海老蔵さんの「富樫」。
市川海老蔵さんの、新橋演舞場における7月歌舞伎公演(昼の部)を見た。
久しぶりの復活。その演目に、おとうさんの団十郎さんとの競演となる『勧進帳』を選んだことに、海老蔵さんの並々ならぬ思いを感じる。『勧進帳』は、市川家にとって、大切な演目。海老蔵さんは富樫を演じた。
役者としての市川海老蔵さんの卓越した点は、何よりもその立ち姿の美しさだろう。舞台に現れるだけで、客席からほっとため息が出るほど凛として美しい。そして、お父さんが演じる弁慶とのやりとりを通して感じられたのは、まるで水の中の魚のような優美な動きだった。
剛胆であると同時に、繊細。口跡も魅力的。せりふ回しに安定感がある。全体として、この世のものとは思えない、妖精のような風情がある。舞台の上の役者というものは神に通じる存在であり、日常とは隔絶しているのだと改めて思わせる好演。
そして、何よりも目の表情。弁慶を見破って、しかしそれを見逃す流し目に、客席がどよめいた。目力がそのまま芸術になる。本当にいい役者だな、海老蔵さん!
続く「楊貴妃」は大佛次郎原作。海老蔵さんが演じるのは、楊貴妃が許されない思いを寄せる美男子、高力士。妖艶な人物を、好演しています。勧進帳が「本寸法」の直球だとすれば、こちらは夜に咲く花のようで、とても良いコントラスト。
昼の部、他には右近さんの「鳥居前」。猿之助さんと一緒に奮闘されていた頃から右近さんを見てきた者として、いろいろな感慨が起こる、素晴らしい舞台でした。
7月 5, 2011 at 09:27 午前 | Permalink
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