理性の落ち着きのなさ
ハーバード大学のマイケル・サンデル教授(Michael Sandel)が人気講義(Justice )の第一回で言っているように、さまざまな倫理的な判断の背景を問うことには、二つのリスクが伴う。
すなわち、個人的なリスクと、政治的なリスクである。
個人的なリスクとは、自分が今まで当たり前だと思っていたことの前提が揺らぐということである。
政治的なリスクとは、社会の中での地位を築いたり、有益なことを成し遂げたりといった意味での実際的な意義を失うことである。
当たり前だと思っていた倫理的判断の基礎が、曖昧で不確かなものでしかないと気付いた時、私たちの内面に、驚くべき変化が生まれる。
サンデル教授の言うThe restlessness of reason(「理性の落ち着きのなさ」)が、私たちの中に生み出されるのである。
「理性の落ち着きのなさ」は、私たちが見る世界を流動化させるだけではない。私自身の存在をもまた、流動化させる。
それは、ジェット・コースターに乗ったような目眩のする経験かもしれないが、同時に、かけがえのない贈りものでもある。
すべての学問は、実に、この「理性の落ち着きのなさ」を生み出し、構造化し、再び流動化するための手続きだと言っても良いのだ。
マイケル・サンデル教授
(Justiceは、『ハーバード白熱教室』として、NHKで放送中)
5月 22, 2010 at 07:48 午前 | Permalink
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