『ジークフリート』
『ジークフリート』第三幕が、ワグナーの音楽の最高峰である。そのように考えるようになったのは、いつからだろうか。
ジークフリートがブリュンヒルデを目覚めさせる。ブリュンヒルデの意識がもどる。ブリュンヒルデが、世界に対して挨拶する。
Heil dir, Sonne!
Heil dir, Licht!
Heil dir, leuchtender Tag!
Lang war mein Schlaf;
ich bin erwacht.
Wer ist der Held,
der mich erweckt'?
太陽よ、祝福されよ!
光よ、祝福されよ!
光り輝く日よ、祝福されよ!
私の眠りは永かった。
今、私は目覚めた。
誰でしょう、
私を目覚めさせた英雄は?
この瞬間から、ブリュンヒルデがジークフリートの胸に飛び込み、二人が
leuchtende Liebe,
lachender Tod!
光り輝く愛、
笑いながら死ぬこと
と二重唱する幕切れまでの音楽は、掛け値なしにすばらしい。
2010年2月17日、山崎太郎くんと一緒に新国立劇場で『ジークフリート』を聴いた。
新国立劇場ができて、どんなにありがたいことだろう。以前には、日本では聴くことが難しかった水準のオペラ上演に接することができる。
山崎太郎くんも、「この上演ならば、バイロイトでもどこでも出して恥ずかしくない」とつぶやく。
幕切れの音楽は、ニーチェ的だと前から感じていた。
山崎くんがあることを思い出した。ニーチェがトリープシェンにワグナーを訪ねたとき、ワグナーは、ちょうどブリュンヒルデの歌唱
Verwundet hat mich,
der mich erweckt!
私を目覚めさせた者が、
私を傷つけた
の部分をピアノで作曲していたというのである。
ワグナーとニーチェの関係を考えると、あまりにもよくできたエピソードである。
ワグナーは、この『ジークフリート』を、二幕の途中まで作曲して、そこで中断してしまった。『トリスタンとイゾルデ』、『ニュルンベルクのマイスタージンガー』という二つの作品を経て、ようやく再開する。ニーチェは、そこでワグナーと出会った。
『ジークフリート』第三幕は、ニーチェの哲学と明らかに呼応する。とりわけ、
leuchtende Liebe,
lachender Tod!
という幕切れは、『ツァラトゥストラはかく語りき』のようだ。
日本で、ごく当たり前のようにこんなものが見られるというのは、実にありがたいことだと思う。
今シーズンの新国立劇場の『ジークフリート』上演は、あと二回。パンフレットには、私と山崎太郎くんの『ジークフリート』に関する対談が掲載されている。
2月 18, 2010 at 07:43 午前 | Permalink
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