有吉伸人さんの送別会でのスピーチ(要旨)
NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』を立ち上げ、チーフプロデューサーとして番組を引っ張ってきた有吉伸人さんのご栄転に伴う送別会が2011年6月20日(月)に東京、渋谷で行われました。
『プロフェッショナル 仕事の流儀』は、引き続き、新たにチーフプロデューサーとして赴任される山本隆之さんの下でチーム一丸となって制作されます。番組はさらにパワーアップして続きますが、「産みの親」である有吉伸人さんのご栄転は、「一つの時代」の終わりを感じさせるものでした。
哀しい。さびしい。時は容赦なく過ぎていきます。そんな中で、ありし日々を想う、そんな機会があります。
有吉伸人さんの送別会での、私のスピーチの要旨は、次の通りです。
「内田樹先生によると、先生というものは、自分にとって、何を教えてくれるかわからないけれども、何かを学べる気がする、そんな存在だということです。その意味では、有吉伸人さんは、私と同じ年齢ではありますが、私にとってずっと先生でした。」
「有吉伸人さん、そしてここにいらっしゃる皆さんから、私は、テレビの番組作りの奥深さ、プロとしての情熱の凄まじさを学んだように思います。テレビというものは、世間ではどうしてもとやかく言われたり、浅く見られたり、もうテレビなどは終わりだ、などと決めつけられたりします。私自身も、別の文脈では、テレビは終わりだ、と言ったりしますが(会場の笑い)、みなさんとお仕事をする中で、番組制作の奥深さ、素晴らしさを学ぶことができたように思うのです。」
「有吉伸人さんが、番組作りについて考えていることは、あまりにも高度で奥が深すぎるので、正直、私も、まだその一端さえ判っているとは思えません。一度、有吉さんを朝日カルチャーセンターにお呼びして対談させていただいたことがありました。私としては、脳科学者としての叡智の限りを尽くして(会場の笑い)ベストな質問をしたつもりだったのですが、終わった後で、有吉さんは、茂木くん、チミもまだまだ甘いね(会場の笑い)、基礎的な質問ばかりだったね、もう少し深い質問が来ると思っていたよと(会場の爆笑)言いました。」
「その通りなのでしょう。私は、有吉さんが『プロジェクト X』や『プロフェッショナル』を立ち上げる中で発揮してきた、番組作りの哲学、思想の奥深い世界の入り口に立っているだけなのかもしれません。永平寺の門前、雨や雪の中立って入門が許されるのを待つ僧侶志望者たちのように、私は有吉さんの前に立っていましたが、ついに入門が許されなかった(会場の笑い)、その意味では、私は、漱石の『門』の宗助のように、門の前にたたずむ人だったのでしょう。」
「ところで、(会場は何事かという雰囲気)、スイカは、塩をかけるとより甘くなると言います。人間も、欠点がある人の方が、かえってその人の魅力がより深いもののように感じられるのではないでしょうか。そこで、ここで、有吉伸人さんの三大欠点を暴露するとともに(会場の爆笑)、脳科学的な解析を加えたいと思います(会場からの拍手)。」
「有吉伸人さんの欠点の第一、それはズバリ、自分の欲望を抑えることができない(会場の笑い)、ということであります。ご存じのように、有吉さんはいつも自分の体重を気にしていまして、オレはもう絶対に鶏の唐揚げを食べない、と宣言するのを何度聞いたことでしょう。ところが、打ち上げの時に、ほら、これ有吉さん専用、と鶏の唐揚げを目の前に置くと、眼がらんらんと輝いて、間髪を入れず、ためらいもなく箸をのばす。そして、こちらが唖然としているうちに、あっという間に平らげてしまう。そんな有吉伸人さんは、唐揚げを食べたい、という自分の欲望と、自分自身の間に壁をつくらない、欲望に忠実な男なのであります(会場爆笑、拍手)。」
「有吉伸人さんの第二の欠点、それは、自分だけの世界をつくってしまう、ということであります。ご存じのように、有吉さんは、サッカーが何よりも好きです。それで、日本代表戦の日など、世間ではもうとっくに結果がわかっているというのに、試写や編集で生では試合を見れず、録画しておいた試合を、結果を知らないままに見たいがために、一切結果が目に入らない、耳に入らないように異常なまでの努力をする。誰かが、有吉さん、今日の試合・・・と言おうとするものなら、あーっ、お前、オレに曽の話をするなあ〜、と耳を押さえる。まさにファンタジスタ、世間の客観的状況とは異なる、自分だけのタイムシフトで幻想の世界に浸ろうとする、これぞまさに、オタク魂、創造的引きこもりの極致と言えましょう。」
「最後に、有吉伸人さんの第三の、そして最大の欠点と言えば・・・まあ、私自身は、そのとばっちりを受けることはあまりなかったのでありますが(会場ざわざわ、くすくす)、そう、みなさまご存じのように、怒りを爆発させることであります。有吉伸人さんの求めるもののレベルが余りにも高いがために、それに達しない人を見るといらいらしてしまうのでありましょう。」
「打ち合わせの時や、収録の時など、何度有吉さんの爆発を見たことでありましょう。怒りのマグマが溜まっている時には、すぐにわかります。有吉さんにフリスクをあげると、いつもはありがとう、などと笑っているのですが、怒りのマグマが爆発寸前の時は、ん? てな感じでほとんど気付かない表情で受け取って、眼はもう血走っていて、スタジオの中の中に視線を走らせている。そんな時は、くわばらくわばら、ぼくもとばっちりを受けないようにトイレに隠れてしまうのであります。」
「まあ、その、怒りは創造の源泉とも言いますから(会場爆笑)、PDの方々は、怒りのエネルギー源を提供することで、有吉さんの創造性に寄与していたのでありましょう。(会場から拍手)あ〜脳科学者としては、とりあえずそのように断言してしまうのであります(会場爆笑)」
「こうして、有吉伸人さんとの日々をふり返っていますと、それが終わってしまうということが信じられない思いです。哀しく、さびしい。プロフェッショナルにかかわらせていただいた4年3ヶ月のことは、一生忘れません。有吉さん、あなたは私の先生であり、かけがえのない友人であり、戦友でありました。これから、新しい場所でも、すばらしい番組作りを続けられると思いますが、どうぞ、ますますご活躍ください。おじさん温泉行きましょう。そして、有吉さんとの飲み会では、唐揚げの発注を怠らないことと、日本代表戦の結果については不用意に口にしないことを、お約束いたします。長い間お疲れ様でした。そして、ありがとうございました。」
(有吉さんと握手、ハグ)
しゅりんくっ! 『プロフェッショナル 仕事の流儀』スタジオ収録の控え室で、ぷれいりーどっぐくんのように立ち上がる有吉伸人さん。この瞬間、有吉さんはいやなことなど全て忘れているのです。
6月 21, 2011 at 11:46 午前 | Permalink
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