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2008/11/27

ワシントン以来このところ

ソニーコンピュータサイエンス研究所

 関根崇泰の横に並んで、
関根の論文のMethodsの部分に
手を入れていく。

 「関根さあ、methodsは何のために
あるかわかっているよね。」

 「ええ。」

 「お前の実験について全く何も知らない人が、
methodsを見ただけで必要ならば再現実験
ができる、そのように書かなくっちゃならない
んだぜ。」

 「そうですね。」

 「だから、君にとっては当たり前のことに
なってしまっていることを、言語化しなくちゃ
ならないんだよ。つまり、「暗黙知」を明示的に
示さなければならないんだ。」

 お昼頃になって、所眞理雄さんと、
ナターリャ・ポリュルアーフさんが
やってきた。

 「茂木さん、お昼行かない?」
と所さん。

 連れだって、お寿司屋さんに向かった。

 混んでいて、所さんはお誕生席に座る。

 ナターリャはロシアからやってきていて、
システム生物学を研究している。

 いつもつい英語でしゃべってしまうのだけれども、
日本語でしゃべっているのを聞いていると、
随分うまい。

 「ナターリャは日本語うまいね。」

 「勉強をしています。」

 「それじゃあ、これわかる? 向こうから
お坊さんが来たよ。そう。」

 「ん? なんですか?」

 「向こうからお坊さんが二人来たよ。そうそう。」

 「そうというのは漢字?」

 「向こうからお坊さんが三人来たよ。そうそうそう。」

 ナターリャは、『吾輩は猫である』も
日本語で読むのだという。

 所さんと、ワインの話をする。

 造詣が深い所さん。

 今年のボジョレーはやや甘かったが、
ワインとしては良い年だったというのが所さんの
見立てだということである。

 研究所に戻る。

 「だからさ、関根、この乱数発生の
メカニズムには、constraintがあるんだよね。」

 「この、デジタル・メトロノームの
ソフトウェア名は? どのコンピュータの上で
走らせたの?」

 「うわあ、これは工数が多い作業だなあ。
ロジックをすっかり入れ替えてしまわなくては。」

 ぶつぶつ言いながら、関根に質問して
文章を直していく。

 ここで、関根崇泰という男について
ぼくが思うところを書く。

 かれは観念や思想の展開においては
たいへん優れていて、それは、先日
現代思想に掲載された彼の論文にも
表れているところである。

 関根は、思想家としては一家を
なしていると言えるだろう。

 関根の現在のところの弱点は、
経験科学に必要な、さまざまな論点を
操作的に定義し、あくまでも客観のメタ認知を
もって展開していく能力が足りないところ。

 これは、案外難しいことなんだな。
 経験主義というのは単純なようで、
実は一種の「狂気」を含んでいる。

 自分が出した理論でも、あたかも
机の上に置かれたオブジェのように、
あちらから眺め、こちらから眺め、
あそこが出っ張っている、ここが引っ込んでいる
と議論しなくちゃいけないんだと
いつも言っているだろう、関根くん。

 ところが、そもそもオブジェが
どのような姿か、メタ認知を持って
彫琢しなければ、確定さえしないんだよな、
これが。

 一緒に並んでmethodsを直している時間の
中で、関根が何かをつかんで
一気にロケットに着火、偉大なる研究実践者
としての勢いをつかんで欲しいというのが
私の切なる願いなんだよ。

 あと、これは今更言っても何なのだけれども。
英語力をもう少しなんとかしようね、
タカヤスくん!

 白熱電球のようにかっかと照らし出された
午後の時間の流れに、

 近頃幸せなる種族の一員、野澤真一が
やってきて、関根と一緒にご飯を食べ始めた。

 ぼくはそれをちらちら横目で見ながら
論文を直し続ける。

 いいんだ、諸君。ぼくにはフリスクがあるよ。

 「茂木さんはフリスク中毒ですね。」

と野澤。

 そういえば、ワシントン以来このところ、
中毒の割にはその味を忘れていたヨ。


ご飯を食べる関根崇泰くんと野澤真一くん

11月 27, 2008 at 06:24 午前 |

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コメント

今日のお話しにある
オブジェやメソッド、暗黙知など…
今までは、(ごめんなさい!でも)ちょっとよく分からなかった部分があったのですが、何故か分かります。

そして…人の人生にも当てはまりますね。

オブジェのお話は、どのような人生設計をしていくか…に、当てはまるように思えます。

私も、自分なりに夢や希望を混ぜたオブジェがありますが、議論はまだ出来ていないので、これが本当に良いオブジェとなるのか、今は分からずドキドキしています。そして…その議論に達するまでが、暗黙知なのかなぁ。

何れ議論は出来ると思います。良いオブジェにしたいですね。
これも勇気を出して踏み出すと簡単にできるのかしら。


ナターリャさんとのお話しの「僧そう僧」面白くて、にやけてしまいました。


フリスク…辛いんですが、食べ始めると止められなくなりますよね。
因みに、フリスク。私のバックの中に、入ってます。

幸せな種族の一員の野澤さんとは、なんだか見ていて ほんわか幸せ〜な気持ちになりました。

投稿: 奏。 | 2008/11/27 23:02:10

“坊さんものの日本のジョーク”といえば、むかし、

「元旦に坊主が二人で“和尚がツー”」(お正月)

というのがあった、と思うのだが(たしかこれは、かつての『スネークマンショー』のネタのひとつと聞いているのだが)

「向こうからお坊さんが来たよ。そう」(僧)
「お坊さんが二人来たよ。そうそう」(僧、僧)…これはうまい!スネークマンショーの「和尚がツー」を超えている、とバーン!と膝を打ちました。

そういえば、私事で恐縮ながら、ギャグでもジョークでも何でも、何処か乾いたナンセンスものが、子供の頃から大好きだったのを思い出した。

サイレント時代のお笑い映画でも、笑わせてあとで泣かせるチャールズ・チャップリン作品より、はじめから終いまで、徹底的に乾いたナンセンスギャグで笑わせるバスター・キートン作品の方が肌にあっていた。

小学生の頃、よく見ていた朝の幼年向け番組に「ポンキッキ」と「カリキュラマシーン」といった2つの番組が合った。子供心に「ポンキッキ」よりも「カリキュラマシーン」の大人的なナンセンスぶりがトテモ面白くて非常に好きだった。

「ポンキッキ」は如何にも標準的な幼年向け番組といった感じで、詰まらなかった。「カリキュラマシーン」は残念ながら、自分が中学2年のときに終了してしまった。

あとで知ったことだが「カリキュラマシーン」はあの「ゲバゲバ90分」シリーズのスタッフの製作だった。これと同じような、ナンセンスのスパイスが効いたジュニア向け番組は、もう生まれないのだろうか…?

乱世になればなるほど、「向こうから坊さんがきた、そうそう」とか「ゲバゲバ」でやっていたような高度(?)なナンセンスなジョークや笑いが求められているような気がしている。

おお、そういえば私も、茂木さんがフリスク好きであることをすっかり忘れていました。

きょうは、記事とは無関係なコメントになってしまいました。明日は少し暖かくなりそうです。お体くれぐれもお大事に。

投稿: 銀鏡反応 | 2008/11/27 21:56:33

茂木先生こんばんは♪難しすぎて研究内容は理解出来ませんが、記事から先生の熱い思いが伝わってきました。愛するクオリア日記の読者の一員として関根さんにエールを送らせていただきたいと思います。頑張ってください(*^∀^)/
いいんだ、諸君。僕にはフリスクがあるよ…あまりに可愛いらしくて思わずハグしたくなりました((●ω●))。。。大変失礼致しましたm(, ,)m
先生の著書『脳内現象』前書きより“少なくともタブーを恐れず挑んでいくアインシュタインの勇気に学ぶことはできるだろう。読者がそのような勇気をもって、ともに考えてくれることを期待する”
無知ですが、それでも大尊敬する先生と心を共にさせていただいているつもりで、今から拝読させていただきます。
(`・ω・´)ゞ

投稿: wahine | 2008/11/27 21:50:44

どうしてお昼にお寿司を食べたのにコンビニ弁当のようなものを
気になって横目でちらちら見られるのですか?
先生は、フリスク中毒なのですか。
私は食べたことがないと思いますが、眠気覚ましにもなる
爽快感のタブレットなのですね、これの中毒なのですか。

どEMUな私も先生から一杯お小言を言われてみたいと
切に願います。

とてもお忙しくて大変な先生のエネルギーの源は何なのでしょうか?
美味しいお酒と美味しいお食事?
精神的なこと?目標?仕事好き?
好きなこと出来ることを全部すること?
何なのでしょうか?

投稿: 穂 | 2008/11/27 18:38:59

こんにちわ

関根さんは、得意の絵で、論文を表したら、シナジー効果があるのでは?

食べたら、おかながいっぱいになるフリスクを開発して欲しい、やせそうな、気がするし。医療費抑制なるし。なんかすごいぞ!?(^^)

投稿: フリスクのクオリアby片上泰助(^^) | 2008/11/27 14:03:25

おはようございます。

《実験について全く何も知らない人が~再現実験ができる、そのように書かなくっちゃならない》
これイチバン大事ですよね!! 心理学実験実習や認知心理での記憶実験のレポート作りで痛感。苦労しました。

《自分が出した理論でも、あたかも机の上に置かれたオブジェのように、あちらから眺め、こちらから眺め、あそこが出っ張っている、ここが引っ込んでいると議論》
自らの考察であっても、また日常生活において、自らの意見を発する時でも(夫に意見する時でも) いったん机上に置き眺めてみることが大切ですね! これは、朝からすごいこと、人生をより良きものにするmethodを教えていただきました
ありがとうございます

投稿: 才寺リリィ | 2008/11/27 7:10:38

ベストハウス見ました。
ダヴィンチのあの絵に引き込まれました。
すごく面白かったです。
どうやら茂木先生と私は同じ誕生日のようです。
感激です。

投稿: 愛子 | 2008/11/27 7:06:31

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