、するとここで早い気流が生じる。すると陰圧になるから、後ろから空気を吸い込むでしょう。吸い込んだ空気が全面に押し出されると、viscous shearを通して、また周囲の空気が巻き込まれる。つまり、三段階にわたって、空気がマルティプライ(増倍)されるのです!」
そうか、三段階にわたって、空気がマルティプライされるのか!
ダイソンさんは、表面的に広告や宣伝を工夫しても、仕方がないという考え方だった。本当に良いものをつくっていないと、意味がない。企業の「ブランド」にも懐疑的だった。
「ブランドには、意味がないと思う。結局、最後に出した商品が好きかどうか、ということだけでしょう。」
SHELLYが深く肯いている。そうだなあ。作家でも、ブランドがあるから読むのではない。小説は、一作ごとに勝負。Appleだって、iPod, iPhone, iPadと出してきた商品ひとつ一つで、消費者は尊敬と愛着を新たにするわけだから。
ダイソンさんのお話で心を動かされたのが、日本の製造業のこと。「ものづくり」がほとんど壊滅状態のイギリスにおいて、ダイソンはほとんど例外と言っていいほどのエッジの立った存在。それに比べて、日本は部品メーカーなどのサプライ・チェーンが充実している。つまり、インフラがある。
必要なのは、エンジニアリングとデザインが一体となったイノベーションの文法。単に「みかけ」の「かっこよさ」や「美しさ」ではなく、背後にある科学や技術がそのまま斬新さにつながる、つまりはダイソンの「サイクロン」掃除機や「エアマルティプライヤー」扇風機のようなものをつくれば、日本のサプライチェーンが生きてくる。みんながうるおう。
ダイソンさんの目を通して見た日本の未来は、明るく輝いているように感じられた。必要なのは、インスパイアされた努力の継続だ。
あるんだよ。必要なものは、日本にあるんだ! たくさんの、町工場たち。おじさんの、輝く瞳。額に光る汗。あるんだ、日本にはあるんだ!
ダイソンさん、ありがとう。
(ダイソンさんとのお話は、日曜深夜のテレビ東京系列の番組 Tokyo Awardで放送される予定です)
8月 31, 2011 at 07:46 午前 | Permalink
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