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2009/07/27

それだけ大きい

奈良へ。

東京書籍の植草武士さんの
企画で、黛まどかさんとの対談本の取材。

文章化を担当するのは、名手、大場葉子さん。

奈良の観光大使をされている海豪うるるさん も参加。

黛まどかさん、植草武士さん、写真家の南浦護さん
大場葉子さん、海豪うるるさん、私の6名を、
中東弘さんが春日山の原生林へと案内くださった。

中東弘さんは、40年以上にわたって
春日大社の神官をつとめられ、権宮司を
された後、今は大阪の牧岡神社の宮司を
されている。

まずは春日大社を参拝。

春日大社は、国宝や重要文化財に
指定されているため、伊勢のように新しい社を
造営する、ということはないが、
20年に一度の「遷宮」で補修をする。

禰宜の西村泰宏さんによると、その際の
手続きが事細かに決められているのだという。

たとえば、御本殿にかかっている6つの
鏡のどれをどのような順番で動かすのか、
その仔細が定められている。

守って実行しようとすると、儀式以外の
余計なことを考えられない。そのようにして
神事に専念させるという効果が
あるのではないかと、西村さんは
言われる。

山へ。

入り口から、どんどん登っていく。

途中、黛まどかさんが所用のため
引き返し、残りの6人で奥へと向かう。

目指すは、春日山の「主」とも
言える樹齢1500年の大杉。

細い山道へと分け入り、険しい斜面を
登って杉の倒れた後に
たどり着く。

「ここから先は、急斜面を降りますから、
荷物は置いていってください。」
と中東弘さん。

リュックを置き、中東さんに続いて
降りる。

滑るように降りていった先に、
その見上げるような大杉はあった。

中東さんが祝詞をあげる。

頭を垂れる。

周囲の生きとし生けるものの
ありさまが、ありありと手に取るように。

一つ、アクシデントがあった。

大杉への最後の急斜面を下っている時、
手に持っていたカメラが立木にぶつかった。

しばらく
下ったあと、衝撃でメモリースティックが
飛び出して無くなっていることに
気付いた。

上りで、そのあたりを探す。
他の5人も一緒に探して
下さったが、どうしても見つからなかった。

「これは、春日の山に奉納ということですね」
と諦める。

幻の写真の数々。

春日大社本殿の、左甚五郎の「捻廊」。

熱心に説明下さる、西村泰宏さんの姿。

黛まどかさんが先に帰るので、
中東弘さんが一緒に降りて、
タクシーを呼んでいるのを待っている
間に、山の斜面で
一匹のアリをずっと追いかけて、
終着の苔むした石まで撮った写真。

中東弘さんが、龍神を祀った社殿の
前で祈りを捧げている端正な姿。

これらの写真が記録されたメモリー
スティックは、春日山の主たる
大杉へと至る、急斜面の
あふれんばかりの落ち葉の
どこかに埋もれている。

心残りだが、仕方がない。

命において、起こったことは起こったこと。

山を下り始めてしばらく行った
ところで、中東弘さんが「何だか
痛いな」と言いながら、
ズボンを持ち上げた。

「あっ、やっぱりいた」。

ヒルが、中東さんの足に
吸い付いている。

中東さんは、慣れた手つきで
ヒルをとる。

まさか、と思いながらも、
自分のズボンをめくってみると、
右足に二匹、左足に一匹、
ヒルが吸い付いていた。

右足のを取ると、血がにじんでいる。

「血が固まらないような物質を
出すんですわ」と中東さん。

植草さんが、「何だかこのあたりが
ひんやりする」とズボンをゆすると、
太ももの上の方から、血をたっぷり
吸ってまるまると太ったやつが
転がり出た。

「ひええ」と植草さん。

調べてみると、結局全員がやられて
いた。

「今のこの世に、ヒルに血を吸われるというのは、
なかなかできることではありませんな」
と涼しい顔の中東弘さん。

「春日山に、ヒルはたくさんいるのですか?」

「まあ、梅雨時にはたくさんいますな。乾燥
してくると、だいぶ少なくなってきます」

ヒルの洗礼を受け、皆衝撃を受けつつも、
なぜか「生きている」という実感は
増したようでもある。

春日山には、かつて、
ルーミスシジミ 
という美しい蝶がいて、絶滅した
とは言われているけれども、
その姿を、木もれ日の当たる木々の
梢とか、ずっと探していた。

下りきって、社殿の近くに来たとき、
中東さんが、「ほら、この木が
ルーミスシジミの食草の
イチイガシですわ」と教えて下さった。

その大木は、枝振りといい、葉の
茂り具合といい、心を溶かすようで。

イチイガシの大木の梢の方に、
飛び回りながら産卵するルーミスシジミの
可憐な姿を思う。

照葉樹林には、ルーミスシジミも、
ヒルもいる。

それだけ大きい。フロイトが明らかに
したように、私たちの無意識も、
生態系と同じくらい、とっても
大きい。

幻のルーミスシジミの姿を
無意識の中から取りだして、
奈良を歩く。

街中で、新しいメモリースティックを
買い求めた。


中東弘さん


(左から)植草武士さん、南浦護さん




(以上四点、海豪うるるさん撮影)

7月 27, 2009 at 08:48 午前 |

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受信: 2009/07/27 21:31:12

コメント

茂木先生

おはようございます
奈良に来られていたのですね
春日大社の奥にあのような神々しい大樹があったなんてしりませんでした
一千年以上生き続けている樹は人間の生き死にを繰り返し何度も何度も見届けて来ているんですね…すごいことです
人の人生なんて短いものです
でもこの世に生まれ今を生かされてる当たり前にみうて当たり前でない奇跡を
しっかり噛み締めて
心のアンテナをしっかり立てて
自分の使命を果たしたい

無意識(ほんとの自分)を大切に日々生活していきたいものです

今日もよい一日をお過し下さい

投稿: | 2009/07/28 8:59:26

茂木先生、おはようございます♪


先生のメモリーが森の何処かで眠っていることに心のうぶ毛をすっかり、くすぐられてしまいました。 みれたかもしれないのに、みれなかった世界。先生は何に惹かれ何を写したのだろうと、意識の奥へと導かれていくのです。


文章から受けるイメージを楽しませて頂きました。(o^-^o)


ヒルは,,,ちと不気味ですなあ。(゜Д゜)


幻のルーミスシジミ、広い無意識の世界から取り出せしてみたいのです。

それでは茂木先生、本日もステキな1日をお過ごし下さいませ。・゜゜゜・。(*⌒∀⌒*)/

投稿: | 2009/07/28 8:26:23

おはようございます 茂木サン 。
奈良の 春日大社 は 歴史のある 神社ですね。
神木 が 樹齢1400年 の 大木と 茂木サンの対比!
大きい! 思わず両手を広げ 触りたくなります。
たくさんのエネルギーがある場所であることは、
画像の 木漏れ日や 光の優しさで 伝わります。
茂木サン、 日食や 自然からの エネルギーを いただき ますますパワーアップ! ですね。
やはり 自然の中に 身を置くと 元気になります。
帰りの ヒル 騒動 大変でしたね。 想像しただけで・・・ 消毒しましたか?
お大事にしてください。

また 茂木サン の クオリア画像 を 楽しみにしています。

投稿: | 2009/07/28 8:17:32

茂木健一郎さま

おはようございます

儀式の順番に、それで集中

その順番の手がかりを、私など、何も知らない者が手がかりを拝見しても解らず散漫に

精通されている、お方への、さらなる一体化を計算つくされしようか?
それとも、純粋に儀式を厳密に、その結果でしようか

厳かな空間、雰囲気
神事の継承が脈々
凄いと思います。


そういえば
日曜日、茅ヶ崎の沖磯で釣りの時、何気に烏帽子本島方面をみましたら

イメージ的に、池などにある、フードが付いた足こぎボート

あ!足こぎボートだ!

その時は磯釣りに没頭でした私、ふと、今
足こぎボートが海に?烏帽子本島に?と、あれ?
足こぎボート
ちなみに白鳥タイプではなく、普通の箱型と酷似です。

さて、
昨晩の半井小絵さんの気象解説、日曜日の東京近郊、曇り空とのお見立て
沖磯に渡船、茅ヶ崎に参りたいですが、お金の面も考え、たまには江ノ島の地磯で釣りも良いかな
今週末もお魚釣りにです。

投稿: | 2009/07/28 6:56:18

こんにちは

日本にもヒルがいるのを知ってびっくりしました!!


きっと、メモリースティックは、神隠しにあったのじゃ~。(^^)

投稿: | 2009/07/28 5:05:39

茂木先生 こんにちは♪
春日山の原生林に、こんな大杉があるの知りませんでした。大きな木は、それだけ長く生きているので、それだけで神聖な気持ちになります。人が手をつないだら何人分?と…笑!メモリースティックは残念でしたね。でもこれも奉納と考えると、諦めも着きますか!?以前の私は、いろんなことになかなか諦めが着かず、悶々としてしまうことが多かったのですが、年齢が行ったら!?起きたことや終わったことは仕方ない!自分が今元気で生きているんだから、もうそれだけで良しとしよう!と思えるようになって来ました。完全ではありませんが、考え方はそのようにしようと思っています。そして、指を切断して縫合したあと、ヒルに血を吸ってもらう治療法、外国でやっているのをテレビで見ました。指の先にヒルをつけているんです。ワァ~ォ!その時はヒルがとっても愛しく見えると思います(笑)物事はその時の立場や考え方で、良くも悪くも紙一重だと思います♪

投稿: | 2009/07/28 1:59:21

海豪さんの撮った春日山の自然は、どこか、茂木さんの愛する光の川のよう(*^_^*)

ヒルは聞くだけで、痛そう(><)なので、できれば遠慮したいナ(・ω・;)

手順が決められていて、それを守り進めていくというのは、さぞ専心できることでしょう(*^_^*)


一日の終わりに、茂木さんの日記を読み、自然溢れる様子が感じられ、私もパワーを貰いました\(^O^)/

投稿: | 2009/07/27 23:11:29

緑深く、木漏れ日の煌く、壮大な森の中に佇んでいる茂木先生。

そして、神々しさと豊かな命の息吹きを秘めた大木の傍に佇む先生の姿。

その姿はもとから森に棲む隠者を思わせるが、森の豊かな自然と一体になっていきそうな気配も伝わってくる。

春日山のヒルに血を吸われる、ときいて、たしかヒルを使って悪い血を吸い取らせる民間療法があったということを、何処かで聞いたのを思い出した。

小学生の時分に高尾山へと入ったきり、山の中の森林に入った事がない私。ヒルに“食われた”ことは今まで一回もないけれど、それがいる、ということは、春日山の生態系がそれだけ、豊かで大きいということなのだろう。

因みに、高尾山に入った頃は、1度もヒルに血を吸われたことはなかったと記憶している。

太古は森林の中で生きていた我等人類の祖先。その祖先の頃から、我等の中に潜む無意識は、生態系と同じくらい、豊穣に満ちていて、しかも大きくなり続けているのかもしれない…。

きょう、東京ではいきなり夕立があり、その後暫くして、6時半過ぎに東よりの夕空に、虹がほんのりとしたかたちで現われました。

茂木さんのいま居られる所も、虹が現われましたでしょうか。

無意識の森の豊穣の中に、時折、虹が現われることがあるやもしれません。

投稿: 銀鏡反応 | 2009/07/27 20:23:08

茂木さん、Hello♪(^-^)今♪ダブルで虹が出てます♪(^-^)уとってもキレイ♪それでは、茂木さん、また今度です。

投稿: | 2009/07/27 18:47:45

大好きなナンキンハゼの木が、今薄緑色の葉っぱを一杯に茂らせている。
いつもは坂の下から見上げるのに、昨日は通り過ぎてから振り返って眺めてみた。
ナンキンハゼの背中を見たように思った。
そういえば、たくさんの写真を見せていただいているけれど、茂木さんの後ろ姿を見たことがないかも、と思った。
そしたら今日、後ろ姿の写真が…。
ちょっと寂しそうに感じた。

投稿: | 2009/07/27 17:20:45

春日山の原生林、少しだけ歩いた事があります、感動ですよね☆

投稿: | 2009/07/27 16:02:52

茂木健一郎様
中東先生とごいっしょに春日山の原生林のなかを
歩いてこられたのですか。 
私も行かせていただく予定になっております。
必ず行こうという気持ちにさせていただけました。
原生林のなかで佇むすがた、行くすがた、
大杉とともに微笑むすがた、大杉と向き合うすがた
茂木さんを写してくださった海豪さんに深謝。

>私たちの無意識も、生態系と同じくらい、
とっても大きい。
日々ありのままに時空を突き進んで行けば
良いのだろうと思いました。

茂木さん、今日はどちらにいらっしゃるのでしょうか?
美しいそのままで飛翔されてくださいませ。

投稿: Yoshiko.T | 2009/07/27 13:37:12

茂木さん
おはようございます。
メモリースティックは残念でしたが道中無事でなによりです。
訪れた事のある風景を写真でその後見返すと、手元に物質として存在する写真がやはり強く、頭の中でぼんやり感じとっていた諸々の記憶がそれに新しく更新されてゆくような気がして、どちらだったろうと思う時があります。
写真はもちろん大好きなのですが。気付かなかった事を後でゆっくり発見するチャンスにも恵まれますし。人にも見せてあげられる。


昨晩は私も夢で、杉林の庭に囲まれた、神棚を持つ大きな家を訪れていました。それがあまりに清涼感に満ちていて、梢に宿る雫の空気のマイナスイオンの感じも、透き通ってゆく緑達の奥行きと静けさも。
勝手にこちらのblogに感化されているのかもしれません。それは引きこもり気味の自分にとって良い影響でした。

天無私。
多謝!

投稿: | 2009/07/27 11:22:42

茂木ィ先生、おはようございます
(・ω・)/

昨日は癒やしの奈良にいらしたのですね~
1500年の杉は聖なるパワーを感じます!朝から素晴らしい写真をありがとうございますm(_ _)m
茂木先生もこの大きな杉の木みたいです♪森と火って感じです♪(・ω・)/
(ところで茂木さんちょっと痩せました?
ゼフィルスって美しいですね♪

蝶々といえば、先日は紋白蝶がフワフワ飛んできました

おっ紋白蝶だ!と思って目の前まで来たら、紋白蝶がぽとっと地面に落ちました! ひ、貧血でしょうか?(-o-;)
アスファルトで誰かに踏まれてもかわいそうなんで、息吹きかけたら(←絶対挙動不審……)また、紋白蝶さんは、はっ!て感じでフワフワ飛んで行きました
(・ω・)/
良かった良かった?その話を同僚にしたら「そりゃー蝶だってSさん(私)見たら失神しますよ。恐怖のあまり」と言われました!
恐怖でって失礼ですよね(笑)
プンスカプンスカ
黛さんとの御著書楽しみにしています♪\(^_^)/

投稿: | 2009/07/27 10:17:29

茂木さん、おはようございます!
大変でしたね、、✧
山の中ですごい事がいっぱい凝縮されて起ったような気がします⋆♪

それにしても、ズボンの中に潜り込むとは、ヒルって怖いです。
ズボンの口は縛っておく必要がありそうです(>_<ι)

投稿: | 2009/07/27 9:42:15

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