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2010/04/04

白洲信哉、ソフトクリームの流儀

白洲信哉の流儀には、まだ先がある。

酒を飲みながら「やせがまん」について話していた。

「じれっていなあ。そばなんてものは、そうやって、汁にグズグズつけて喰うもんじゃねえ。こうやって、ちょこっと汁につけて、ザザザザザって喰っちまうんだ」と言っていた江戸っ子が、死の床に就いて、「何か思い残すことはないか」と聞かれて、「一度でいいから、そばを汁にたっぷりつけて食べてみたかった」という。

そんな落語みたいな「やせがまん」はないか、と白洲信哉と話していたのである。

こんなバカ話をしている時が、酒を飲む際一番楽しい。

となりでは、佐々木厚さんがにこにこしながら聞いていて、時折口を挟む。

ぼくは、信哉に、「やせがまん」をしていることを、いくつか話してみた。

たとえば、本当は、少女漫画をマンガ喫茶にでも行って思う存分読んで見たい。「ガラスの仮面」というのが面白いとは前から聞いているけれども、読む機会がない。マンガ喫茶に行って、珈琲でも飲みながら、1時間でも2時間でもかけて、一気に読んでみたい。

そんな風に言ったら、「なんですか、それは?」と白洲信哉は理解したがい、という顔をした。

そもそも、「マンガキッサ」というものが何なのか、信哉は知らないのだろう。ぼくも、実際にはしりあがり寿さんと取材で一回行ったことがあるだけなんだが。

「それからねえ、ソフトクリームも、本当は食べたいのに、がまんしているんだよ。というのも、食べているうちに垂れてくるのがイヤだから。コーンのよこを、ツーとクリームが流れていくのが、とてもイヤだ。だから、ソフトクリームを本当は食べたいのに食べない。」

私がそういうと、信哉は「バカだなあ」という。

「ソフトクリームなんていうのはね、最初が一番うまいんだよ。手に取って、上の方をぺろりと舐めるのが、一番うまいんだよ。」

「そんなことはわかっているよ。そのあと、クリームが垂れてくるから、いやになっちゃうんだよ。」

「だから、ソフトクリームを二三口なめたら、ハイ、ってとなりにいるやつにあげればいいじゃないか。そんな簡単なこともわからないのか!」

私は絶句した。

白洲信哉の流儀。ソフトクリームは、最初の二三口に限る。そのあとは、となりの人に「ハイ!」ってあげてしまいなさい。

これまで生きてきて、そんな手があるとは、思いもつかなかった。

白洲信哉、ソフトクリームの流儀。

たいへん素晴らしい生き方のヒントを教えてもらった。
しかし、残念なことに、私には実行できそうにもない。


愛車のアルファ・ロメオを運転中の白洲信哉氏(2009年5月)

4月 4, 2010 at 09:04 午前 |