『疾走する精神』
新刊のお知らせです。
茂木健一郎
『疾走する精神』
(中公新書)
雑誌「中央公論」に連載していた
「新・森の生活」が新書になりました。
現代を読み解くキーワードである
「多様性」についてさまざまな角度から
思考を重ねた渾身の論考です。
みなさま、ぜひお読みください!

あとがきより
世界が多様であることを知り、それらのものと行き交うことは、私たちの心をやすらぎで満たしてくれる。この本に収められた20のエッセイを振り返ると、私はそのような確信で満たされる。
本書は、雑誌「中央公論」に連載された『新・森の生活ー多様性を科学する』をまとめたものである。毎回、世界の中の多様性に耳を傾ける思いで、さまざまなテーマについて文字を綴った。いろいろなものに向き合う中で、自然に「疾走する精神」への助走が自分自身のテンポとなっていくことが感じられた。
南の海のサンゴ礁。山中の木もれ日。花が咲き乱れる高原の草むら。私たちの心にやすらぎを与えるもののすべては、実は「多様性」と「疾走する精神」の結合によってもたらされるものではないかと思う。
テンポを見誤ってはいけない。急ぐことなく、しかし決して淀むこともなく。まるで神がもたらした奇跡のようなモーツァルトの音楽の数々が、疾走する精神がもたらすやすらぎの何よりも鮮烈な事例となってくれている。
「中央公論」連載中は、同編集部の井之上達矢さんに大変お世話になった。毎回のテーマ設定を含め、的確なアドヴァイスをして下さった井之上さんは、これらのエッセイのよき伴走者であった。書籍化に当たっては、中公新書編集部の松本佳代子さんにいろいろと助けていただいた。きめ細やかな心遣いと、鋭いアイデア。井之上さんを引き継いだ松本さんとの伴走で、心地よくゴールを迎えることができた。ここに、井之上達矢さん、松本佳代子さんに心からの感謝を捧げる。
2009年5月 東京にて 茂木健一郎
『疾走する精神』より、
「アカデミズム」抜粋。
自分の専門に近い人が、隣にはいない。そのようなトリニティ・カレッジのハイ・テーブルにおける多様性のあり方は、「同じ種類の樹木を探そうとすると、遠くまでいかなければならない」という熱帯雨林の様子を思い起こさせる。
そもそも、アカデミズムとは、多様性の中にこそ花咲くものではなかったか。この世界の森羅万象を、単一の方法論だけでとらえきれるはずがない。他流試合の積み重ねの中で鍛えられる強靱な精神こそが、アカデミズムの本来的産出物ではないか。
単一の専門性の中に立て籠もってしまうことは、知性にとってはもちろん、より広い視点からの人間の精神性においても、致命的な失策となる。
かつて、「物理帝国主義」というものがあった。この世の全ては物質であるから、その運動を方程式で記述していかば、やがては全てを説明することができる。従って、将来、全ての学問は物理学に吸収され、その一分野となる。そんな、少し思い上がりの入った、楽天的な考え方だった。
物理帝国主義を夢見る学徒がいる一方で、全ての人間の営みは経済学的動機で説明できると主張する学者がいる。私のかつての学友は、「全ての人間行為は政治的である」と断言した。もちろん、彼は政治学が専攻であった。過激な言語学者は、この世には言語には以外には何もない、と結論付けることであろう。心理学者は、全ては心理のあやであるとし、進化生物学者は、人間は遺伝子を運ぶ道具に過ぎないと本音では思っているかもしれない。
ある学問の枠組みにとらえられてしまうことが、本当の「知」からは外れることにつながる。小林秀雄はそのように警告した。だから、昔の人は、「大学にいくとバカになる」と言ったのだと。その小林が私淑した本居宣長も、当時の既存の学問体系の中に立て籠もっている学者たちに対して批判の刃を懐に忍ばせて「国学」を打ち立てた。。
「圧倒的な知の卓越」を目指すことと、ある特定の学問体系に固執することの間には、根本的に相容れない点がある。そもそも、才能とは過剰なものである。たった一つの専門性で満足してしまえるような知性など、もともと大したものではないのだろう。
思えばアカデミズムの本分とは、多様な「知」の花が咲く野を全速力で疾走することなのではないか。その中で、ただ単に諸学を蹴散らし、食い散らかしてしまうのではなく、やがて一つのはっきりとした形をとった統一へとまとめ上げることを志向する。そのために、多様な要素をぎゅっと集めて凝縮する。様々な彩りの知が集まって臨界点に達した時、そこから未だ見たことがないような洞察の光が放たれる。
この世に驚嘆すべき新しい知が現れる時には、必ず、多様性の高度な凝縮がある。創造性は一般的な生命原理の一部分である。生物が交配を通して進化するように、人間が生み出す知もまた、異なる要素が凝集することによって先へと進む。
しかも、知の融合は、生物の交配のような様々な物理的制約から自由なのである。
疾走、そして凝縮
今日、モーツァルトが寵児なのは、その音楽の疾走感が私たちの時代精神に合っているからであろう。
たった一つの分野だけをとっても、出版される論文の数は膨大なものにある。1905年に出版されたアインシュタインの相対性理論の論文は、引用文献がゼロであった。今や、そのような「ゆるい」書き方は許されない。アカデミズムの各専門分野において、一つの業績として認められるためには、当該領域において過去に積み重ねられてきた業績の上にきちんと現在の研究を文脈付け、何が一体新しいのか、その差分を明示しなければならない。それができるようになれば、大学から博士号が与えられる。
しかし、専門分野における文脈付けに拘泥して、横断的な疾走精神を失ってしまっては、古代ギリシャから綿々と続くアカデミズムの精神が枯渇する。
多様性の森をそぞろ歩くなどという悠長な事は言っていられない。モーツァルトのアレグロのように疾走する。その過程で出会う知の萌芽の様々を、自分の一身に凝縮する。そのように走る探求者の姿が、次第に光り輝いてくる。
今日においてプラトンやソクラテスの精神を受け継ぐアカデミズムの姿は、疾走と凝縮の中にこそある。そのことを、一人ひとりが銘記せよ。
5月 27, 2009 at 07:46 午前 | Permalink
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疾走する精神―「今、ここ」から始まる思想 (中公新書)作者: 茂木 健一郎出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2009/05メディア: 単行本 脳科学者・茂木健一郎氏のエッセイ集である。小気味良いテンポで人間が抱えるアポリア(難問)に挑戦し続ける姿勢が見える。20に小分けされたテーマを束ねて本書は構成されており、どのテーマも短文でありながら、読者に命題のホシを豊かに掴ませてくれる。 私は彼のことを尊敬している。何故、尊敬するのか。それを彼の魅力について考えてみることで説明してみたい。 私が考... [続きを読む]
受信: 2009/06/23 22:33:56
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コメント
トラバさせていただきました。
本書の内容について書こうと思って枕を書いている間に、脱線記事になりました。脱線は脱線でその道ができるものだなと思った次第です。
茂木先生の渾身の論考、読む側も渾身でなくてはなりませんね。
良書をありがとうございます。
投稿: 参明学士 | 2009/06/23 23:04:48
「世界を知りたい」と思った時に、私は自分が探求者になる道は選ばなかった。
自分で調べられる事など高が知れている。
私より探求者に向いている人は大勢いるのだから、彼らが調べた事を教えて貰う方が、より多くの事を知ることが出来るだろう。
そんなわけで、探求者達が疾走して発掘した様々を、メディアで眺める立ち位置にしてみました。
自ら発見する喜びは得られませんが、私なりに楽しい人生になっていると思います。
投稿: take | 2009/05/28 17:55:32
渾身の論考
必ず読ませていただきます。
多様と気付けないほどの渦の中にいる日々
自分の立っているハズのところ、進むべき思考を
知りたいと思うのです。
日曜日、ウクレレの神様と言われるオータサンの
親子初共演のコンサートに行ってきました。
そこで“大阪中之島にコルテオがやってくる!”の紹介を見つけ
茂木先生はスペシャルサポーターでした
サーカスが来る!と聞いていたので詳細が分かり嬉しかったです。
これも今から楽しみにしています
投稿: ukulele mam | 2009/05/28 8:45:01
茂木健一郎さま
おはようございます
東京、雨
それも週末も雨らしく毎週、日曜日は雨
なにも晴天までが日曜日は休みな!と 人間の休日に合わせなくても良いのに。
そうそう
釣具のシマノさんの磯釣り道具、磯釣りリールの最高峰、BBX チタニュウム 5000 品番はもっと正確にですが、面倒なので
そのリールには道糸がかなり、5号の道糸に合わせているので
私は3号のそれより細い道糸を巻たい
下巻という道糸を巻き本命の道糸を巻く
3号の150メートルでしか相模原市にあります釣具屋の相模屋さんの磯つり担当 谷内さん推薦の道糸は販売されてなく、でしたが
この前の雨の日曜日に行くと
お買い得!600メートル巻が新たにラインナップされていてお買い得のそれを買えば下巻きをせずに!
雨も日曜日、まんざら
ではないですが、でも晴れないかな
ちなみに
NHKテレビさまの茂木健一郎さまの番組プロフェッショナル仕事の流儀さまの番組公式ブログにおかれましても昨日、掲示して頂け私の文章
感謝です。
NHKさまと言えば
半井小絵さんの気象解説
日曜日、雨も それで知りです。
投稿: TOKYO / HIDEKI | 2009/05/28 6:40:34
茂木健一郎様
日々の生活のなかでは忘れがちになる生きている悦びを
身体には赤いあたたかい血が流れていることを思い出させて
くださりありがとうございます。 そこのところ
幾重ものオブラート宇宙服で身を包む私たち。
息苦しくなっていたことも忘れるぐらい、
皆様じょうずに生きていかれます。
人間ってなんて凄い素晴らしい生き物なのでしょう。
早速『疾走する精神』を読ませていただきます。
「今、ここから」
いつも考えさせていただけること深く感謝しています。
投稿: Yoshiko.T | 2009/05/28 1:55:50
茂木さん、Hello♪(^-^)多様性の中にこそ、だから花が咲くのですね♪最近恐い夢を見なくなったな♪何かかが変わってきたのかな?それでは茂木さん、また今度です。
投稿: 水饅頭 | 2009/05/28 1:55:38
こんばんは。茂木サンお元気ですか? 先程拝見しました書き込みに 足の捻挫が芳しくないとありました。腫れや痛みのあるうちは無理をなさらないでください。皆さん茂木サンの足を心配しています。
の


投稿: サラリン | 2009/05/27 23:48:49
茂木健一郎さま
こんにちは。
はじめまして。
「クオリア日記」とても楽しく拝読いたしております。ありがとうございます。
このコメント欄をお借りして、メールをさせていただきますことお許しください。
自己紹介させていただきます。菊川美知代と申します。
私の仕事は(株)ロクス・プレスという出版社の社長兼たった一人の社員です。2007年10月に設立いたしましたけれど、まだ稼動しておりません。極零細でございます。
もう1つの仕事は歯科医院開業です。のんびりいたしております。
来る7月9-12日第16回東京国際ブックフェアー中、12日の、茂木健一郎さまの読書推進セミナーを拝聴にまいります。茂木さまは、超ご多忙でいらっしゃると、「クオリア日記」を拝見しておりますとすぐわかります。あの、厚かましくって申し訳ないのですけれど、このセミナーのご講演のあと、お話をさせていただけませんでしょうか? 少しお時間をいただきたいのです。
いつか、私は茂木さまとお仕事をご一緒させていただきたいと、とても希望しております。
たくさんのご本を出していらっしゃって、まだ全部拝読できておりませんし、ただ今読書中ですのに。
あの、こういう場合、どのように依頼させていただければ、いいのかも、もし失礼なことを申し上げたのでしたら、お許しください。
どうぞ、よろしくご検討いただけますよう、お願い申し上げます。
お体を大切になさって、ご自愛ください。
2009年5月27日 かしこ
菊川美知代
(株)ロクス・プレス
569-0853大阪府高槻市柳川町1-9-16
Tel・Fax: 072-693-7709
E-mail:locus.press@gmail.com
michiyo.kikukawa@gmail.com
投稿: 菊川美知代 | 2009/05/27 23:00:08
こんばんわ☆ミ
昨日プロフェッショナル観ました^^
専門的なものはさっぱりわからなかったですが
面白いなぁ~って思いました。
今日一日ぼけ~と過ごしました。というか眠くて仕方ないです。
周りのざわざわ感がなくなって静かになったので一層落ち着けたのかもしれないです。
なんか不思議でしょうがないです。
もうつらくないんです。でも不安感はまだあるので。
何気ないことでもコメしてもいいですか?
投稿: あおちょん | 2009/05/27 20:09:50
まさに、合田先生との対談で、茂木さんのおっしゃっている姿を自ら体現なさっていたと感じています。
だから、私はその姿に感動しました。
一層、気合いが入りました。
ありがとうございます!
投稿: 光嶋夏輝 | 2009/05/27 18:09:26
森の中の茂木先生!!かっこいいですね!!絶対絶対、購入します!!
投稿: ふぉれすと | 2009/05/27 16:09:33
この世の全てに共通していることは
『個人的レベルの感情が世界を動かしている』ということでしょう。
投稿: おちょん | 2009/05/27 15:04:26
茂木さん、こんにちわ。
と嬉しくて購入して一気読みしまして、幸せな休日を過ごさせて頂きました。有り難うございます
昨日、たまたま通りかかった本屋さんで茂木さんの見たこと無い本が
ディスプレイされてたので、新刊だ!
白洲信哉さんの白洲家の流儀もその時たまたま見つけて、すごく読みたくなったので2冊一気に読みました。色々興味深い事が描かれていて面白かったです。素敵な人柄を感じました。
投稿: 楽園 | 2009/05/27 12:40:10
茂木先生 こんにちわ
>この世に驚嘆すべき新しい知が現れる時には、必ず、多様性の高度な凝縮がある。
ワクワクします
今は そう言う時なのかしら。
出来る限り 準備運動をして しなやかに そして
”モーツァルトのアレグロのように疾走”できるようにしなければ。
様々なことが 起きていくその瞬間瞬間に 立ち会いたい。
暗いことばかりが クローズアップされる今だけれど
そうじゃないと 信じて
この時代に生きていて 良かったと思い
それが 間違っていないと 確認したいです
投稿: Lily | 2009/05/27 11:41:03
図書館から借りた「本居宣長」が、今手元にある。
貸出日は、5月14日。
ばらばらになりそうな自分をつなぎとめようと半ば無意識のうちに、今まで読むことを躊躇していた小林秀雄氏の著作の中から選び出した。
今の私には到底読めそうもないのに、何やってんだろう、と思いながら。
今朝、布団の中で「脳内現象」からの一大飛躍だ、と読み始めた。
古文、漢文の知識がほとんど消えかかっていても楽しめそう、これからゆるゆると読みましょう、と一人にやにやしていたのだけれど。
あの日私が触れたもの達は、私にとって必要なもののすべてだったのかもしれない。
家のなり なおこたりそね
を肝に銘じて、読んでいこうと思った。
投稿: masami | 2009/05/27 11:20:17
茂木先生
すいません。新刊のコメントではありません。
教えてください。
子供が今度 小学一年生になり ひらがな を習っていますが
覚えられません。 算数はわかるようなのですが...
もしかして 学習障害ではないかと心配しております。
茂木先生の本 TV にはとても興味があり拝見させていただいているのですが 学習障害の場合 脳に良いことをすれば治りのすか?
先生の書かれた本で 参考になる本などありますでしょうか?
すいません。 本当に 神にもすがる思いで メールさせていただいております。 よろしくお願い致します。
桜井さん
学校の先生に相談してみてください。お子さんの個性はさまざまで、そう簡単に能力の良い、悪いがわかるものではありません。ひらがなも、興味を持てば自然に学んでいけるものと思います。興味を持たせることが大切です。
茂木健一郎
投稿: 桜井 | 2009/05/27 11:08:40
茂木健一郎さま
書籍を購入の時は私は
あとがき、から拝読ですので
茂木健一郎さまが書籍で表現の本質が、あとがき、にですから
そして
あとがきを拝読後に
それを踏まえ本文にです私は。
投稿: TOKYO / HIDEKI | 2009/05/27 10:51:21
おはようございます。今日の岩手山は頂上にまだ残雪があり、山開きまでもうしばらくです。
新書楽しみにしております。コメントにありました 安らぎ は生きていくために大事な要素、栄養です。 私からも安らぎ空間を発信していきたいし、受信したい。
投稿: サラリン | 2009/05/27 8:33:54