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2010/02/27

他者に対する「リスペクト」 藤井直敬 『ソーシャルブレインズ入門』

他者に対する「リスペクト」


藤井直敬 『ソーシャルブレインズ入門』 <社会脳>って何だろう 

講談社現代新書 2010年2月19日

 藤井直敬さんは、『ソーシャルブレインズ入門』で、今脳科学に静かに起こりつつある革命についてわかりすく解説する。

 一つひとつの脳を切り離し、コントロールされた実験室環境に置き、特定の文脈の中で神経細胞がどのように活動するかを観察する脳科学の方法は、多くの成果を収めた。『ソーシャルブレインズ入門』は、そのような過去の成果を踏まえつつ、さらに新しい領域へと踏みだそうとする。

 周知のように、人間は社会的動物である。本書に引用されているように、ハーロウの子ザルに関する古典的実験は、たとえ栄養が満たされていてもその上に関係性欲求が充足される必要があることを示した。人間は、猿よりもさらに複雑な社会性を発達させた。脳を社会性の文脈において考えることは、いわば論理的な必然である。

 藤井さんは、社会性の文脈における脳のふるまいを、継続的、俯瞰的に見ることの必要性を強調する。そうして、「独創的な実験的研究が行われている研究室には、必ず独自に開発した実験装置がある」という経験則に違わず、ECoGを用いて脳活動を計測するという新しい試みについて語る。藤井さんのグループの研究を記述した章は、未来への胎動の確かな手応えに満ちており、今後の展開を期待させるものである。

 人間の社会性には、暗黒面もある。イェール大学のスタンレー・ミルグラムが行った「ミルグラム実験」や、「スタンフォード監獄実験」に関する解説は、社会性が時に暴走するという負の側面を描いて迫力がある。そのような暗黒面を見据えつつ、最後に、他者に対する「リスペクト」こそが社会的関係性の基礎だと論ずる著者の姿勢に共感した。

 社会的な文脈で脳の機能を議論する時に必ず持ち出される「ミラーニューロン」について、その重要性を認めつつ、実験的な手法の問題点について技術的に論じた箇所は、情報としての価値が高い。また、社会的振る舞いの説明原理としての「認知コスト」など、著者が長年の研究から構築してきた理論的なアイデアについての議論も、大変興味深い。

 人間の社会性の起源を脳の働きからどのようにとらえるか。この重要な問題に興味を持つ全ての人に、一読を勧めたい。
 


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Ken Mogi 2010 Uncomissioned.

2月 27, 2010 at 12:11 午後 |