他者にゆだねる
美というものの進化を考えると、
そこには他者にゆだねる消極的
自己保存というモティーフが
あるように思う。
「モナリザ」を物質的に
破壊するのは簡単なことである。
しかし美しいがゆえに、人々は
それをあがめ、慈しみ、大切に
保存する。
動物の子どもはかわいらしいが、
これも養育者に委ねた保護と
育みのたくらみ所以である。
美しいもの、かわいらしいもの
にまつわる「アウラ」は、その
他力本願的原理に由来するのでは
ないか。
大河プロダクション制作の、
「奇跡の脳ミステリー その時、あなたの脳に
何が起きるのか」
(2008年3月28日(金)
テレビ東京系放送予定)
の収録。
進行は大橋未歩アナウンサー、
ゲストに布施博さん、麻木久仁子さん、
矢口真里さん。
プロデューサーの川口伸之さんは、
アジア大会200メートル平泳ぎで
銀メダルをとったことのあるスポーツマン
である。
打ち合わせをしながら、
天王洲のスタジオへ。
VTRがとても良くつくられて
いて、
スタジオで見ながら
引き込まれた。
ラスムッセン症候群のために
大脳皮質の右半球を手術で摘出し、
その後前向きに生きる女性の物語。
さまざまなものに固有の「味」
を感じてしまう共感覚者の話
(彼がBlackpoolに住んでいるのは、
イギリスの地名でもっとも良い味が
するからだという。初恋の人の名前は
変な味だったので、名前を一部
変えて愛称にしたら良い味になった。
30年前に彼女が書いた名前と味の
対応表を持参、彼は、30年前と全く
同じ組み合わせで答えた。本物の共感覚者を
判別する一つの手法である。)
若年性アルツハイマー病の物語。
最後に、ロシアの神経生理学者
アレクサンダー・ルリアの
『偉大な記憶力の物語』で研究された
Solomon Shereshevskii(頭文字をとってS)
に関するVTR.
シェレシェフスキーは
ジャーナリストなどの仕事もしていたが、
何よりもその驚異的な記憶力で
ロシア社会にセンセーションを巻き起こした。
ある時、メモが禁じられた
講演で、後にその言葉を一字一句再現して
人々を驚嘆させる。
シェレシェフスキーの記憶力の
秘密は共感覚にあった。ルリヤによる
シェレシェフスキーの驚異の記憶力の
研究は、記憶の心理学の研究史における
金字塔である。
VTRでは、ルリヤがシェレシェフスキー
の記憶を確かめるために黒板の上に
書いた脈絡のない(ロシア語の)単語
の写真が登場する他、
シェレシェフスキーの新発見の
「日記」も紹介される。
また、関連して、
カナダのモントリオールで活躍した
ワイルダー・ペンフィールドが
患者の側頭葉を電気刺激して
エピソード記憶を引き出す映像も
紹介される。
川口さんたちががんばって
とても良い番組になったのではないかと
思う。
スタッフの皆様、ありがとうございました。
人が良いものを作ろうとするのは
不死を願ってだとはしばしば言われる。
この有機体としての自分はいつか
滅びる。
しかし、力をもった考え、訴求力のある
表象は残るかもしれない。
その時に永らえるのは、他者の
育み、慈しみゆえである。
つまりは表現者の永遠を願う
実践は本質的に「他力本願」となる。
そして、それで良い。
春の気配が濃くなってきた。
昔の人は、自然が底から蠢動しているのを
感じたのであろう。
生気論が遠くなった現代の合理人にとっても、
感受する心があれば蠢動は確かに伝わる。
3月 12, 2008 at 06:34 午前 | Permalink
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私のHPに表示されている過去の小説などを
時系列で発表しています。
だれも読んで下さらなくてもいいんです(笑)。
所詮自己満足にすぎないことは
承知していますから。
そうして小説のすき間に
その当時のほかの文章を
さし挟んでいくことにしましょう。
『賛歌�... [続きを読む]
受信: 2008/03/12 10:06:56
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コメント
難しい! 文章読んで考えてみました。
他力本願って、
「まだ、今生まれてない人や、作者本人が死んだりして、
会うことができない人(絵の前に立つ人)」が⇒こちら(絵・作者)を見たいと願うってことですか???
妄想とも言えるし人間らしいとも思います。
「ソクタクドウジ」って、耳を澄ませてタイミングを図る、
って感じでしょうか?
…早く出すぎたら雛は死んじゃいますもんね。
投稿: ぼけ茄子 | 2008/12/24 0:55:39
「プロフェッショナル仕事の流儀 人事を尽くして、鬼になる」
昨日、神田三省堂の方に身を委ねるなかで手にした、偶然のような必然の1冊。
ゆっくり読み進めます。
読み返すこともあるでしょう。
しなやかに目を通します。
楽しみです。
投稿: 中村匠哉 | 2008/03/15 10:43:39
名は体を現す。
輿水精一さん。
「山梨県出身、1999年よりサントリーチーフブレンダーを勤める。世界的なコンペティションでトロフィー(最高賞)を受賞した「響30年」(1997年発売)をはじめ、「山崎50年」「同35年」など、様々なサントリーウイスキーの開発、ブレンドに携わる。竹炭濾過製法やミズナラ樽による熟成香味研究など、オリジナリティーの高い技術革新をも行ってきている。2004年には英国の酒類コンペティション International Spirits Challenge(ISC) の審査員に日本人ではじめて選ばれた。」※1
名は体を表す。
他者にゆだねる。
他者はぶら下げている看板を口にするのがコミュニケーションをはかるのに早いと考える。
もしそうだとしたら、輿水精一さんは幾度、他者からその看板たる名前を耳にしながらコミュニケーションをはかってこられたのか。
そう考えると、名の面白さを感じる。
運命めいたものを感じる。
そんな偶然性は必然的なDNAにおまかせしよう。
そちらの知識は浅いので。
もしかすると必然的になるべくしてなったとしたら・・・
名は体を現す。表す。
私は娘に「響」と名付けました。
人と自然と響あう。
そんな素敵なコンセプトで、自らの襟を自らで正せるよう、人と自然と響あいながら成長を遂げて欲しい。
そう感じています。
※1:ビックカメラさんのオーナーズカスクの広告に掲載されていたものを引用させていただきました。特に掲載に困る断り書きも見あたりませんでした。
投稿: 中村匠哉 | 2008/03/15 10:33:43
茂木さん、すみません、コメントが切れてました。
続きお送りしますm(__)m
★続き★
そったくどうじ で言うところの、他力は見えないのではないか。
自分を超えた大きな存在、宇宙や神に、身を委ねようという気持ちは、なかなか起きないのかもしれません。
茂木さんのおっしゃる、他力本願とは角度が違うと思うのですが、
人々が豊かになるために我を忘れて仕事に打ち込む、その精神が時を超えて残ってゆくのは、
他力本願を意識しなくとも、人の美しい姿であると私も思います。プロフェッショナルには、そんな美しい人々が沢山紹介されていて、いつも感銘を受けています。
投稿: ももすけ | 2008/03/14 10:26:12
茂木さん、またまたコメントいたします。
今、携帯でしかネットできないので、分割コメント申し訳ありません。
共感覚について、よく知らなかったので、調べてみたら、凄く面白いですね!
匂いと単語の共感覚、数字と色の共感覚…、共感覚の持ち主は、芸術家や文学者の魂を持つのかなあ…と感じました。
そして、共感覚って程度の差はあれ、誰でも持っているのかな?と思いました。
私は、音楽を聴いていて、それに没入すると、映像が見えるのですが…
どちらかというと、歌詞より旋律に没入するタイプなので、
音に酔いしれて映像が見えて自分なりにイメージ固めてしまうと、
後で歌詞をちゃんと読んだら私のイメージと違っていたりすることがあります。
こういうのも共感覚の一種なのかな(?д?)
すみません、無茶苦茶言ってたらごめんなさいm(__)m
でも、とても美しい映像ばかり見えるので、絵が上手だったら、描きたいくらいです。
投稿: ももすけ | 2008/03/14 4:35:43
茂木さん、こんばんは!
他者にゆだねる、とても興味深く読ませて頂きました。
他力本願が永遠を願うものなら、シンプルに言えば信仰ということですよね…
信仰の対象は様々ありますが、この場合、大宇宙の創造神、ということになるでしょうか。もしくは大宇宙の存在そのもの。
中国の偉いお坊さんの言葉だったと記憶するのですが(違っていたらごめんなさい)
「そったくどうじ」(ひらがなですみません)という言葉がありますよね、
卵から雛が孵ろうとして、雛は一生懸命卵の内側から殻をつつきます。
雛が努力して、殻がある程度割れたら、親鳥が外側からつつき、孵化を助けますが、
人も、自力で頑張っている内に、周囲の応援や引き上げといった他力が臨む、という意味だったと思います。
現代でも豊かな国は、自力に肯定的ですが、他力については、なかなか受け入れ難い面を持っているように感じます。
誰でも努力すれば、物質的に満たされた生活が送られる世界だからだと思うのですが、
しかしその中で、ぶつかる人生の難題は誰にでもあるわけで、
努力してもどうにもならない時、人間の小ささや己の限界を見、諸行無情を知らないと、
そったくどうじ で言うところの、他力は見えな
投稿: ももすけ | 2008/03/14 4:06:15
-ゴッホの晩年の絵ほど真のアウラの消息を伝えているものはあるまい-W.Bは闇の詩人であろう。ある時期のアメリカのフランスの共犯者たちが、無国籍の精神の時空に彷徨ったのは何のためだったのだろうか?
美しいもの、かわいいものにそっと手をふれてみたい欲望と、なぜか、愛でるという眼差しの行為だけに起こる精神性の高邁な喜びとに、心が逡巡することがあるのだが、不可侵の領域に美を探究しようとするなら、美意識に対する共鳴者を探さねばならないだろう。
ヨーロッパの石畳に、黒い森に、パンテオンの奥に、田舎のレストランのテーブルクロスにも、生と死の交錯があり、私を引き止めたり、おし進めたりするアウラが存在しているのだ。
投稿: Nezuko S | 2008/03/13 1:54:08
こんばんは。
青木文化庁長官。
素敵な方でした!
ユーモアがあり、お人柄がうかがえる存在からの空気感。
茂木先生とのお話しの掛け合いがとてもリズミカルで、
ずっと聞いていたかったです。
今日は夕方以降、予約が入らなかったので
(!。カフェ・アオキ)虎ノ門へ。
そんな余韻も残り、帰り道Ο○ーバックス。過剰にベタベタした若い男女のとなり、ザッハトルテをコーヒーでながしこむ。
場所の確認を事前に茂木先生。
目の前を通りすぎた時、声をかけたかったのですが失礼かと思いやめました。
おつかれさまでした。
投稿: 美容師 | 2008/03/12 22:42:59
茂木さん,おこんばんは。
有機体としての存在は滅びても,力強いそして普遍的な思いがこもっているものは受け継がれていくのだろうとあたしは思います。
創り手は魂…創っているときはやはり命懸けだと思うのです。寝食を忘れることだって身を削ることのひとつですし。人からの批判をもさらに自分を信じ抜く力に変えて造り上げる。
やっぱり人に伝えるって本気・真剣・命懸けだって思うんです。
またそうじゃなきゃ人には伝わらない。
ただかなしいことに,いいこと,ほんとうのことは,人に受け入れられるのに時間がかかる現実があります…
これは多くの人が考えるべき問題であろう。
人はみな,それぞれがフラットな場所で,もっと考え,もっと感じそれを個々がもっと信じ判断すべきだろう。あたし自身もつねに自分で自分を縛らないように,と思っています。
フー,こんなところにも創り手の孤独があるのかもしれませんね…
いいもの,ほんとうのことはいつか必ず伝わると信じています。時間はかかっても。
投稿: 柴田愛 | 2008/03/12 22:42:50
半年以上前から、我が家に弟夫婦と生後8ヶ月の姪が同居しています。
手前味噌のようで何ですが…姪は本当にかわいい盛りです。もう8ヶ月なので、部屋の中をあっちこっち、匍匐前進で動き回ります。私がPCに向かっている時にも、そばにやってきます。あまりにも元気に動き回るので、とにかく目が本当に離せないです。
でも私達家族は、そんな姪っこが凄く可愛らしく思えて仕方がありません。
やはり、モナリザやヴィーナスのような、誰が観てもこれは美しいと思うしかない藝術や、赤ちゃんのように可愛らしいものは、見ていると、やはり、これは守らなければならないなあ、という気が起こってくる。
しかし、見かけはそんなに「うつくしく、かわいらしい」と思えない諸々でも、何処かにそれにしかない「美しさ」は具わっている。
(仮令、それが『グロテスク』といわれてしまうものの中にも)
結局、何を美しい、可愛らしいと思うかは、その人の主観にもよる場合があるのだろう。
藝術作品でも、作られたときは奇異なものに思われたものでも、時が経てば美とみなされるものもある…。
その中で、本当に相手の魂を打つものを秘めているものは、仮令どれほど、時が経っても、愛され、生き残っていくのだろう。
投稿: 銀鏡反応 | 2008/03/12 20:50:54
こんにちわ
良い作品には他力本願の要素があると言う事ですが、仏教の因果の考え方に、両手を合わせて、音が鳴る時、右手が鳴ったのか、左手が鳴ったのか、と言う考えがあります。良い作品とは、良い音が鳴った、と、言う事ではないでしょうか?
番組、楽しみにしております。私の地方で放送してくれるかな?(^^)
投稿: 他力本願のクオリアby片上泰助(^^) | 2008/03/12 10:32:47
茂木さんの多彩な表現に脳が癒されています。
とある人物を茂木さんにマリアージュさせてみたくなっています。
社内の人ですが、飲んで笑って心を委ねられるプライスレスな友人です。
彼女の功績はおそらく評価されるべきもの。
しかしながら、僕の目線からは情報社会のルールに縛られた、鳥かごの中の鳥のようにも映ってしまいます。
メバロチン。
私が東海大学を卒業し、就職活動の中でマリアージュした三共株式会社が世に送り出した画期的な新薬。
その開発ストーリーはどうやらプロジェクトXからの打診をいただきながらも放送には至らなかったのが残念でなりません。
彼女はCYP(薬物代謝酵素)の研究にたずさわり、多大な方々の支援のもとで論文を書き上げた。
その論文をもとにメバロチンの添付文書の4.薬物代謝酵素の項に「本剤は、ヒト肝ミクロソームを用いたin vitro代謝試験において安定であり、チトクロームP450の分子種である3A4(CYP3A4)で代謝を受けなかったとの報告がある2)。」の記載がされている。
2)とは「石神未知ほか:Prog Med 1998;18(5):972-980」です。
この事実は米国のFDAが画期的な事実として認めたことで、当時の新聞にも掲載がされたと見聞きしたことがあります。
彼女と会うとほんとに癒されます。
未知という名が体を表すような、異空間に連れて行ってくれる方です。
先日もプロフェッショナル仕事の流儀の観覧に応募させていただく際に、1名か2名で迷い、2名なら間違いなく彼女と観覧させていただきたくなり、彼女に電話。
電話には出てくれたものの、彼女自体も頭の中が火の車の状態だったのでスケジュールがわからずに断念。
僕1名で応募しました。
彼女はワインが好きです。
六本木ヒルズでワインラベルの原画展が催されています。
彼女との都合が合えば行くのも楽しみです。
そんな10時過ぎです。
投稿: 中村匠哉 | 2008/03/12 10:20:26
難しくて・・さっぱりですが。
モナリザの女性わかったみたいですね。まだ議論中かな?
ダビンチの友人の手紙が発見されたとかなんとか。
美でひとつ面白いなっと思ったエピソード。
年を取った(おばあちゃんぐらい)の女性に化粧をしてあげるといままで暗かったのがものすごく生き生きとしてくるみたいです。
女性は化粧とかオシャレがやっぱ本能的な部分になってるのかなって思いました。
先日亡くなった祖母は99歳でしたが、去年白寿のお祝の時、手造りのかわいらしいビーズをつけて顔と髪の毛もおしゃれしてあってとっても綺麗でした。
女性としてうっとりしてしまうぐらい。
きっとその時の笑顔が本当に嬉しそうだったのもあるのかも。
投稿: kazu | 2008/03/12 8:50:07
ありがとうございます。
投稿: 奏。 | 2008/03/12 8:36:17