温泉たまご
金沢に着き、桑原茂一さん、佐々木厚さんと
ごはんを食べる。
街に出て、ふらふらとしていると、
目の前に見覚えのある人影が
ある。
「あれ、秋元さん!」
21世紀美術館館長の秋元雄史さん
だった。
「金沢は、狭いんですよ。」
21世紀美術館の事務室で
談笑していると、
新潮社の田畑茂樹さんから
電話が来る。
「実は今、金沢にいるのです。」
「えっ。金沢? 金沢のどこにいるのですか?」
「21世紀美術館にいるのです。」
事務室のドアを開けて外を見てみたが、
とらえることができない。
テーブルに戻ると、田畑さんは
もういた。
「これが、先日白洲信哉さんと対談して
いただいた時のゲラです。」
「お返事ができてなくてすみません。」
「いえ、たまたま別件で金沢に来ていた
ものですから。」
「私はあまり直さないのですよ。」
二カ所に赤を入れた。
大声の人が近づいてくる。聞き覚えが、
と思っていると、やっぱり新潮社の
金寿煥さんだった。
「あれ、何で田畑ここにいるの!?」
金さんが目を見開いて驚いた。
「まさか田畑がいるとは思わなかったなあ。」
海豪うるるさんがいらっしゃる。
滝沢富美夫さんの
親友の鹿野雄一さんも山中温泉から
来て下さった。
外に出て空気とたわむれていると、
「リリーさん来ましたよ」
と呼びに来た。
リリー・フランキーさん、桑原茂一
さんと鼎談。
何だか、この世のものとも思えない
ふしぎな気持ちが
するほどに、しっとりと波動が
共鳴する。
桑原さんは、いろいろなトークを
アレンジして来て下さったけれども、
今回のリリーさんを交えた鼎談にはきっと
「これは」という思いがあったのだろう。
リリー・フランキーさんは、
生きるということの良いことも
悪いことも、光も影も、急流もよどみも
知り抜いているような人だけども、
話していてふと気付くと、
私の横から、驚くほどひたむきで真剣な表情で
こちらを見つめていて、
ああ、このまっすぐさの中に、
この人の秘密があるのだなと感じた。
ふいにまっすぐになるというリリーさんの
リズムは、桑原茂一さんに連れられて
いった打ち上げの寿司屋でも変わらなかった。
「茂木さんはねえ」
とリリーさんが言う。
「学術的な事を言っていても、時々小学生の
ような顔になりますね。学者と小学生が
交代で出てくる。」
銀座の久兵衛で修業されたという御主人の
握って下さる寿司は本当においしく。
もうしわけないことに、私は翌日
伊丹から山形空港に飛ばねばならないため、
特急で新大阪に入らなければならない。
「ごめんなさい、8時には出ないと
いけないのです。」
カウンターに並んだ他の人たちよりも
先に一通り握っていただくという
「促成栽培」となる。
巻物をいただき、時計を見るともう
回っている。
「茂一さん、本当にありがとう。」
握手をして、店の外に出た。
金沢駅に着いたら、何だかさびしくなった。
駅そばの前に立つ。
いつもならば生卵にするところだけれども、
心細かったので、温泉たまごにした。
「値段が違いますよ」と教えて
下さったおばさんの親切が伝わってきて、
ほっとため息をついた。
トークセッションで。桑原茂一さん、リリー・フランキーさんと。
同じくトークセッションで。桑原茂一さん、リリー・フランキーさんと。
打ち上げの寿司屋で。桑原茂一さん、リリー・フランキーさんと。
(撮影:佐々木厚)
10月 5, 2008 at 05:35 午前 | Permalink
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コメント
リリー・フランキーさんの『東京タワー』を読んで、甥っ子は新幹線の中で回りの目も気にせず、涙が止まらなかったという。
私はといえば、上手いなあと感心したが、急いで読んだせいもあるのかも知れないが、泣くところまでは行かなかった(歳のせいかも)。
金沢は出張で何回か訪れた。
金沢駅で印象的だったのは、冬近くで、夜の階段の手すりがカキーンと冷たかったことと、地下の居酒屋で飲んだ「万栄楽」という酒が旨かったことです。「万栄楽」とは、なんともゴージャスな金沢的な名前であるかと思いました。
伝統の地には、いい酒がありますね。
投稿: fructose | 2008/10/06 22:26:35
茂木さんが出演されてるテレビ番組を見ていると、ふとした瞬間、表情や瞳が“小学生”のようになられてるのを見ると、私も何だか温かい気持ちになります。
日常生活なかなか辛い現実ばかりで、心が折れてしまってますが、このブログを読み返すうち、また心が温まりました。
投稿: 三浦ふじ | 2008/10/06 20:05:09
茂木さんこんばんわ...
「学術的な事を言っていても、時々小学生の
ような顔になりますね。学者と小学生が
交代で出てくる。」
それ...とっても分かります。
仕事の流儀…の中でもそんな表情が見えてドキっとする時があります。そういうところが身近に感じられて、好きです。
きっと其処が茂木さんの魅力なのだと想います。
投稿: blog0708 | 2008/10/06 18:27:33
茂木健一郎さま
エノケンさま
喜劇俳優で日本の歴史に刻まれている偉人
同時に親しみもある意味でエノケン、と。
茂木健一郎さま
敬意を持った上で、文中では茂木健さまと、私の感覚では、そう表現が書きやすく大涌谷のこと投稿では、そのようにでした。
投稿: HIDEKI TOKYO | 2008/10/06 7:27:56
いつだったか…海外ロケの番組を拝見しました。
図書館の中で何度もハグされていた姿が印象に残っています。
放送が短かったので再会スペシャルなどがあれば是非見たいです!
投稿: 桃の缶詰 | 2008/10/06 4:55:41
こんばんは。トークショーお疲れ様でした。お写真から茂木先生、リリーさん、桑原さんの愉しそうな素敵なご様子が伺えて是非お次は関東でも開いて頂きたいと思うのであります。(*^ω^*)
温泉たまごからガングロ玉子ちゃんを思わず連想してしまったのですが、私が初めてリリーさんを拝見したのはミラクルタイプでリリーさんのコメントは低い声で甘いのですが内容はシュールでとてもインパクトがありました。たまにエロティックが入る所も大人の色気をかもち出していて絶妙な間といい素敵でした。東京タワー僕とオカンとたまにオトンは純粋な心の青年が夢を抱いて上京し都会の荒波の中、夢と現実の狭間で葛藤しながらも成長していく姿と最後まで息子の幸せだけを願って亡くなっていかれた母親の無償の愛を感じ心打たれたのを覚えています。蕾も最高に良かったです。おでんくんは見ているだけで癒されます(*´ω`*)
関東は夕方から雨でしたが無事に帰路につかれましたでしょうか。それではお休みなさいませ♪
投稿: WAHINE | 2008/10/06 0:31:48
何ですか、その素敵なトークセッションはΣ(゚ロ゚;)いつかそのトーク我々一般人も拝聴できますか!? …それにしても、寿司屋でのリリーさんの指摘、まさに、という感じです。私もそう感じていました笑 だからこそ茂木さんが好きなんです。私もああいう"大人"になりたいなぁ、なんて。学ぶ喜びを全身で吸収できる、そのモチベーションの高さ。茂木さんの著書を読むと自然に明るい前向きな気持ちになります。ああ、私もまだまだ学べるぞーありがとう!!という訳の分からない気分です笑 時々ブログのぞいては吹き出したりしています(^-^)これからますます寒くなりますね、体に気をつけてお仕事楽しんで下さいm(__)m
投稿: 山川 | 2008/10/05 21:42:37
茂木健一郎さま
温泉たまご
私の場合は箱根の大涌谷を連想します、おぼろげに、食べると寿命がのびる、新鮮に響くキャッチコピーが印象。
なにこれ?このロープ?
ブクブクと熱湯が出てくる見所見学に参る坂道の頭上 そのロープからシュルーっと物体が移動
あの光景は
温泉たまご様の、ご移動!なにせ人の頭上をかすめて行く訳です
ただ、お陰さまで、湯上がりすぐの、温泉たまご!食することが可能に。
茂木健さま、箱根にの際は大涌谷の温泉たまご!ぜひに。
私は特に箱根町観光協会さんとは関係ない一般観光客です、ので、数年前の記憶から書いてます。現状の大涌谷と若干違いの場合は あしからず。
投稿: HIDEKI TOKYO | 2008/10/05 17:28:13
セッション、お疲れ様でした。
こういうイベントに参加するのは初めてでしたが、とても面白かったです!2時間半あっというまでした。
ぽろぽろと思いのままにお話されてるのに、それぞれの方の芯にあるものがすごく伝わってきました。
リリーさんや茂木さんのように、コクのある人間になるためには、コクの出し方を追求するんじゃだめなんだなって改めて思いました。
質問を通して対談したかったのですが、ぴったりくるものが降りてこず・・・残念です。。
投稿: 彩 | 2008/10/05 15:10:10
こんにちわ
>「学術的な事を言っていても、時々小学生の
ような顔になりますね。学者と小学生が
交代で出てくる。」
茂木さんは、まだ、小学生の時のような、好奇心を持っている、と、言う事ではないでしょうか?(^^)
投稿: 小学生の時のようなクオリアby片上泰助(^^) | 2008/10/05 14:28:53
二十一世紀塾拝聴させていただきました。質問して「現場感覚が足りない」と指摘された者です。
楽しいお話ありがとうございました。いつもi-podに取り込んで講演や講義を聴いていたので生で聴けて感動しました。
童貞力のお話、お三方ともあけすけに語られていておもしろかったです。現代は情報を摂取する段階では欲望を簡単に解消できます。取り入れた情報を使ってどう前に進んでいくか、どこまで行けるか、というところに欲望を持つべき時代なのだと感じました。
八時には出なければならなかったとは!それなのに三人でのお話も延長して頂いて…。その日の昼に大学で聴いた精神科分野の講演では質問時間が取れなかったので余計にありがたかったです。
まだ最上にいらっしゃいますか。母は結局申し込んだワークショップがいっぱいで行けなかったようです。
これからも著書やお話など楽しみにしています。
お忙しいと思いますが健康にお気をつけて頑張ってください。
投稿: 本間 | 2008/10/05 13:30:49
そうなんです。値段が違いますよね。
そして…現実に戻ってくるんです。
生卵でも温泉たまごでも、どちらでも良くて…お蕎麦が食べられれば良いと。
投稿: 奏。 | 2008/10/05 13:14:55
金沢でのトークセッション、お疲れ様でした。お写真を拝見する限り、茂一さん、リリー・フランキーさんとの語らいのひとときは、充実して楽しいひとときだったと、お見受けします。
リリー・フランキーさんの雑誌イラストを初めて見たのは、もう7年も前になるか。
その頃、POPEYEなる雑誌をよく読んでいた時期があって、リリーさんのユーモラスなイラストと、ウィットのきいたエッセイが載っていて、面白いと思うと同時に、世間を見る目がとても鋭い人だな、と感じたものであった。(「おでんくん」のユニークでかわいいキャラも印象に残っている。)
その後、ベストセラーになった、あの「東京タワー オカンと僕と時々、オトン。」でリリーさんに対する認識が変わった。この人は本当にただものじゃあないな…と。
TVドラマ化したこの作品を見ながら思ったが、突破すべき出口がなく、見通しが悪すぎる日々、あれやこれや迷いながら、必死にもがき続ける日々の中で、それこそ生きているときに起こる色々な葛藤を味わい尽くしつつも、ささやかなれど望みだけは捨てていかない、そのことが生きる上で大きな要になるのだろう。
そしてそれが、苦悩や葛藤の薮を切り開き、新しい人生の舞台に立つ原動力になるのだろう。
TVドラマ版で見た主人公の「オカン」が死にゆくシーンは今も印象に残っている。
主人公が日々弱り行くオカンに生きていて欲しいと願っても、それが果たされずオカンが“旅立つ”。一人残される主人公。死という大きな別れの前には、どんな言葉も出口を失くするものだと感じた。
私自身、いまだ肉親の死には遭遇したことがないが、若し「東京タワー…」の主人公のように、肉親を亡くすことがあれば、誰でもそうなるのかもしれないが、言うべき言葉をなくし、暫くは腑抜けになってしまうかもしれない…。
然し何時かは、腑抜けの状態から立ち上がらなくてはならない。肉親のぶんまで、生き抜かなければならない。
そういう、人生の厳しい局面を若くしてご経験なされたリリーさんの表情は、日記のお写真を伺う限り、何処か飄々としているようにも見え、また哲学者のようにも見うけられる。
「東京タワー…」、今度は原作本を買ってじっくりと読んで見たいと思う。
投稿: 銀鏡反応 | 2008/10/05 10:04:00
リリーさんと 茂木さん なんか 見た目も似てますね。
投稿: 邦之 | 2008/10/05 9:58:59
茂木さん、おはようございます!
『いつもなら生卵にするところだけれども、
心細かったので、温泉卵にした』
この2行で、すべてが伝わって来ます☆
投稿: 月のひかり | 2008/10/05 7:25:01
茂木さん、おはようございます
今日も朝早くから、お疲れ様です♪
リリー・フランキーさん、桑原茂一さんとの対談、
文章と写真だけでも、
その場のしっとり感が伝わってくるような。
とても素敵な対談だったのでしょうね
リリー・フランキーさんのお言葉。
「学術的な事を言っていても、時々小学生の
ような顔になりますね。学者と小学生が
交代で出てくる。」
ブログでもそうですよね~!
難しいことをお話されているかと思えば、
無邪気でメルヘンなお話もされるし。
山形の合宿もがんばってくださいね★
投稿: ももすけ | 2008/10/05 6:43:36