『文明の星時間』 茶の本
サンデー毎日連載
茂木健一郎
『文明の星時間』 第124回 茶の本
サンデー毎日 2010年8月8日号
http://mainichi.jp/enta/book/sunday/
抜粋
先日、ある大学で授業をした時、将来は何をしたいかという話になった。とりわけ、国際社会の中でのプレゼンスが年々低下している日本の地位を上げるために、どんなことができるかということが話題になった。
一人の学生が立ち上がって、「ぼくはお茶を習っているので、お茶の価値を世界に広めたい」と発言した。手を挙げてみんなの前で意見を表明した勇気は買うとしても、私はその考えは何となく甘いな、と思った。そうして、こう言った。
「茶道は、もう、日本の文化の中でエスタブリッシュメントとして確立しているじゃないか。国際的にも、評価されている。価値が定まっているものを広めると言っても、そこには困難はないよね。君は、折角若いんだから、まだ評価が定まっていないもの、今は片隅に密かに隠れているものをこそ、表舞台に登場させるべく努力した方がいいのではないか。」
気の毒だとは思ったが、私の本音の気持ちだった。すでに確立したものを褒めても仕方がない。敢えて言えば、少しずるい。若者が本当に志すべきものは、価値における下克上ではないか。そんな思いがあった。
たとえば、ここ数十年の日本で起こった最大の「下克上」の一つと言えば、子どもが読むものだと見下されていた「マンガ」や「アニメ」の評価がすっかり変わり、大学での研究対象になったり、国際的にも日本を代表する「文化財」になったことだろう。すぐれた作品を送り出してきた関係者の努力には、頭が下がる。文化的な事件というものは、すべからく、このような価値の逆転を旨とするものでなければならない。
「茶道」は、確かに素晴らしい芸術である。無限の奥行きがあり、真実の開示がある。しかし、その「茶道」も、その地位の確立の過程では「価値の逆転」があった。
全文は「サンデー毎日」でお読みください。
イラスト 谷山彩子
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7月 28, 2010 at 10:02 午前 | Permalink
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