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2008/12/07

倉庫番

品川からお台場へは、海の気配をする
空間を通る。

「どちらから行かれますか?
レインボウ・ブリッジからでいいですか?」

そう尋ねられた瞬間、胸の中にしゅわっと
弾けるような泡がたくさんできた。

「ザ・ベスト・ハウス123」
の収録。

となりに荒俣宏さんが座った。

荒俣さんは、ガラパゴスで、
ウミイグアナのまねをして
潜って海草を食べてみたと言う。

ガラパゴスは乾燥して食べものの
少ない島。

海中のエサをとるという戦略によって、
ウミイグアナは大幅に個体数を
増やすことができた。

汐留へ。

『世界一受けたい授業』の
収録。

担当の木村光一ディレクターが、
力を入れて、
白黒のhidden figureの
新作をつくって下さった。

「木村さん、眠っていますか?」

「いやあ、あまり眠っていません!」

スタジオでは、木村さん入魂の
問題が受けて、大いに盛り上がった。


木村光一ディレクター。


スタジオで講師が使うテクスト台本

木村さん、お疲れさまでした!

「倉庫番」というソフトがあって、
ときどき面白いからやる。

静岡の河村隆夫さんから
どーん、どーんと荷物が届いて、
ぼくは「倉庫番」になった。

二つの荷物のそれぞれが重く、
片手にも提げているので運べない。

唯一の解は、一個をxメートル前進させて下に置き、
もう一個をyメートル前進させて下に置き、
そうやって往復しながら少しずつ
前に進むとだということわかった。

なんとか運び込んで改めて、
河村隆夫さんという人は
ときどきビックリなことを
なさるなあと思う。

どーんとどでかい。

いやあ、びっくりしました。

河村さん、本当にありがとうございました!


河村隆夫さんと。上野公園で。

何となく思いだして、ずっと気にかかっていて、
木村秋則さんの
DVDをもう一度見た。

木村秋則の仕事-りんごは愛で育てる-DVD

7年間花が咲かず、もう死のうと
思って夜一人、岩木山に登っていった木村さん。

まさにその時に、無農薬無肥料のリンゴ栽培の
決定的なヒントをつかむとは、
なんと不思議で、そしてドラマティックな
人生なのだろう。

木村さんの畑を訪れてからもう少しで
2週間経つ。

文明の中で何やらわけのわからないことに
なっている私たちにとって、
よくよく考えてみるべきことが
あの雪の中の美しい赤いリンゴの姿に
宿っていたように思う。

それは、不思議な回路で、クオリア
問題にもつながっているように
直感するのだ。

『奇跡のリンゴ』(石川 拓治 著,
NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」制作班監修、幻冬舎)に載せていただいた
私の文章「木の上に広がる青空」
の一部をここに掲載する。


全文は『奇跡のリンゴ』でお読み下さい。

「木の上に広がる青空」

茂木健一郎

 大きなものに出会った時は、なぜ、すがすがしい気持ちがするのだろう。
 NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』の収録のスタジオで、木村秋則さんにお目にかかったその日。住み慣れた「文明」というものを覆っていた厚い天蓋が外れ、広がるどこまでも深い青空が露わになった。今まで気付かなかった生命の可能性がきらめいていた。その雄大な風景の真ん中に、小柄な木村さんの姿があった。木村さんとお話したことは、今でも私の心の深いところにくっきりと刻み込まれている。
(中略)
 不可能とも言われた無農薬、無肥料でのリンゴ栽培。その実現に向けて苦闘してきた木村秋則さんの人生は、まるで一編のドラマを見るようである。
 品種改良されて実が大きく甘くなったリンゴの木は、病虫害に弱い。農薬を使用しないことで、虫が大発生し、葉が病気になって落ちる。季節外れに咲いてしまう花。翌年はもう花芽が出ない。周囲の通常のやり方で農薬を使ったリンゴ畑が順調に実をつけているのに対して、木村さんの畑だけ惨状を呈す。「かまどけし」と言われた所以である。
 木村さんは、手をこまねいて見ていたわけでは決してない。真空管を使って、コンピュータを作ろうとする。そんな創意工夫の木村さん。いつも何かをしていないと気が済まない。あれやこれやと試してみる。周囲の人が感化されてしまうほどに、明るく前向き。そんな木村さんでも容易には越えられないほど、「無農薬・無肥料」のリンゴ栽培という壁は高かった。
 木村さんはとうとう追い詰められた。死を決意して登っていった山中で、リンゴの木の幻を見る。そして気付く。山の中では誰も農薬を散布などしないのに、木々の葉は青々と繁っている。その秘密が、木の下のふかふかと土にあることに気付いた時、木村さんの長い苦労はやっと報われた。夢中で山を駆け下りていった。死に場所を求めて山に登っていったことなど、すっかり忘れていた。
 山の中の豊かな生物相。その中で育まれた土。ふかふかの土の中に張り巡らされた木々の根。自然から与えられた環境の中で、植物たちは農薬も肥料もなくすくすくと育っている。大自然の中の生命力の由来するところに関わる木村さんの発見。それは、まさに「コペルニクス的転換」であった。その深い意味、理屈の全貌がわかるためには、人類は何十年、あるいは百年以上の時間を要するのではないか。
 農薬を散布するということは、すなわち、畑の生態系を力づくで押さえつけるということである。そのようにして「無菌状態」にすれば、リンゴは確実に稔る。人為的なコントロールも可能である。人工的に管理された閉鎖空間で「大量生産」するという工業製品と同じようなアプローチで、近代における農業の道は開かれてきた。その恩恵は、確かにあった。
 農薬や肥料を投入して「管理」する農業は確実に高い収量を上げることを可能にする一方で、環境に大きな負荷をかけてきた。農薬の散布によって本来存在した生態系を破壊されるだけではない。継続して肥料を投入することで、土壌が本来持っていた力は失われる。自立する自然のかわりに、常に「点滴」をしなければ維持できない病気の状態が現れる。その中で育つ作物が、本来の生命力を発揮できるはずもない。そのような状況は、当然、作物の味にも反映される。
(中略)
 薬漬けの無菌状態で、栄養剤を補給されている。それは、私たち文明人自身の姿ではないのか。木村さんが発見した、「りんご本来の力」を引き出すノウハウは、私たちの生き方にもまっすぐにつながる。果たして、私たちは自らの内なる生命力をよみがえらせることができるのか? 情報化の中で、ともすればやせ衰えていく私たちの生きる力。木村さんのりんごが私たちに突きつける課題は大きい。
 木村さんの「奇跡のりんご」から「りんごの恵み」を引き出すことができるのか。これからの私たちの精進にかかっている。木村秋則さんのりんごの木の上に広がる青空は深く、大きい。

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クオリア日記 「奇跡のリンゴ」 

12月 7, 2008 at 09:58 午前 |

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コメント

茂木さんはじめまして、最近茂木さんのブログ拝見しています。茂木さんとの出会いはアハ体験が最初でした、面白い先生がいるんだなという第一印象でしたが、テレビで頻繁に茂木さんを見てコメントを聞くうちに「なるほど、なるほど」と気づきを得ることができ、次第に茂木さんのファンになっていきました、最近では本も読ませて頂いています。過去のブログも少しずつ読ませて頂いていますが、10月24日、25日にアップされてます『学問は青天井』と『他人と接して生きる実感を得る』の講演が聞けないのですが、mp3データは削除されたのでしょうか?、ぜひ聞きたいのですが、よろしくお願い致します。

投稿: | 2008/12/08 2:18:07

初めてコメントさせていただきます。
とても面白く拝見させていただいてます。

プロフェッショナル仕事の流儀は大好きな番組で自分自身にもいろんな影響を与えてくれます。

茂木先生のこれからの活躍も期待してます。

それでは失礼します。

投稿: TSUNE | 2008/12/08 1:46:40

茂木先生こんばんは♪『奇跡のリンゴ』拝読させていただきました。本当に感動しました。(;_;)
木村さんがリンゴの木に枯れないでくれとお願いするところも、そして木村さんの命賭けの愛情にこたえるべく、見事に咲き実らせたリンゴの木の生命力にも言葉がありません。
周りの自然の中で生かされているという事、忘れてはならないと改めて深く感じました。先生、いつも素晴らしい記事を有り難うございます。とても、心に響きました。
それではお休みなさいませ☆(≧ω≦)ゞ☆

投稿: | 2008/12/08 1:44:55

茂木さん、今晩は。
毎日、お忙しいのに「倉庫番」のパズル・ゲーム?!
までなさるとは!脳を休める時間はあるのですか?

木村秋則さんの回は残念ながら拝見いたしておりません
が、本当にドラマティックな人生であり、不思議ですね。
こんなことって起こるのですね!

今日、父と母にこの木村さんの無農薬・無肥料のリンゴ
の話をしたのですが、「凄いことだよ!腐らないはずだ、
農薬も肥料も使っていないのだから。」と感心していました!

それにしても私たちが自然から教わることって沢山ありますね。

「雪の中の美しい赤いリンゴ」と「クオリア問題」・・・。
う~ん、深いですね!でも本当に私は理解できているかしら?(笑)

木村さんの7年間、花を咲かせなかった・・・それでもいつかは!
との思いを抱き続けられた!
ここに木村さんの諦めずに、自然と向き合った、ひたむきな気持ち
や粘り強さが「奇跡のリンゴ」をつくるに至った凄さがありますね!

「奇跡のリンゴ」、近い内に読んでみたいと思います。

でも、ということは、作物は自然の力だけでよい?!
農薬も肥料も本来は必要がない!ということなのでしょうか?

自然体が一番!
自然に勝るものはないのかもしれませんね。

では、おやすみなさい。

投稿: | 2008/12/07 23:45:34

海という文字から、海の香りを思い、海の満ち引きを感じた。私にとっては、癒しのイメージです。

『継続して肥料を投入する事で土壌が本来持っていた力は失われる。自力する自然のかわりに、常に「点滴」をしなければならない病気の状態が表れる。』との先生の文と、それからの一節。
私たちが生きていく中で、希望になりそうな事と思います。そのきっかけで、変われるのだと思う。


私たちの内なる生命力をよみがえらせること。
それには、自身が喜び溢れる方向へ導いてもらえるよう、自身の内なる声をしっかり聞いて動いていくことだと思う。

投稿: | 2008/12/07 21:44:16

先日5日、僕が茂木さんに質問をさせていただいたときに、木村秋則の話をしていただいて、大変興味を持ちました。

「死を意識するまで考え込んでようやく見えてくる大発見。」
結果ではなくそのプロセスに神秘的なものを感じます。

艱難汝を玉にす。
改めてその普遍さに思い当ったような気がします。


最後に茂木さんに言われた
「化学会の木村秋則になれ!」
という言葉を胸に、頑張っていきます。
これからもブログにお邪魔させていただきます。

投稿: | 2008/12/07 21:14:29

茂木さん、おこんばんは。
本文からズレてしまいますが、小林秀雄さんのCDを聴きました。あたたかくやわらかいなかに強さを感じる声でした。空間とこころがその声に包まれていきました。決して易しいことを言ってるわけではないのにどうしてなんだろう?あたしはきく前はこわいと思っていました。でもきく前から小林さんの声を知っていた気がします。聴いた瞬間、安堵しました。

投稿: | 2008/12/07 20:28:29

茂木健一郎さま

過日の六本木ヒルズの屋上野外展望施設に クオリア 本質です

経営している森ビルさま ごく普通にガラス越しに展望施設を運営されていても 森ビルさまとしては特段
逆にあえて強風も吹く 屋上野外展望施設を開業
凄い
そして実は 茂木健一郎さまも森ビルさまと全く同じです

テレビにご出演され 講義もされ それだけでも十分に説得力がある存在感ですのに

ブログでテレビどころではない物事の本質 クオリアに鋭く迫る

テレビの情報番組など、ナレーションを読ませて頂けている感覚です。

実はフランス 休館日の美術館

ブログを拝読した後での放送 放送内容が時間の制約でしょうが 物足りなさを感じています実は私は。 これは来年も 来年は もっとじっくり ダ・ヴィンチ そして 浮世絵!! テレビ番組で鋭く迫って頂きたいです。


投稿: TOKYO / HIDEKI | 2008/12/07 18:30:20

木村さんの赤い大きな大笑いしているりんごの実のように
大笑いして生きていければ本当に幸せなことだろうなぁと
深く感じます。
自分の内なる自然に耳をいつも澄ましていたいと強く思います。

とてもとても自然の風を身体に当てたいと匂いを嗅ぎたいと
思いました。
その中で新たな発見も感じたいし生き物らしさも感じたいと
思いました。
きっとそこからがスタートと
思いました。

投稿: | 2008/12/07 18:18:51

いつかこの日記で拝見した、木村さんの林檎畑での、真っ白な雪の中に置かれた林檎の、鮮やかな赤の色彩が、いま目の前によみがえってきた。

何も入れない。入れるのは自然の風と、水と、豊かなる土の滋養だけ。死を決意するほどの苦しみを乗り越えて、木村さんの手で生み出された、奇跡の林檎。

そんな自然の慈しみと共に生き、生きる力あふれる作物を作り続ける木村さんのお顔は、何時拝見しても、本当に穏やかだ。

翻って、農薬や化学肥料で育てられ、そのうえ加工する際、各種食品添加物に塗れた食べ物を口にし続ける私達。それが生命力の減退を招いていると知ったのは、ついこのあいだのこと。考えて見れば、恐ろしくもある。

これからの時代、木村さんのような人にならって、猛毒の農薬や多過ぎる化学肥料を使わない作物が、私達にとって身近なものになってほしいと願いつつ…。

木村さん、何時までもお元気で頑張って下さい。

投稿: 銀鏡反応 | 2008/12/07 18:16:59

こんにちわ

20年ぐらい前、PC8801から移植された、PC9801版の倉庫番をやった事があります。PC98の処理スピードが速く、一つ動かすのに二つ以上動いてしまい、ドキドキしながらやったおぼえがあります。


今から、世界一受けたい授業を楽しみにしております。(^^)

投稿: | 2008/12/07 16:53:03

こんにちは。

いま「倉庫番」に、ドキッー! としました こんなシフトがありました。
たとえば、VTRの倉庫は、温度・湿度が管理され、それがかなりの低温で、フリースにひざ掛けを持参しなければ、しばらくの在室を維持するのは難しいです。あっ!もしかしたら、ご存知かも。

「絶対不可能」なんて、もしかしたら、生命を持つ全ての者の「死亡率」を、99パーセント以下にすること以外に、ないのかもしれませんね。
常に心身と相談ですが、「限界値」なんて、なくてもいいのかもしれません。

投稿: | 2008/12/07 14:21:45

「奇跡のりんご」からは多くのことを学べます。私の生活は気がつかぬうちに肥料まみれです。文明の機器、発達に守られる反面、人間本来の持つ免疫力が失われているようにさえ思えます。

投稿: | 2008/12/07 10:53:29

茂木健一郎さま

茂木健一郎さまの存在感

羅針盤

灯台

正しい方向性を人生の指し示されている

そう、自然に思います。

投稿: | 2008/12/07 10:34:16

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