タイガー・ジェット・シンの生命哲学
どんなに素晴らしい録音でも、
生の演奏には及ばない。
たとえそれが下手くそな
ものであったとしても、
「今、ここ」にまさに
それがあるということから
受ける感銘に及ぶものはない。
すすき野で食事をし、
バーに行って、ホテルに
タクシーで帰る時、
高層建築の谷間に時計台が見えた。
最初は切り開かれた荒野に
建造されたのである。
周囲がどんどん変わって、
いつの間にかビル街となった。
それでも、時計台は変わらない
姿でそのままある。
時計台のような人に会いたいと
無性に思った。
河合塾の建物の周囲を歩く。
札幌はすっかり現代の街の風情を
見せるが、
時折古い時代の建物があって、
はっと眼を開かれる。
時計台にしろ、名もない民家にしろ、
今それがまさに目の前にあるという
ことが、存在の奇跡として
感銘を与えるのだ。
午前、午後の二回、受験生や
父兄に向かってお話する。
お弁当を食べて、それから
ブリッジワークスの安藤さん、渡部さんに
仕事術の話をした。
小学生の頃、新日本プロレスが
好きで、5年生になった時、
一度タイガー・ジェット・シンを見に
行った。
近くの街の体育館に来たのである。
島村俊和が、「他のレスラーは演技だけれども、
タイガー・ジェット・シンだけは本気だから、
気をつけろよ!」
と興奮してささやいた。
体育館の入り口で「入り待ち」をしていると、
タイガー・ジェット・シンがサーベルを
持ってのっしのっしと歩いてきた。
「おおー」とどよめきが起こり、人々が
避けた。
ぼくと島村くんも一緒に下がった。
試合が始まると、いきなりシンが
猪木にサーベルで襲いかかった。
場外乱闘で、パイプ椅子が飛んだ。
それから、試合開始のゴングが鳴る。
場外乱闘の盛り上がりの頃合いを
見て、ゴングが鳴る。
そして、アナウンサーが、
「ただ今試合が始まりました」
と事も無げに言う。
一連の過程をプロトコルとして
「追認する」。
その間合いが、好きだった。
リング上で紹介され、「それでは」
と試合を始めるのではなく、
いきなりサーベルでなぐりかかる。
あれはタイガー・ジェット・シンの
生命哲学。
札幌の街には、思い出したように
雪がちらついていた。
その風景だけは変わらぬ。
雪とひんやりとした空気の
ような自然の風情が、
時計台のような人を支える。
3月 3, 2008 at 07:41 午前 | Permalink
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コメント
直接関係ないのですが、タイガーはかつて軍隊時代の体験から、「人間には殴る人間と、殴られる人間しかいない。だから自分は殴る側に立つんだ」と言う言葉が、ずっと頭に残ってます。
その哲学が、悪役としてスターダムにのし上がった原動力なんでしょうか?
投稿: 島崎FUJIMURA | 2012/04/16 18:21:42
こんばんは。習慣とは凄いものです。体は三ヶ月で体質が入れ代わる? と聞いたことがありますが、 私の脳内は すでに 1、5 ヶ月で 寝る前に ブログ書き込みが 習慣となってきました。 これは・・・。 (笑) 大丈夫?かな?
脳内の活性化 に なっていますので、 必然の光明 と思います。
3月3日のブログ拝見し、 茂木サンの 時計台のような人に 会いたい。 のコメント ・ ・。 いつでも、どこからでも 在り続ける 温かくて 安心できる人 という イメージかな。
茂木サンは 逢えましたか?
投稿: サラリン | 2009/06/28 23:46:20
6/27放送のすべらない話でケンコバも回想してましたね。
投稿: こまねち | 2009/06/28 0:17:08
タイガー・ジェット・シンっていう人知らないです・・
プロレス詳しくなくて。
でも過去ホテルで朝食食べていたら隣にジャイアント馬場さんが。
「アッパー」
って言ったら無視されましたw
友達もひいてました。若かったんです。
音楽はやっぱ生の演奏がいいですね。
感動します。今ここに聴こえてくる演奏の不思議さと
指揮者の力量というかもちろん演奏してる人もそうだけど
オケってすごいな~って思います。
でも、CDでも感動したのがあって
東京公演のムラヴィンスキーのショスタコ5番。
初めて聴いた時感動して泣いてしまいました。
なんてすごい演奏なんだって。
CDを聴いて感動するぐらいだから生はもっとすごかったんだろう
なって思います。
もっと早く生まれていたらなぁ~。
演劇もオペラも落語など芸術ってやっぱ生がいいですね。
投稿: kazu | 2008/03/04 10:51:32
小学生時代、週末の金曜夜8時に見る番組といえば、刑事ドラマ「太陽にほえろ!」か、「ワールドプロレスリング」だった。
だいたい「太陽にほえろ!」のほうを見ることが多かったのだが、時折チャンネルを変えて「ワールド~」を見ると、レスラー同士が場外乱闘を繰り広げる場面に出くわしたりした。
中でもタイガー・ジェット・シンの迫力には度肝を抜かれた。相手めがけていきなりサーベルで切りかかり、反則攻撃を繰り広げるシンの試合スタイルに、それこそ、目を丸くしてTV画面を見ていた。
個人的にはプロレスの試合はTVでもう結構と思うほうだが、コンサートやアートの展覧会には、時折チャンスを見つけては出かけて行く。
去年、ある私立高校の文化祭で、吹奏楽の生演奏を聞いた。久しぶりに聞くウィンドアンサンブルの生きた響きに、魂が震え、躍り出した。
かつて高校時代、私は吹奏楽部に所属していて、ポジションはクラリネットだった。毎日のように朝、学校に来ては必死に練習していたものだ。それ以来、吹奏楽というものが、とても好きになった。
今年の1月にこの学校の吹奏楽部の、定期演奏会が行われるというので、チラシをもらって行くのを楽しみにしていたが、急用が入って行かれなくなり、とても残念な思いをした。
CDやMD、ネットワークで音楽を聴いても、それが素晴らしいと感じたら、大いに脳は喜ぶ。それはヴァーチャルな体験なのだが、普段はそれで我慢しているという感じがある。
でも、ヴァーチャルで満足してたら、生の響きや言葉などに触れて、本当に感動することを忘れてしまうような気がしている。
乱筆長文、何卒お許し下さい。
投稿: 銀鏡反応 | 2008/03/03 19:43:02
こんにちわ
以前、おばあちゃんの墓参りをして、おばあちゃんが住んでいた所に少しよってみた。すると、一帯がさら地になっていた。あの町並みは記憶の中にしかない・・・。
タイガー・ジェット・シンがサーベルを持っていること自体、反則なのでは?(^^)
投稿: さら地のクオリアby片上泰助(^^) | 2008/03/03 18:36:16
おはようございます。
札幌でのサイン会で、こたつで大の字のねこを書いていただき、感激しております。翌日は、河合塾に息子(高1)と娘(高3)を連れ、午前午後両方拝聴させていただきました。愛情たっぷりのエールを子供達もしっかり受け止めていたようです。私にとっても、夢のような二日間でした。本当に有難うございました。お忙しい事と思いますが、モエレ沼は、緑の季節にいらっしゃると、素晴らしさが倍増すると思いますので、是非お時間のあるときにお越しください。
投稿: 加藤 珠美 | 2008/03/03 16:47:15
生の演奏だからこそ分かるコト、雰囲気とか…録音されたモノでも満足する事が出来ますが、生の演奏を見てしまうと、迫力が違う。
…時計台のように、周りが変わってしまっても変わらない。雰囲気とかは変わっていても、心の奥底にあるモノだけは変わっていない…という人に会いたいな、と思いました。
投稿: 奏。 | 2008/03/03 16:14:33
こんにちは。
僕も小学生の頃、新日本プロレスが好きでテレビでよく見ていました(当時、生で見たことはなかったのですが)。
当時のプロレスは、あの時代、あのレスターたちだからこそ作り上げられた独特の「熱」のようなものがあって、面白かったですね。
ご存じかもしれませんが、今、テレ朝チャンネルで、昔の新日本の試合を放送していて、猪木対タイガー・ジェット・シンの試合も放送していますよ。
http://www.tv-asahi.co.jp/channel/
投稿: TAKE6 | 2008/03/03 11:43:22
プロレスのお話、可笑しくて笑ってしまいました。
投稿: Nezuko S | 2008/03/03 8:57:25
こんにちは。いつも楽しく読ませていただいています。
ブログで書評させていただきました。
茂木先生の『思考の補助線』たいへん助けになりました。
http://blog.livedoor.jp/officesherpa/archives/51309744.html
また遊びにまいります。
投稿: しょうだ | 2008/03/03 8:48:04