« 人間の決断 | トップページ | あるいは、強くありたいと願っていないと »

2009/02/27

わが心の書 悲劇の誕生

わが心の書
茂木健一郎 『悲劇の誕生』
文藝春秋スペシャル 2009年季刊春号


抜粋

 本当に素晴らしい本との出会いは、人生の風景を一気に変えてしまうものだと思う。自分のそれまでの経験の幅を超えるような世界観。今までの感じ方、考え方では、とても対処できない知性と感覚との向き合い。私にとって、高校の時に読んだフリードリッヒ・ニーチェの『悲劇の誕生』はそのような本であった。
(中略)
 それにしても、『悲劇の誕生』は魅力的な本だった。古代ギリシャにおける明晰で理知的な「アポロ的」要素と、衝動的で潜在的には破壊的な「ディオニソス的」な要素の絡み合いから、ギリシャ的な「悲劇の誕生」を解き明かす。それが同時代において「音楽の精神」を通して再生する道筋を示す。その希望を担うのはワグナーである。ニーチェのヴィジョンは大いに熱を帯び、破壊的であると同時に生命肯定的であり、徹底して理想主義である。三十年近くの歳月が経った今振り返っても、『悲劇の誕生』から得た「感性の型」のようなものが、私の中には未だに息づいているのがありありとわかる。
 早い話が、脳科学をやる中で、ライフワークとして意識の中で感じられる質感「クオリア」の問題を選んでしまったのも、『悲劇の誕生』を始めとするニーチェの作品を愛読した高校時代の私があってこそだろう。心と脳の関係をめぐる、とてつもなく難しいテーマなんかに取り組まなければ、もっと普通の意味で学者として幸せになっていたのではないかとも思う。普通の意味での経験科学だけでは魂の渇きが癒せなかったのだから仕方がない。極北の幻光の厳しい美しさを一度知ってしまうと、温帯の日常は生温く感じてしまうのではないか。
 むろん、社会の中で生きていれば、次第に世間と付き合うコツのようなものは身についてくる。協調性も出てくるし、時には「マーケットというものは」などと嘯いてみる。しかし、私の胸のどこかに、常識など知るものかという激烈なる炎が今でも燃えている。すべては、『悲劇の誕生』を読んだ、高校生の頃の精神生活に始まったのである。

全文は「文藝春秋スペシャル」でお読み下さい。

http://www.bunshun.co.jp/mag/special/index.htm 

2月 27, 2009 at 09:22 午前 |

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: わが心の書 悲劇の誕生:

» 一手間を惜しまない努力 トラックバック 須磨寺ものがたり
5月には、「神戸まつり」が、開かれます。 それに関連した会合が須磨区役所であり、 私も委員のメンバーとして参加した。 [続きを読む]

受信: 2009/02/27 12:03:26

» ある目的 トラックバック Tiptree's Zone
「僕らは出会うことを未来で約束し合っていたって、レイコさんは言ってた」ユウジは言った。 「そうなの。あたしもしばらく前から、あたしはあなたに会うために生まれてきたみたいって感じていたわ」イズミは感情のこもらない口調で言った。 「でも、それは恋愛のためなん....... [続きを読む]

受信: 2009/02/27 20:17:22

» トラックバック POPO
素直だったのだろう 親の期待に応えようとして 一生懸命背伸びをしていた 世間体な [続きを読む]

受信: 2009/02/28 3:11:18

コメント

茂木先生こんばんわ♪ 

布施先生を大学でお見かけしていた世代です。
芸大で、真面目に研究したかったけれど、やめた分野に
ロマン派後期から、ワーグナーへ至る、批判的(何が危うかったのか・歴史とかじゃなくて、理論が)研究でした。

鑑賞する立場からは、判り難いのかもしれないが、
ロマン派後期から、ワーグナーにかけては、感情の正当性を考えながら演奏するという責任を負った立場的には、非常に、偏りや、ある種の”おかしい心境 ”を、体験します。そこで、非常に何か概念的なものの方向が、勝ってしまった時、”それまでの理論的にはおかしくなるのに、力ずく。”的な、感情を味わいます。精神が追いつきません・・きつい(;;)

それとも、全く別に、ロマン派後期から、ワーグナーにかけては、
批判的な意見が、少なすぎると思います。音楽という表現手段において、最大、その手段が生かされるもののひとつが、この時代にあったとしても、何か手放しで、推奨できないなにかが、この時代にはあるように思えます。それも魅力なのかも?でもあまり考えずにいつもの感覚で
表現しはじめると、生理的に、気分が悪くなったりしました^^
っていうか、強すぎるんですよね・・・(たぶん女子には・・)
あと、男性が好きですよね・・・・この時代。表現においては、トップを狙おうとするときに
美術でも音楽でも、男性には、結局勝てないなという場面がたくさんあります。感情の趣向の力が、やっぱり、とてもじゃないけど。。。強いんですよね。そういう感じで、やっぱりこの時代の表現は、かなり男性的なパワーが必要に思います。男性主義っていうか。でも、その男性主義がきっと、人類にとってなにか、気づきをもたらしたりもしたって思います。かっこよさもありますよね。
上記のような感想って、どうなんでしょう・!

でも、ガムランみたいな、シャーマン的なものは、案外女性でも平気な気がします。私はガムランは楽しかったです。強すぎますけど、流れが
暖かい感じがして、強すぎる悲劇性とかよりは、ましでした。(耐えられる)
フランス音楽へ、ぱっと繋がりました。

なんかこんなことを考えると、女性と男性の脳も、ちがうんだろうな~って、素直に思えます!

投稿: ky | 2009/03/05 23:14:42

茂木さん、さっき本屋さんで読んで来ました。

中略されていた部分にこそ、茂木さんの醍醐味がつまっていた!
と、感じました。
あの部分が茂木さんに興味を抱かせる要素だと思います。

私ももっと覚醒したいです(^^)✴―✴

投稿: | 2009/02/28 12:56:05

自分にとっての「心の書」とは、カレル・チャペック著「R.U.R」(邦題:『ロボット』もしくは『ロッスムのユニヴァーサル・ロボット』)です。

何と言っても世界で初めて「ロボット」という語を生み出した書ということで、何とはなしに興味をもち、何時か全編を読んで見たいと思い、10年近く前のある日、近くの書店で見つけることが出来、早速買って読んだ。

人工物がそれを作った人間にとって変わる恐ろしさを感じたのも然ることながら、一瞬、ある思いが走った。

「これは、私達の棲むこの国土の、不幸な未来の姿ではないのか…」と。

人間が自分たちの作ったエージェント(ロボット)に全てを任せてしまい、快楽をむさぼるというくだりは、まさに我々が歩みかねない未来の姿そのものではないか。我々は今一度、自分たちの作った文明の功罪について、真剣に考えなくてはならぬのではないか…。

そういう意味で、この戯曲は、私の中にある種の深い刻印を残した。

投稿: 銀鏡反応 | 2009/02/28 5:55:42

茂木先生こんばんは♪
先生の子供の頃の一言や、思春期の精神の非行、孤独感のようなものから痛みの知っている方なのだと感じました。
記事から、先生の強さ、大きさ、温かさのヒントのようなものが私には少し垣間見えたのですが。。何故でしょう。
 
是非いつか、科学者でもなく、学者でもなく1人の人間、茂木健一郎氏の自叙伝を読んでみたいと思ってしまいました。
 
先生の心の書、ニーチェの「悲劇の誕生」も読まなくては。
 
私の心の書は秘密です。笑
ってばれてますかしら。σ(^ω^;) 
先生の尾崎も聴いてみたいですなあ。

それでは先生、今日は雪でしたから、暖かくされてお休み下さいませね。
(●^^)/。・゜゜゜゜・。☆★☆

投稿: | 2009/02/28 0:06:32

茂木健一郎様

笑われるかもしれませんが、
今日も泣いてもいいですか。
自分のための涙で恥ずかしいですが。
茂木先生の様に、もっともっと自分に
正直になってもいいのだと生きたいです。
けれど、その前におさめなければ
いけないことが沢山あります。
そのことが心地よく痛いです。
幸せなことだと感じられます。
心に火を点けてくださる茂木先生の書物は
私の心の書になっていっています。
有り難うございます。

投稿: Yoshiko.T | 2009/02/27 22:55:53

茂木さん こんばんは。

私は最近 すっかり「茂木ワールド」な本ばかり 読んでいます。
茂木さんの本もですが 茂木さんの 話し方も すごくわかりやすくて
脳に まっすぐに届く感じです。

投稿: | 2009/02/27 22:48:11

茂木さんは本当に激烈なる炎を絶やしません。
そう自分で仕向けてらっしゃる!

私は感情の起伏が激しいと母親から言われます。
まったく茂木さんとは別物ですが、今日も些細なことで腹が立ってムシャクシャしました。
でも、今日のわたしの怒りは夜ご飯を食べたらすっかり消えていました(#`´#)❢
お腹が満たされたら幸せになって、「どぉ〰でもいいじゃんっ❣」て、いつの間にか思っていました。
…♩♬♪♪✧

海溝と見晴らしのよい丘を往ったり来たりして精神の消耗が激しい毎日です。
レディーなんだから、たおやかな性格になりたい!!!!

茂木さんは濁点のはいったごつごつした、茂木さん自身の髪の毛みたいな言葉が好きですよね。
なんて、感じます。数字で言ったら″ 6 ″かなぁ~〰
輝かしい言葉は″ 1 ″ですねぇ~✫

本読んでみます!
明日もすてきな1日を!✮⋆✫〰✷⋆☄☃❄

投稿: | 2009/02/27 22:43:47

常識が相当強く求められる5歳児の母親であり主婦の私ですが、そんなものつまらんつまらんと心の内は叫んでいます。茂木さんのように学者だったら冬は毎日同じセーターを着て丈の短いズボンを穿いて過せるのに。少なくとも男性だったらやってます。茂木さんのクオリア日記を読むと、あー、同じ種類の人だと心が安らぐのですよ。ほほほ。

投稿: | 2009/02/27 22:17:25

茂木さんが研究されてる脳と心の関係は、もっとも神の領域に近い科学なんじゃないかという気がしています。
こんなに急速に科学が進歩してしまった反面、人の心は科学から置いてきぼりになってしまい、誰もが、渇いた魂を抱えながら、日々、時間に追われる毎日を過ごしているように感じます。
きっと、茂木さんご自身の魂の渇きを満たすことは、この世の中の、たくさんの魂を救うことになるのではないでしょうか。
21世紀のWagnerであるかのように♪

投稿: | 2009/02/27 21:02:31

ニ-チェの悲劇の誕生ですか。魂のひりひりが… あぁ

投稿: | 2009/02/27 20:14:37

今日はお休みなので、雨の音を聴きながら茂木さんの「脳整理法」を読んでます。
「脳整理法」の背表紙の茂木さんの写真が、別人かと思いました。千円札出して見たら、野口英世さんに似てました。超渋い~!!明治の文豪?この写真は一見の価値があると思います(・ω・)/
本の内容も今の私にぴったりで、とても勇気づけられました。一文一文かみしめて読みました。「不確実性の中で行動する時には結果を左右する因子のすべてをコントロールすることは不可能だと認識すること」
ガツンときました。どうなるかわからないから、コントロールできないからこそ面白いんですね!変化しなければ生命は固定化されて先細りになっていってしまう…生きるうえで変化は避けられない…この言葉に勇気づけられました。
脳整理法は、私の心の羅針盤になりそうです。みなさんにもオスズメです。チュンチュンチュン(雀語)最近この手のダジャレいうと、どこからともなく殺気を感じます。
ニーチェは真理を一言で突きますよね。ニーチェの本もトライしてみます!
ブログって、雲の上の著者に直接何か伝えられるって凄いなぁ…ほんとに…?目安箱みたい…しみじみ。
リアル茂木さん読んでくださってるんですよね

投稿: | 2009/02/27 13:51:43

初めてコメントさせていただきます。
茂木先生の心の書。高校生でこのような難しい本を読まれていたなんて
自分が恥ずかしく思えてしまいます。
私の心の書は、本当に最近出会ったのですが、茂木先生の訳された、
「脳にいいことだけをやりなさい!」です。
今月頭に世紀の(4年越し)大失恋をし、この本をなんとなく読んでみたらまさにコペルニクス的転回!!脳に冷たい風が吹き抜ける様な不思議な体験をしました。
今では実現不可能と考えていたイギリスの大学院への進学に向けて計画を練っています。
自分の人生のターニングポイントで寄り添ってくれる本に出合えるのは
本当に幸せな事ですね。
これからもブログを楽しく拝読させていただきます。


投稿: | 2009/02/27 10:24:20

同感なのです。  こまりました。

投稿: | 2009/02/27 10:12:20

コメントを書く