« 朝日カルチャーセンター 《対談》「パイパー」 | トップページ | 憲政の常道 »

2009/01/17

日常が戻ってきた

それにしても、ドイツ、特に
ワイマールやエアフルトは寒かった。

飛行機を降りて、冬でも陽光輝く
日本の風土に触れたとき、
「思い出し寒い」
になった。

研究所に直行。

脳科学研究グループの会合。

高野委未さんが、secure baseや、
attachmentなど、修士の構想発表の
内容をプレゼンテーションし、
皆で議論した。

research community内でも、
あまりよく議論や整理がされていない
概念があることが明らかになる。

やるべきことはたくさんある!

箆伊智充くんが学振に通った
というので、皆で「おめでとう!」
と言う。

ぼくも大学院生の時にもらっていた。
奨学金と違って、返さなくていいし、
研究費もつくので、学生にとっては
とってもありがたいのだ。

朝日カルチャーセンターへ。

バッハの音楽、ルターの宗教改革、
道化という表現形式について。

Jaak Pankseppの論文を二つ取り上げる。

Panksepp, J. & Burgdorf, J. (2003) "Laughing" rats and the evolutionary antecedents of human joy? Physiology and Behavior 79, 533-547.

Panksepp, J. (2005) Beyond a Joke: From Animal Laughter to Human Joy?  Science 308, 62-63.

あっという間に日常が戻ってきた。

日常というものが、いくら繰り返しても
飽きることがないのは、
結局、何回やってもうまく行かない
からだろう。

___________
 私たちの行動は、客観的な視点から見れば、具体的にとらえることのできるものである。また、自らの行動の結果を鮮明なクオリアを伴った感覚を通して認識し、具体的に把握することもできる。
 しかし、私たちの心の中で、行動のコントロールはとても抽象的な感覚として成立している。この「抽象性」が、「行為に向かう表象」と前2章で論じた意味での「ポインタ」と共通している点である。行為のコントロールに伴って私たちの心の中に生じる表象は、カニッツアの三角形の錯視において、3つの向き合ったパックマンを見た時にクオリアを伴わない「3角形」がそこにあるよう感じるのと同じような抽象性を持っているのである。
 例えば、10メートル先に立っている棒に、ボールをぶつけるという課題を行っている時、「私」の心の中で運動のコントロールがどのように表象されているかを考えてみよう。
 まず最初に適当に投げてみると、球が弧を描いて棒を越していった。飛ばし過ぎたかなと思うから、今度は少し「緩め」に投げてみる。すると、距離はちょうど良かったのだが、少し右にずれてしまった。そこで、今度はやや「左気味」に投げると、また球が棒を越して飛んでいってしまった。何回かやっているうちに、「良い感じ」で球が飛んでいって、見事棒に当たった。ところが、もう一度「良い感じ」で投げるのを再現しようとしても、うまくいかなかった・・・。
 私たちが意識的に運動のコントロールをする際、私たちは詳細に運動の各プロセスを眺め、それを精密に制御することはできない。私たちの心の中で、運動のコントロールは、「緩め」、「左気味」、「良い感じ」といった、きわめて抽象的で曖昧な感覚を通して行われている。私たちの心の中に現われる運動のコントロールに伴う表象は、客観的に見た運動とは似ても似つかない、抽象的なものなのである。運動選手が、「イメージ・トレーニング」という形で、何とか自分の体の動きをイメージとしてコントロール可能なものにしようとするのは、「私」から運動のコントロールが、もともと具体的にイメージしにくい、抽象的なものであるからである。この運動の抽象性を何とか乗り越えようとして、運動選手はイメージ・トレーニングをするのだ。
 私の心の中では、運動のコントロールは、「具体的」なものというよりは、むしろ「抽象的」なものとして表象されるのである。運動が具体的だというのは、運動を客観的な視点から物理的空間の中の身体の軌跡として見た場合、あるいは、運動の結果を、感覚器を通して鮮明なクオリアを伴った感覚情報として認識した場合である。私たちの心の中で、運動のコントロールは、抽象的な感覚としてしか成立していないのである。

茂木健一郎 
『クオリア入門』 
(ちくま学芸文庫)より
___________

1月 17, 2009 at 12:44 午後 |

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 日常が戻ってきた:

» 放射能 トラックバック SWANの 「Trust me!」
 「この世で一番怖いものは何?」って質問されたら、私は迷うことなく「放射能!」って答えます。URANIUM怖い。PLUTONIUM怖い。CESIUM怖い。COBALT怖い。とにかく放射線を出す性質のも [続きを読む]

受信: 2009/01/18 1:04:44

» Abu Musa Jabir ibn Hayyan トラックバック 御林守河村家を守る会
ジャービル・イブン=ハイヤーンは 西暦800年前後に イスラムで活躍した近代科学の祖です。 またalgebra(代数学)の語源は、 アラビア数学の書 『hisab al-jabr wal muqbala  (約分と消約の計算の書)』(820年) からきています。 その著者の名前は�... [続きを読む]

受信: 2009/01/18 8:06:20

コメント

こんばんは

かならずべろを出す
野田さんはすごいのですね。。
転化できるのは大切なことなんですね。

ひところ興味をもって、
お姉さんといっしょなど読みました。
ほかにどんなお話されたのでしょう。。
私も聴いて、間近でオーラを感じてみたかったです。
遊眠社の字はすっかり間違えてしまって.. すみませんでした。


日常に飽きることのないないのは、うまくいかないから..というのに
しみじみ感じました。
オープンエンドなんですね。
意味がちがっていたらどうしよう..

きょうは暦らしく寒い日でした。
あと二時間.. 
夜更かしして、オバマさんの就任演説がたのしみです。

お体をお大事になさってください

投稿: M | 2009/01/20 23:48:43

茂木さん、こんばんは。
日本に戻って、直行で連日のお仕事、お疲れ様でした。
お身体の調子はいかがですか?

朝カルでの自虐ネタ「ロココの天使」は、今年初の大ヒットでした。声を出してはマズイと思って我慢しなければならないほど、心の中で大爆笑していました。ごめんなさい。でも、自虐ギャグ、大好きです。
それから「おせちもいいけどカレーもね。」もタイムリーヒットでした。(^○^)
茂木さんはサイコーです。

今回の朝カルのネズミが笑う論文は、とても面白そうでしたので、もっと一緒に読み込んでみたかったです。自分でどこまで解釈できるか分かりませんが、頑張って読んでみます。

ところで私の日常も、不器用なのでしょうか、何回やってもうまくいきません。
心と脳と身体をコントロールするのはとても難しい。
イメージトレーニングという名の妄想が暴走しそうです。。。(^_^;)

昨日の林先生との対談、是非参加したかったのですが、私用がありましたので、泣く泣く断念しました。明日の対談には伺う予定です。
茂木さんの風邪が早く治りますように。

投稿: 楠 | 2009/01/18 22:36:19

茂木さん
日本での日常は如何ですか?私は最近ずっと書いていなかった詞を書き始めました。スイス ドイツ イタリア etc 私も旅にでかけたいモ-ドになっております~!☆

投稿: yu-ki | 2009/01/18 18:07:18

研究における「やるべきこと」、それを見つけ出すことの難しさを実感し、それを容易に見出すことのできる人々が輝いて見える、そんな今日この頃です。

投稿: buddhologica | 2009/01/18 15:04:40

茂木健一郎さま

以前 飛行機の移動についてブログで

普通の日常

そういう感じでのことを ふと

本当なんですよね 日常であるからこそ 疲れない

海外に参ることが特別と考えた瞬間に心身にも疲れなど影響もあるやもしれませんが日常

それに第一 飛行機で睡眠ですもの

私、一度だけ海外 ニュージーランドにスキー
眠れなく 目がランラン
それに海外の航空会社でしたが 客室乗務員さんのお喋りが聴こえるし


グリーンティー というんですね 日本茶を
海外の客室乗務員さん 日本人の人にもグリーンテイー? とか言いいながら
コーヒーか?グリーンティー?

私の番 客室乗務員さん 『日本茶??』 と 日本語で言い切り
あれは、なんで私だけ、グリーンテイーと聴かないの?
もっとも 日本語で

ありがとうございます! 頂戴しましたけどね

投稿: TOKYO / HIDEKI | 2009/01/18 13:54:07

「思い出し笑い」ならぬ「思い出し寒い」…。うまいですね(微笑)。

今週は本当に世界中が寒さに震えていたように思えます。冬来たりなば春遠からじというけれど…。暖冬だというわりには今年の冬は非常に寒いです。

冬の冷たい寒い感じ…目の前に透き通った深い青い色が見えるようです。

投稿: 銀鏡反応 | 2009/01/18 9:07:50

茂木健一郎さま

クオリア

意識しますと人生、楽だと私は感じます

赤いクレヨンを全員でみて
これが赤い色と当たり前に認識

その赤い色
私の認識しているカラーは他の方でいうと緑やも、その方ですら別の方からすると黄色やも

色彩のクオリア

これは赤い色!全員が認識した、その赤のクオリアが、全員の全世界での約束事

文字も

なんで あ、は あ?

クオリア

私は、ふと
約束事のクオリアは物事の基軸

クオリアを意識しましたら物事の見方も少し変わり楽にです。

投稿: TOKYO / HIDEKI | 2009/01/18 8:11:15

おはようございます、茂木さん。
昨日は ありがとうごさいました。
感謝、すべてに感謝します。
そして私はただのバカ娘だと思い知りました。

茂木さんの風邪が早く良くなります様に…!!!!
私次までにもっと勉強しないといけません。
あの場にバカでは居れない。
茂木さん、今までいろいろごめんなさい。

今日もいい一日になります様に!!!!
                    かしこ

投稿: 光嶋 夏輝 | 2009/01/18 7:29:08

イチロー選手が、スウングの練習をしているときに、あえて別のことに意識を向けてやっている映像を見たことがあるような気がします。
たとえば、歩くときは考えて歩きませんし、オートマチックで歩きます。
緊張すると、ぎこちなくなると思いますが、緊張する状況が日常になると、今度は刺激がないと、落ち着けなくなる気がします。
雑踏では落ち着くけれども、静かなところでは緊張するということがあるかもしれません。
ドル(髪形)が最高級の基準になっていて、それが日常になっていますが、奇跡的なことではないでしょうか。
そして、演じているとき以外はスピーカーになっております。
どうかご慈悲をお願いいたします。

投稿: NHK | 2009/01/18 0:39:33

「それで、私はこれからどうしたら良いんですか!」
避難所で中年の男性が血相を変えて、市役所の職員に詰め寄ってました。

その光景を見たとき、事情はいろいろあるとは思いますが、

自分の人生は自分で守ろう!自分で決めよう。
そう強く思いました。
自分の本能に従ったところに行って、それで死ぬなら本望です。

行政は出来る事はやるでしょう。
ただ、行政の行う事で私たちが完璧だと思う事は永遠に来ないと思いました。
いろいろ言いたい事はありますが、感謝してます!
特に自衛隊! あの方達はナンにもない所に4駆の隊列で衛星電話を持って現れ
さっさとテントを張り、水を配り始めました。自分達の食事は自分で作り
後日にはお風呂まで用意してくれて。。。うきうきしました。
もう2度と自衛隊の事を要らないなんて言いません!
警察も行政もあんまり頼りにならなかったけど
自衛隊の重機は崩れた家を掘り起こし、大活躍でした。

本日質問しようかな〜と思ったんだけど
答えは自分の中に有るな、と思って止めました。
でも、あと20分あったら質問したか〜

その質問は「活断層の真上に高速道路や学校を建設してますが。
その点どうお考えですか。そしてその建築についての対応は?」ですね。


投稿: hana | 2009/01/17 21:25:12

Dear Dr. Mogi

How are you ?
Welcome back to Japan. I hope you enjoyed your trip.

I've read some articles about Mr. Daniele Finzi Pasca recently. He sounds like really a sweet person just like you. Isn't that true? Can't wait to see "Corteo".

I've been reading more of your books last couple of weeks (Yes, I love them all). I always knew I can trust my hunch...well, you are adding extra evidence to it...

I'm looking forward to attending your lecture in February. Please take good care of yourself. Sweet dreams !

投稿: tomoko | 2009/01/17 21:19:20

茂木さん
日本でのお仕事頑張ってください!

投稿: spider | 2009/01/17 20:13:02

茂木さんの運動のコントロールと抽象的な感覚、運動の結果という言葉に美しいものがあるように思え、惹かれました!
すべき事を一つ一つしていけば、有機的にも生命的にも美しきものへと続いていくのではないかと思ったのですが、いかがなものでしょう?
そして…そこにあるのは、幸福感や安定感、満足感だと思います!

投稿: 奏。 | 2009/01/17 20:06:04

日常にお戻りになったのですね、本当にお帰りなさい!完成できないからこそ、繰り返す毎日に意味があるのですね!

投稿: ふぉれすと | 2009/01/17 18:24:36

遅れ馳せながら、ヨーロッパへの「冬の旅」、お疲れ様でした。

常日頃から、この島国を出るチャンスになかなか恵まれない私達からみれば、ヴァイマールやミラノ、ルガーノといった欧羅巴の街は、まさに夢の国のように感じられます。

ヨーロッパ…特に独逸やイタリアには、アジアやアメリカにはない、重々しくも、匂い立つような文化のクオリアが感じられるように思えます。

長い歴史の重みと、人々のどこか理知的な感覚と、そして何よりも美しい藝術の精華の数々。

わたくし個人も、何時かは訪れたい、と思いつつ、その機会は、なかなか訪れません…。


毎日続く日常の中で、新しい“何か”を見つけることをしてみたい。今年はそんなことを考えたりしている。

自分の生きざまが変わるような“何か”を。

自分にとっての日常は、「日に日に新たにまた日に新た」というように、蝉のように脱皮を繰り返して成長していく日々でありたい。

投稿: 銀鏡反応 | 2009/01/17 18:00:07

親愛なる茂木様
急速に日常が戻ってきたのですね。
私は今浅草から帰るとこデス。友達と二人新年会で、▲三角▲とゆーお店でふぐちり食べてきました~っ(^O^)/て、ほとんど共食いです(笑)私はふぐに顔が似てるらしいです(笑)年一回の楽しみかなぁ…
友達にミラーニューロンてぇのはねっと分からないのに語り、茂木さんの本を読んでねっ!と渡してきました~職場でも勧めてます(笑)
昨日は、漱石の三四郎と小林秀雄のモオツアルト、茂木さんの脳の中の文学を買いました~
読むの楽しみデス。
朝日カルチャーセンターの講演内容本にしてほしいなぁって、リクエスト多くてゴメンナサイ。それでは失礼します。ペコリ。

投稿: 眠り猫2 | 2009/01/17 17:37:19

こんにちわ

> 私の心の中では、運動のコントロールは、「具体的」なものというよりは、むしろ「抽象的」なものとして表象されるのである。運動が具体的だというのは、運動を客観的な視点から物理的空間の中の身体の軌跡として見た場合、あるいは、運動の結果を、感覚器を通して鮮明なクオリアを伴った感覚情報として認識した場合である。私たちの心の中で、運動のコントロールは、抽象的な感覚としてしか成立していないのである。

私が、中学生の頃、「ゲームの夢」をよく見ていました。その頃、漫画雑誌ジャンプのこちら亀有派出所で、両さんも、「ゲームの夢」を見ると描いてあって、「ゲームの夢」は、ゲーム好きなら、普通に見るものだと思いました。

その時の夢は、コントローラーを意識せず、下に行く場合、下に行く意思、上に行く場合、上の意思で、動いていました。

ゲームをする場合、言葉と言うより、イメージで動かしている感じです。(^^)

投稿: ゲームの夢のクオリアby片上泰助(^^) | 2009/01/17 16:57:46

先生の日記を読むと、いつもあれこれお聞きしたくなります。運動について。抽象的な運動も具体的な運動も脳の指令次第でよくもなるのですかねぇ。よく運動ができる人は、心肺能力や筋力、体力バランスが優れています。練習以外にも、生まれながらに心臓や肺、身体自体の細胞や機能が優れているというのもあります。脳みそも生まれ持った機能が優れているというのがありそうな気がします。。。

ただ、身体能力が特別優れていない人は、身体は鍛え方、食べる栄養によって運動能力、成長速度も変わります。栄養が足りないと、栄養失調になったり、病気になったり。脳もきっと栄養と密接に関わりますよね。脳もセレンが足りないと鬱になりやすいとか。学者のように沢山考える脳はブドウ糖を必要とするとか。赤ちゃんにDHAと核酸を強化すると脳細胞が増えるとか。
ごくふつうの脳みその人は、せめて脳を健康な状態で維持したい。また、将来老いた親達を支える、また自分が老いるにあたりできればボケたくない。管理栄養士ですが、サプリメントなどアバウトなことしかわかりません。職場は医学部研究室で主人も教授ですが、こういう質問をすると医者たちは、栄養なんてあてにならないといいます。やっぱりあまり脳と栄養は影響するほど関係ないのでしょうか?

投稿: とも | 2009/01/17 16:09:40

お帰りなさい
こちらの寒さなら、我慢できると 体が 憶えているんですねぇ

投稿: no name | 2009/01/17 15:16:06

茂木健一郎さま

日常

ヨーロッパでの日常と日本での日常も

茂木健一郎さまにとって普通であり特別ではなく

ふと、思います

投稿: TOKYO / HIDEKI | 2009/01/17 13:07:24

この記事へのコメントは終了しました。