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2008/07/23

すぐれた実存主義者

実存主義の哲学によれば、
人の本質(essence)というものは
最初から存在するのではなく、
その人が積み重ねる選択(choice)、
そしてコミットメントによって
形づくられていくものである。

サルトルは、「アンガージュマン」
という言葉で、本質を作り上げて
いく行為の重要性を表現した。

夏目漱石が、東京帝国大学を
辞めて朝日新聞に入るという
「決断」をしたことは、その後の
漱石の「本質」が形成される
上で重大な意味を持った。

 大学を辞して朝日新聞に這入ったら逢う人が皆驚いた顔をして居る。中には何故だと聞くものがある。大決断だと褒めるものがある。大学をやめて新聞屋になる事が左程に不思議な現象とは思わなかった。余が新聞屋として成功するかせぬかは固より疑問である。成功せぬ事を予期して十余年の径路を一朝に転じたのを無謀だと云って驚くなら尤である。かく申す本人すら其の点に就ては驚いて居る。然しながら大学の様な栄誉ある位置を抛って、新聞屋になったから驚くと云うならば、やめて貰いたい。大学は名誉ある学者の巣を喰っている所かも知れない。尊敬に価する教授や博士が穴籠りをしている所かも知れない。二三十年辛抱すれば勅任官になれる所かも知れない。其他色々便宜のある所かも知れない。成程そう考えて見ると結構な所である。赤門を潜り込んで、講座へ這い上ろうとする候補者は――勘定して見ないから、幾人あるか分らないが、一々聞いて歩いたら余程ひまを潰す位に多いだろう。大学の結構な事は夫でも分る。余も至極御同意である。然し御同意と云うのは大学が結構な所であると云う事に御同意を表したのみで、新聞屋が不結構な職業であると云う事に賛成の意を表したんだと早合点をしてはいけない。
 新聞屋が商売ならば、大学屋も商売である。商売でなければ、教授や博士になりたがる必要はなかろう。月俸を上げてもらう必要はなかろう。勅任官になる必要はなかろう。新聞が商売である如く大学も商売である。新聞が下卑た商売であれば大学も下卑た商売である。只個人として営業しているのと、御上で御営業になるのとの差丈けである。

夏目漱石「入社の辞」
朝日新聞1907年5月3日掲載

http://www.aozora.gr.jp/cards/000148/card2673.html 

「入社の辞」の最後の方には、次のような一節がある。

やめるとなと云ってもやめて仕舞う。休めた翌日から急に脊中が軽くなって、肺臓に未曾有の多量な空気が這入って来た。
 学校をやめてから、京都へ遊びに行った。其地で故旧と会して、野に山に寺に社に、いずれも教場よりは愉快であった。鶯は身を逆まにして初音を張る。余は心を空にして四年来の塵を肺の奥から吐き出した。

これと同じような感慨を、定年前に東大を辞めた
養老孟司さんから何回か聞いた。

夏目漱石も養老孟司さんも、
すぐれた実存主義者である。

京都へ。

桂離宮を初めて見る。

嵐山吉兆へ。

徳岡邦夫さんは、サンフランシスコに
お仕事で行かれていて不在。

夫人の徳岡律子さんとお話した。

「徳岡さんの、どこが好きになったのですか?」
と伺うと、
「変わった人だった」との答。

野比の海岸で、ヨットを出そうとして
いた徳岡さんを手助けしたのが
出会いだったという。

「オレは京都の吉兆の息子だ、
と言っても、私がそれなに、と
全く知らなかったので
がっかりしているようでした。」

とても素敵な女将さん。

同行の小学館「和樂」編集部の
渡辺倫明さんは、料理に至極満足した
様子。

至福の時を過ごした後で、
ただただ、どこまでも
ずっ走って行きたくなった。


徳岡律子さん


ご満悦の渡辺倫明氏

PHP研究所の木南勇二さんから
メールをいただいた。


From: "木南 勇二"
To: "茂木 健一郎"
Subject: TBS王様のブランチ高視聴率でした【PHP木南】

茂木健一郎先生

いつも大変お世話になります。
7/19(土)放映のTBS「王様のブランチ」は
茂木先生の本の放映になった途端、通常より視聴率が3%ほど
上がったと、TBSの方から小生に喜びの電話がありましたので
ご報告させていただきます。
『世界一受けたい授業』とあわせまして、売れ行きも再び
2〜3倍にアップいたしました。
誠にありがとうございます。

また全5広告も出すことになりましたので
ご報告させていただきます。

『脳を活かす仕事術』の再校のご高閲も
ご多忙のところ誠に恐縮ですが8/1の
朝カル時まで何卒よろしくお願いいたします。

木南拝

7月 23, 2008 at 05:55 午前 |

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コメント

「実存」   

     作られ行く自分  知らず本質に従う ・・ 幸

  昨今 支配される自分  知らず壊れ行く ・・ 不幸

     修正のチャンス  自らの意志で拓く

  浅く思う 自閉といわれる人が 自らの意志で開く時代が来る。
       閉じる意志は 開く意志に通じる。

              心は絶えず

  昨日公園のベンチ あたまをかかえこむ 青年を見て・・
  毎日 あてどなく 私の前を通り過ぎる人のひとり

投稿: 一光 | 2008/07/24 9:04:58

こんにちわ


宇宙の本質の理解は、生まれて備わっているわけではない、クオリアの本質とは、何だろう?(^^)

投稿: E=MC2のクオリアby片上泰助(^^) | 2008/07/24 1:22:04

『脳を活かす仕事術』...! 楽しみにしています!

『こころと脳の対話』、某ネット書店で”お取り寄せ”期間が長く、まだ届きません。売れすぎなのですね。書店の平積みを見ては届く日を夢見てドキドキしています。

それから、講演会など本当に精力的に活動されていますが、もっと事前に告知していただければ会社休んででも行ったのに!といつも悶えています。TVや講演会のスケジュールが事前に分かる別ページがあれば...。 自分のことは自分でやりたいとマネージャーをお使いになられていませんが、告知サイト管理人くらいなら...と思われるのでしたら、是非させてください! 鶴の恩返し勉強法でHTML勉強し直します!

投稿: よしぷー | 2008/07/23 23:32:15

こんばんは。

漱石の「入社の辞」を読むと、彼は既に(この国の)大学というのは“教授や博士が穴篭りをする”いわば「タコツボ」と喝破しているのではないか、と思えてくる。

しかも彼は、このとき、本当にリスクが大きい選択をあえてして、偉大な文学者として、己の行く道を開いたのだ。

それにしても、人の本質と言うのは、やはりその人の人生の中で“作り上げられていく”ものなのかもしれない。

実存主義者の知見は、まさしく的を得ていると思う。

人の本質の構築あるいは創造。「私」という「個人」の、もともとの素質に、外側から“自分にとってよいもの”を選んで肉付けしていくことが本当の「成長」なのだとしみじみ思う。

p・s・ところで、きょうからシンガポールに赴かれたとのこと、素晴らしいエピソードを楽しみにしています。

そして何卒、御無事でありますように…!

投稿: 銀鏡反応 | 2008/07/23 23:03:34

茂木さんはもう、シンガポールですね。夫は仕事で一年半くらいですがシンガポールへ行っていました。懐かしいと言ってます。(笑)さて、実存主義・・・人は生きるうえで幾度となく人生の選択をしなければならないですね。中でも大きな岐路、節目と感じるのは、仕事と結婚であったと思います。仕事では、何度となくそのような選択を余儀なくされその都度、迷いの中で自ら決断をし、進んできたような・・・。そこには人との出会いや決断をくだすタイミング、運!といったようなものもありますし、私の場合は常に迷いの中での選択だったように思います。特に女性の場合、結婚後は幾度となく生活環境が変わります。夫の転勤や介護だったり・・・きっと多くの女性は苦渋の決断をしてこられていると思うのですが、そうした日常を経て今、思うことは、無意識の中でいくつものハードルをのり越え、わかること、みえてきたこと、悟ることがあり、人としての「格」がつくられていくのでしょう。そう思えば自分にふりかかってくる全てのことに感謝し、ポジティブに生きられよう!というものですね?!またまたお美しい方、嵐山吉兆の女将さん!なんとも素敵な印象をうけます。「変わった人だったから」と答えられた女将さんと私も同じかな。(笑)結婚は、パートナーを間違ったら大変ですね!何が起こっても一緒にいられるパートナーはいるはずですからね。何を大切に考え、どんな人と、どのような人生を築いていきたいか・・・これが結婚!人生最大の選択ではないでしょうか。自分はどうあるべきかを常に考えられる、実存主義そのもののような気がいたしますね。結婚という形式だけではなく、パートナーと共に歩むこと、そのものが。すぐれた実存主義者に私もなりたいものです。(笑)

投稿: 茂木さんの崇拝者より | 2008/07/23 19:04:20

初めてコメントさせて頂きます。
「仕事の流儀」の国村さんと向山さんの姿に本来の日本人の原点を感じました。国村さん口を出さずに耐え忍ぶ表情。また、向山さんのハンマーを握っている表情。日本人ならではの職人の肌と肌。羨ましい限りです。
一度、焼入れの後、直径7cmぐらいの円柱をハンマーで叩いて微調整する作業をしました。強く叩くときもあれば、弱く叩くともありました。ハンマーの持ち手の手首が悲鳴を上げるのです。集中力を切らすと違うところを叩いてしまうので、凄い精神力がいるのです。
向山さんは、内面の精神力と外面の集中力のバランスが良く、また、そこに喜びを感じているのかなと思ってしまいました。
お二人の細かな作業の積み重ね(社会に還元)が「すぐれた実在主義」でもあり、多くの人間模様を生んでいると思います。また、向山さんの最後のコミットメントは本当に良い顔だったと思います。
「すぐれた実在主義」「コミットメント」を勘違いしていましたら、誠に申し訳ありません。
私は、5年前に「うつ病」の診断がされ社会から離脱しています。一度は再就職しましたが、再び離脱してしまいました。そのためなのか、向山さんが、かっこよく美しく魅力的な目をしていると思いました。
最近、私に何か社会に還元できることはないかと思い、ブログを始めました。文書力は低い、偏っているので情けなく感じながらも積み重ねてみようと思っています。
きっかけが、2つ有りまして、
1つは、茂木さんの「脳を活かす勉強法」です。
  読んでいて、ここに「うつ」の原点があると思ってしまいました。
もう1つは、新聞に昨年の自殺者の原因・動機のトップが「うつ」だったことです。おそらく、来年も同じかなと思います。
名もない私が自殺者を止めれるとは思えませんが、何かの足しになればと思いブログを書いています。決して、単純に日記を書いているわけではありません。本当に多くの人に本当の「うつ」をしってもらいたいからです。
お忙しい方ですので、そんな暇はないと思いますが、宜しかったら、辛口コメントをして頂けないでしょうか。
私のブログに茂木さんのブログを勝手にリンクしました。誠に申し訳ありません。
お体に気をつけて頑張ってください。

投稿: 団 一暢 | 2008/07/23 13:05:36

人生の決断をすること。
選択できる道が無数にある中から、それを選ぶこと。
そうすることで、その人(その人たち)が目指すところへ歩いていく事ができる。

本質という原石を、道を選択していくことで磨いて整えていく。職人さんみたいですね。

ひとりよがりだと、イケナイけれど…それがうまく合わされば、人生をキラキラさせてくれるものだと思う(^-^)


徳岡さん夫婦。素敵ですね。
素敵なお話と、美味しい料理。私も茂木さんの日記からいただきました☆

私は回り道し過ぎてしまったけど、その間も持っていた原石を大切に磨いていきたいと思います。

投稿: 奏。 | 2008/07/23 10:35:07

おはようございます。

もう何十年も前になりますが、当時の東京教育大学に行ったときのことです。
講師みたいな人が校内から出てきたときです。なんか、エリート意識を体全体から発散しているような雰囲気を出していました。私だけの感想かと思ったら、同行の人も同じように感じていました。
そして顔を見合わせて、「いやな感じ」と言ったものです。

十数年前のことです。ある私学の有名な先生が東大の教授になってしばらくしてからのこと、本郷近くでお見かけしました。
また同じ印象です。私たち下々の人間は歯牙にもかけず、アリのように見ているという感じです。

エリート意識は、責任感と奉仕の精神がなければこのように堕落するものなのかと思いました。

漱石も養老さんも、そのような鼻持ちならない大学人に嫌気がさしたのではないのかと愚考しました。

やはり十数年前に、世界的な科学的業績を上げている先生方を取材していたときには、このような印象は一度も持ちませんでした。むしろなにかのコンプレックスに突き動かされ、研究に対する真摯な情熱を感じました。

そういう取材の帰りの車中、「遠藤くん、やはり旧帝大でなければだめだね」と言われたときには、本当にビックリしました(ちなみに私は私学出身です)。
この方は東大出身で、私の上司でもあったのですが、当時政府の審議委員もしていて、大学の先生方にも影響力を持っていたようです。

まったく日本のいわゆるエリート層は腐っていると感じた次第です。

日本にも、publish or perishのようなものがないと、腐ったエリート意識ばかりが肥大した蛸壺大学人が増大するだけだと思いました。

現在は、そういう状況は変わりつつあるのかもしれません。

そこで茂木先生に期待を陰ながら寄せているわけです。コメントを書く皆さんは、先生のお体を心配されているようですが、私はちっとも心配していません。先生のように超多忙だと、病気になる暇はないことを経験上知っています。むしろこわいのは、大きな仕事をしたあとのホッとした瞬間です。私はこれでやられました。私の場合、うつ病でした。

でも、茂木先生は、ずっと疾走されていかれるはずだと思います。そして、ドーキンスやら、ゴリゴリの科学主義者どもをギャフンと言わしめてください。

また、けしかけるようなことを書いてすみませんでした。


投稿: 遠藤芳文 | 2008/07/23 9:55:14

When I was a college senior, I wrote about 夏目漱石「こころ」in graduation thesis.
I think I spent a lot of time to write it. If I think back on it now, I didn't really know anything. Even now I haven't understood yet...

I'm reading the paperback that is 「私の個人主義」 since last week.
Naturally,he is talking about life in Meiji preiod. But I have never feel ancientry in all contents.
Instead,I think it's a thought-provoking book.

I imagine his voice and tone. My consciousness is in the venue.

投稿: yuzuriha | 2008/07/23 8:30:18

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