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2010/05/03

不意打ちのアビーロード。

ケンブリッジからロンドンに向かう車の中で、うとうとと眠っていた。最初はがんばって夕暮れの美しい田園風景を見ていようと思っていたのだけれども、何度も通った道だから、つい安心して、いつの間にか意識を失ってしまっていた。

はっと気付くと、車は、美しい住宅街のような場所にいた。一つひとつの家が薄暮の中でも白くて、大きくて、そうして堂々とした風格がある。確かにロンドンなのだろう。しかし、空が広々としている。

ホテルの近くに着いたのかな? とぼんやりしていると、車の前の方の席に座っている人たちが(ぼくたちは全員で8人だった)、「アビーロード」がなんとかかんとかと言っている。

「アビーロード!」

急に目が覚めて、がばっと起きた。

右の方を見ると、見覚えのある横断歩道がある。そうして、何人かの人たちがそこに集っている。二人が飛び出した。歩道の途中で、歩いている途中の格好をする。カメラを持った人が走っていって、パシャと撮る。向こうからバスが来る。慌てて人々がロードサイドに戻る。

ぼくも、自分のデジカメを取り出して、窓越しにパシャパシャ夢中で撮った。

車が走り出す。アビーロードが、世界の中を動いていく。

すべての出会いの中で、最高なものは「不意打ち」だと古来言う。

不意打ちのアビーロードは、魔法の祝祭を持って、ぼくの魂に天上の気配を運んできてくれた。

その時、地上のありふれたものたちがほんの少しだけ軽くなるのだ。ほんの少しだけ。

5月 3, 2010 at 03:26 午後 |