あさりのお兄ちゃん
研究所から連れ立って、ひさしぶりに「あさり」に行った。
あさりは、五反田駅からソニー通りをしばらく行ったところにある。ぼくたちにとっての聖地。ゼミのあとにあさりに行くことができれば、もうそれは幸せ。ぼくが忙しくなってしまって、なかなかその機会が訪れないのだが。
学生たちと飲むことは、とても大切。他愛もない話をしながら、彼らの生きるリズムみたいなものを探る。元気なのか、何を考えているのか、どんな興味を持っているのか、将来に不安はないか。「よし、がんばろう」と確認する。何か伝わるんだよね。
あさりには、ずっと、「お兄ちゃん」がいた。色の黒い、元気なお兄ちゃん。明らかに外国の人だと思っていたから、流暢な日本語でてきぱきと働く様子に最初はびっくりした。
ぼくはせっかちだから、ビールが運ばれてきたあと、すぐにつまみを注文しようとすると、兄ちゃんは、「まあ、一つ、乾杯してからにしてください」と促す。本当に気の良い、よく気付くお兄ちゃん。ぼくたちにとってのあさりは、お兄ちゃんなしには考えられなかった。
そのお兄ちゃんが、バングラデシュに帰ってしまったと聞いたのは、半年ほど前。お母さんの調子が悪かったのだという。未だ見知らぬ、遠い国。お兄ちゃんは、どんなところにいるのだろう。大切な人が、人生から消えてしまったように感じる。
あさりのおやじさんと喋った。お兄ちゃん、あさりには20年もいたのだという。そんなに長くいたんだから、きっと、日本の女の人と結婚しているのかと思ったら、実は独り身だったのだという。
気の良いお兄ちゃん、どんなことを考えて、何を感じて日本で働いていたのかな。
「まあ、一つ、乾杯してからにしてください」という、お兄ちゃんの言葉がもう聞けないのが残念。人生においてかけがえのないものは、それが消えてしまってから初めてわかる。
あさりの兄ちゃん。2008年11月28日。
あさりの兄ちゃん。2009年5月22日。
9月 30, 2010 at 07:42 午前 | Permalink
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