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2010/05/19

『文明の星時間』 トリニティの庭

サンデー毎日連載

茂木健一郎  
『文明の星時間』 第114回  トリニティの庭

サンデー毎日 2010年5月30日号

http://mainichi.jp/enta/book/sunday/ 

抜粋

 フェローと、そのゲストだけがその上を歩くことができる芝生。青々と、見とれるほど綺麗に整えられている。歴史を感じさせる建物の壁に、ウィステリアの紫の美しい花が映える。枝振りや、根元のあたりの風情など、何とも言えない味わいがある。
 生け垣の木々は青々と茂り、それでいて幾何学的な秩序を保っている。いや、単なる幾何学ではない。少なくとも、単純なそれではない。
 放っておけば、植物たちはどんどん繁茂してしまう。一方、人間はその植物の生命力を整え、導こうとする。庭を整えることは、文明が進んだ今日においても、きわめて「労働集約的」な営みである。トリニティの庭もまた、不断の努力があって初めてその美しさが保たれている。
 植物たちが持っている、どんな制約でもそれを超えてしまう生命力と、そこに加えられる人間たちの工夫と作用と。植物と人間の「せめぎ合い」の結果生み出された景観の、何と麗しいことか。
 なぜ、今まで気付かなかったのだろう。ニュートンがプリズムを使って「光学」の実験をしたという部屋。カレッジに広大な敷地を提供したというヘンリー八世の肖像画。インドからケンブリッジにやってきた不世出の天才数学者、ラマヌジャンを記念するプレート。そんなきら星のような伝統に目を奪われて、私は今までトリニティの庭を、その植物たちの様子を、きちんと見たことがなかった。

全文は「サンデー毎日」でお読みください。


イラスト 谷山彩子

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5月 19, 2010 at 07:48 午前 |