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2009/02/25

文明の星時間 ヒース・ロビンソン

サンデー毎日連載
茂木健一郎 歴史エッセイ
『文明の星時間』 第53回 ヒース・ロビンソン

サンデー毎日 2009年3月8日号

http://www.mainichi.co.jp/syuppan/sunday/ 

抜粋

 他国の文化には、思いもかけぬ「サプライズ」が潜んでいることがある。自分の育った文脈の中からは、想定できないもの。歴史の中でつながってきた星々。慣れ親しんだものからは遠いようでいて、自分に意外なほどぴたりと当てはまる。忘れられなくなる何ものか。そのような驚きに出会うことは、人生の最大の喜びである。 
 英国に留学していた時のこと。大学のあるケンブリッジから車でしばらく行ったところにある「イリー」という街に出かけた。有名な大聖堂があり、川の流れに白鳥たちが羽を休めている。愛らしく、素敵な街だった。
 水辺に骨董品屋さんを見つけた。値段が張る貴重なものばかりではない。ちょっとした食器や、家具、衣服など、手軽に手を出せる価格帯のものも多かった。古い絵はがきや、ポスター、雑誌の類もたくさんあった。
 偶然に見つけた一枚の印刷されたイラストに釘付けになった。今でも、あの時私を包んだ空気感をありありと思い出すことができる。
 中年男性が、椅子に腰掛けている。頭にできものがあり、ひもが結びつけられている。ひもは天井から下がった滑車を通り、幾重にも折れて、壁につながっている。
 男が座っている椅子は、棒で支えられている。棒は機械仕掛けでパタンと倒れるようになっていて、男自身が握っているレバーに接続されている。
 男がレバーを押すと、座っている椅子を支えている棒が倒れる。すると、椅子が無くなって、男の身体も落下する。その拍子に、ひもで縛ってあるできものが取れる。つまり、できものを除去するための装置である。イラストの下には、「できもの椅子」という文字があった。
 男の真剣な表情。細部まで描き込まれた機械仕掛けの精巧さ。それでいて、全体としてナンセンスな雰囲気を醸し出す。意味のない図柄を、ユーモアあふれるタッチで描くという構想。ひと目見て、無性に惹き付けられた。
 作者の名前は「ヒース・ロビンソン」。それまで聞いたことがなかった。イリーという田舎町の年月を経た建物の中で、初めて知った画家を瞬時にして愛した。イラストが陳列されている箱の中をくまなく探し、「ヒース・ロビンソン」の作品を数点見つけた。全て買って帰った。
 ケンブリッジの下宿で、自分の部屋の壁に飾った。それまで何となく落ち着かない気持ちでいた異国の居室が、やっと自分のものになったような気がした。

全文は「サンデー毎日」でお読みください。


An illustration by Heath Robinson.

2月 25, 2009 at 09:22 午前 |

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コメント

こまかいペンで書かれた、精緻なしかけ機械と、りっぱな紳士ご婦人のまじめなすがた。

おもしろいですよね。
小学生の頃、図書館から借りて読んだ「SFこども図書館」というSF小説ばかりをあつめたシリーズや、HGウェルズの「タイムマシン」の挿絵なども思い出しました。

描いた方は、現代の方なんでしょうか。

絵を見つけられた町の様子も、すてきですね。
そんな場所が、あるんですね。
あわただしいところに住んでいると、同じ時代にそんな場所もあることが不思議に感じられます。

投稿: | 2009/02/26 22:04:01

おはようございます。
成熟した大人のブラックsense of humor.ブリティッシュ コメディ。素敵です!

投稿: | 2009/02/26 5:40:19

ネットでHeath Robinsonのいろいろな絵を見てみました。

わざわざあんな仕掛けをしてまでその作業をやらなくちゃいけないのっ¿¿¿‽っていよいよつっこみたくなりました(*▼*)〰☄⋆ ✵♬
しかし、余計な過剰な工夫次第であんなに面白くて楽しそうで危なっかしい冒険ができるんだなぁ! と感心いたしました!!
しょこですね!

しょこたいっ、 しょこしょこたい!!!!

投稿: | 2009/02/25 23:05:37

始めまして。

この絵は皮むき機でしょうか?
ぱっと見、何かわからないのですが、じっくり見ると見えてくる、
分かるととてもおもしろいですね♪

本や番組いつも見てます。いつも楽しく勉強させてもらってます。

これからも応援させて下さい♪

投稿: まい | 2009/02/25 22:59:05

茂木健一郎様

茂木さんは、いつも愛情深いお人との出逢いをされているのが
このような、作品と作者との出逢いもされている。
ああ、人生はなんて豊かなものなのだろうと教えていただき
私も日々出逢うすべてのことがらに、
もっと敏感に出逢っていこうと思います。
生きていることをもっともっと大事にしないとと思います。
多様なことを感じ愛せる人間になっていきたいです。

投稿: Yoshiko.T | 2009/02/25 22:55:10

面白い画ですね。
あの装置は実際成り立つのでしょうか??¿?
日本人には少ないストイックさです。
でも毛玉のセーターが好きな英国にはお似合いですね。
ちょっとシニカルで冷やかな、でもそれを楽しんでいる感じします。

自分の空間になった瞬間って勇気わきますよね!(^^)!
そこでもやっていけるって確信がわく。
それは安心して活動してのびのびと力を発揮する為に
必要なことですよね。
職場で引っ越しがあったので、私も自分のベスポジ探すべく、
あれやこれやと配置して動かして、装飾している最中です。

今も持って飾ってらっしゃるのですか??¿?✿
それとも誰かにその葉書きで手紙を書きましたか¿¿?
私はそんな手紙が大好きなんです。
(誰もがそうかも知れませんね!)

投稿: | 2009/02/25 22:18:17

初めまして。茂木さんのファンです。
一つ教えて頂きたいことがあります。
今、ザ・ベストハウスを見ています。

私は育った環境からアダルトチルドレンで、失敗=悪いこと
というふうにしかとれず、失敗は経験であり、悪いことじゃないと言われてもいまいちピンときません。

どのように考えたら失敗を恐れなくなりますか?
もしよろしければ教えて頂きたいです。

厚かましい発言で申し訳御座いません。

投稿: | 2009/02/25 21:41:19

連載を読ませていただきました。


「できもの椅子」…ハハハ、こりゃあ面白い!読みながら思わずふきだしてしまった。

ナンセンスで、ヘンテコで、それでいてユーモラスな…といった“おかしみのあるもの”や“変わったもの”にとても寛容な文化をもつ世界は、どんな個性をも包みこむ、暖かいものが溢れているんだろうなぁ…と、読みながら、しみじみと感じた。

日本にも、そういう文化は、昔はあったのだろうか?あったかもしれない。

投稿: 銀鏡反応 | 2009/02/25 20:49:20

はじめまして(^O^)
テレビなどでご活躍を拝見してます♪
最近すごく悩んでいます。
外食に行くと緊張してしまい気分が悪くなります。すごく安心できる友達や家族と行ってもそうなるのでつらいです(>_<)帰ってきたらとても目が充血して疲れます(>_<)楽しいことをするのに不思議でなりません(>_<)脳に関係があるんでしょうか?教えてください(^O^)

投稿: | 2009/02/25 19:03:33

はじめまして。
現在高校受験が終わった中学生です。
実は学芸大学附属高校を受験したのですが、、結果わ二次にわ行けず。本当に悔しいです。茂木さんの存在は、実は附高の説明会で知ったのですが、その説明会で茂木さんの本が紹介されて本を色々読んだんですが本当に茂木さんの考え方好きだなと思いました。本当に尊敬します。憧れです。


これからの活動も期待しながら応援してます。

文の構成下手ですみません(*´;ω;`*)

投稿: | 2009/02/25 18:50:43

イーリーの川辺、心安らぐ場所ですね。白鳥や水鳥の親子がのどかに憩う姿、ゆっくりゆっくりと流れていく時、穏やかな空気、ずっと昔から知っていたような親しみに包み込まれる土地。水辺の骨董屋さん、おそらく私も何度か訪れています。「ヒース・ロビンソン」には気づきませんでしたが・・・イーリー大聖堂に北海道出身の日本人宣教師の名が刻まれているのをご存知ですか。1987年夏の午後、火照りを冷まそうと立ち寄ったひんやりと心地よい聖堂の中で、予期せず見つけた同国人の名・・・あの一瞬のときめくような感動を思い出しました。

投稿: | 2009/02/25 16:41:27

おはようございます。今も私は茂木様にはまっています。
「赤毛のアンに学ぶ幸福になる方法」
「涙の理由」併読中です。
そして、いよいよ3月4日大阪帝国ホテルにて茂木様にお目にかかれる機会が訪れました。
事あるごとに、「茂木さんに~~~」と言っていると、チケット押さえましょう!と言って下さる方と出会いました。
ワクワクです。仕事を丁寧ににこなす。
願いは叶うと信じて行動する。実現しました。ありがとうございます。

投稿: | 2009/02/25 10:18:54

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