« 白洲信哉と大切なこと | トップページ | 脳のトリセツ 日本人は「夢遊病者」? »

2010/05/14

『文明の星時間』 ショパンの望郷

サンデー毎日連載

茂木健一郎  
『文明の星時間』 第113回  ショパンの望郷

サンデー毎日 2010年5月23日号

http://mainichi.jp/enta/book/sunday/ 

抜粋

 クラクフ滞在中にふと耳にした一つの言葉が、耳にこだまする。
 「ショパンがヨーロッパで活躍している間、ポーランドは列強に分割され、国として存在していませんでしたから。」
 ドイツやロシアという大国の狭間で、揺れ動いてきたポーランド近代史。分割され、侵入され、踏みにじられ。そのような歴史は、弱肉強食の世界観の下では「脆弱さ」ととらえられがちである。弱いから、十分に自分たちを向上させなかったから、侵略されたのだと。
 しかし、話は逆ではないか。ポーランドの人々のやさしさに触れながら、私はそのようなことを思わずにはいられなかった。そもそも、自分たちの武力を増強して、他国を侵略しようなどとは思わない人たち。他国が攻めてくるからと、守りをガチガチに固めてしまうような、そんな過剰な反応をしない国。そのようなやさしき存在があったとしても、それは良いのではないか。
 むしろ、自分たちを守ったり、他者を攻撃したりというような思考の回路に向かわないからこそ育まれる文化がある。密やかな、強く主張しない、あくまでも繊細なニュアンス。自分や他人の中の弱きものを思いやる心。子どもの時から耳にして親しんでいたショパンのピアノ曲に、新しい意味合いが加わった。
 祖国ポーランドで蜂起が失敗したという知らせを聞いて、『革命のエチュード』を作曲したショパン。メロディーが疾走し、次第に思いが募っていく。この世の限りある生を、自分の身を挺して生きる。バッハにも、モーツァルトにも、ベートーベンにも決して見いだされなかった響き。ショパンの音楽の独創性と、ポーランドという国の受難と情熱が無関係であるとは、私には思えない。

全文は「サンデー毎日」でお読みください。

本連載をまとめた
『偉人たちの脳 文明の星時間』(毎日新聞社)
好評発売中です。

連載をまとめた本の第二弾『文明の星時間』が発売されました!

中也と秀雄/ルターからバッハへ/白洲次郎の眼光/ショルティへの手紙/松阪の一夜/ボーア・アインシュタイン論争/ヒギンズ教授の奇癖/鼻行類と先生/漱石と寅彦/孔子の矜恃/楊貴妃の光/西田学派/ハワイ・マレー沖海戦/「サスケ」の想像力/コジマの献身/八百屋お七/軽蔑されたワイルド/オバマ氏のノーベル平和賞/キャピタリズム

など、盛りだくさんの内容です。

amazon

5月 14, 2010 at 08:42 午前 |