ポンペイ・レッドの残光が、喜雨の飛び跳ねるカエルたちに重なる。
忘年会だというので白洲信哉の家に行き、床に座って呑み始めてしばらく経ち、はっと気付くと、いつもは熊谷守一の「喜雨」がかけてある場所に、何やら赤い妙なものがある。
「これは何だ?」
釘付けになった。となりにいたMIHOミュージアムの金子直樹さんが焚きつける。「茂木さん、これ何だと思います? 難しいですよね〜」
何かはわからないが、見ればみるほどほれぼれとする。全体として深い赤であり、左上の方に、太陽のような薄い模様がある。右下の方には薄暗くて深い森があり、その一部分が剥落して地が出ている。
そうして、森の中を泳ぐように、魚が描かれている。うまい線だ。ひっかいたように、薄く、しかしくっきりと。
「うーむ」
わからない。ロスコに似ている部分もあるし、クレーやミロを思い起こさせる点もある。サイズがこんなに大きくなければ、ターナーの「シーモンスター」に似たような印象の部分がある。
唸っていると、となりの金子さんがにやにや笑い、信哉が、台所との間を行ったりきたりしながら何やらいろいろ言っている。
「降参!」
ぼくはついにサジを投げた。信哉が嬉しそうに宣告する。「ポンペイ・レッドですよ。写真。」
「えっ? ポンペイ行ったよ。こんな壁なかったけれどなあ。じゃあ、この魚は誰かのいたずら描きかい。」
金子さんも笑いだす。ぼくはずっと首をひねっていたので、知恵熱が出た。
「ははは、楽しかった、もういいでしょう」
というので、信哉がいつもの守一の喜雨をかけてくれた。
ポンペイ・レッドの残光が、喜雨の飛び跳ねるカエルたちに重なる。
そのうち金子さんが眠り始めたので、仕返しにほっぺたにナルトの渦を描いた。おでこは失敗して「の」の字になった。
えへへ。金子さんは気付かずに笑っている。信哉の目が妖しく輝き始める。
12月 28, 2010 at 08:29 午前 | Permalink
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