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2008/02/07

生かす言葉

駅などで階段を登っているとき、
足を交互に踏み出してオイッチニ
オイッチニと歩んでいるうちに
なんだかおかしくて仕方がなくなる
ことがある。

 ボクは人間なんだな。
 身体というものを持っていて、
それが自分にとっての王国なんだな。

 身体という王国が無くなっちまえば、
ボクもなくなってしまうわけだから。
 消えてしまうわけだから。

 だから、国よりも世界よりも
宇宙よりも
 何よりも自分の王国を
大切にしなければならない。

 いわき市立美術館にて、
 いわき市民美術展の作品を拝見し、
審査をする。

 今年で37回目。
 いわき市民美術館は現代アートの
収集に特徴があり、
 美術展も毎年一人の審査員を
招いて全てを委ねるという
独自のスタンスを重ねてきた。
 昨年いらしたのは版画家の
山本容子さんであった。

 賞を選んだあと、800字の
選評を執筆する。
 作品に触れた部分は次の
通りである。

 齊藤弘美さんの「生家(一枚の写真より)」は、庭先で魚を箱詰めするというモティーフを扱って、奥行きのある忘れがたい印象を残す。前面で作業をする女性たちと、背景の男性たちの色彩のコントラストが効果的である。多くの人を描いていながら、構図的に破綻していない。ゲルハルト・リヒターの作品に見られるような、存在するものと過ぎ去りしものの行き交いさえも予感させる。
 ダビさんの「Untitled」は、繊細な模様を描いてそれを水滴で降下させる思い切りの良い趣向に惹き付けられる。しかも、とびっきり美しいのだ。吉田重信さんの重陽は、現代美術に不可欠な批評性における国際水準の作り込みに成功した。さらなる飛躍に期待したい。

 いわきの街を歩く。
 いつも思うこと。
 ボクが、この地に住んでいたら
どうだったろう。
 ここで生活し、仕事をし、
人々と交わり、そのような日々が
重なっていったら、
 ボクという人間はどのように
なって、どんな風に世界を見て
いたことだろう。

 階段を上る。階段を下りる。
 
 列車に乗る。

 土浦あたりで雪が降っている
らしい、常磐線は雪に弱いから
と聞いていたが、
 順調に疾走する。

 もっとも、ボクは眠っていたけれども。

 たどり着いた上野で、雪はむしろ
盛んに降っていた。

『思考の補助線』を読みながら
移動していた。

 自著ではあるが、あらためて
ふり返ると、
 たけちゃんまんセブンこと
増田健史さんには本当に良い仕事を
していただいた。

 たけちゃん、ありがとうと
思っていると、筑摩書房方面から
メールが届いていた。

茂木健一郎さま

雪ですね。
ちくま新書編集部の増田です。

ところで、先ほど紀伊國屋書店をぶらぶらしていたら、
もう『思考の補助線』が並んでいました。
ふと顧みれば、茂木さんの歩みを追っかけ始めてから、
早いもので10年の月日が流れ
たという現実に、呆然としています。
この間、いろいろのご著書を拝読し、
ときには編んできましたが、(ちょっとエラそ
うな物言いをすれば)なかでも今回の
『思考の補助線』は、茂木さんの「本気」のゴ
ツゴツとした手触りが、リアルに伝わってくる感じが素晴らしい。
こういうのは、美徳ですよね。
それに比べれば、他のあれこれなんぞ、
つまらぬことにしか思えません。
まぁ、いいや。二日酔いで、いつもに増して
頭がぼんやりしているのです。
またメールします。禁煙は失敗しました。

増田健史
 
生きた言葉、生かす言葉は
無責任な批評の言語とは異なる。

生命一つを消滅させるのは
簡単だが、
育むのは一苦労。
ましてやゼロから作り上げる
など、人知の及ぶところではない。

育む言葉、思い以外に興味はない。
それが私の世間との付き合い方
である。

今日外を歩き回ったら、
霜柱をたくさん発見してきっと
楽しいことだろう。 

2月 7, 2008 at 07:15 午前 |

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受信: 2008/02/08 7:45:24

コメント

”存在するものと過ぎ去りしものの行き交い”Gerhard Richterについての博士の印象で、改めてRichterの作品を眺めていましたら、Ann WOLFFを紹介したくなりました。ガラスに記憶化されたドイツを表現しているのではないかと思っている、私の好きな作家の一人です。

投稿: Nezuko S | 2008/02/08 3:19:03

『思考の補助線』さっそくGETです。
この日をとても心待ちにしてました。
当初3000冊しか売れないつもりでつくった剛速球…でしたよね。
ちょっとコワイですが(笑)、茂木先生の「本気」の思いに触れられると思うとワクワクします。
ちょうど自分の誕生日なので、この機会に自身のステップアップにつながるよう、
本当にありがたく大切にじっくりと読み進めようかと思っています。

初めてその言葉に出会った中学生のとき以来、
「補助線」ってカッコイイ役割だなと思っています。
今のところ、頭の中では、補助線どころか
ごちゃごちゃと自信のない点線をあらぬ方向に無駄に引いてしまったりしてますが…。
自分自身のこれまでの狭い視野から離れ、
新たな観点を抱き、パラダイムシフトを試みつつ
確かな補助線を導き出していけたらと思います。
たった一本の補助線を引くことで、
それまで困難だった問題が一挙に解決に向かうように。
そして思考の先の可能性が何十倍にも何十乗にも膨らむように。

投稿: | 2008/02/07 23:45:00

育む言葉、思いが茂木さん、その他たくさんの人から
発信され、広まって、世にあふれていけばいいなと思います。
誰もが必要とするものだから かわいいのがつきましたね☆

投稿: | 2008/02/07 23:04:32

たった一言の言葉が、使うほうの心次第で、相手の生命を活かす(生かす)こともあれば、相手の心を傷つけ、時には生命を失わせることもある。

だから、相手にきちんとした形で自分の思いを語るにしても、どうすれば自分の思いが、相手にとって一番よい形で伝わるのか、ということを常に考えながら、対話をしなければ、と思うが、なかなかうまく伝わらないことが多い。

自他ともに生かし合い、育み合う思いを込めて、言葉を語ることができたなら、もう一歩大きな人間に成長できるかもしれない。

「思考の補助線」・・・博士の魂の奥底から語られる、本気の言葉のリアルな感じに早く触れてみたい。


投稿: 銀鏡反応 | 2008/02/07 17:22:34

茂木さーん

投稿: | 2008/02/07 10:52:06

こんにちわ

よく「健全な肉体に、健全な魂が宿る。」と、言う言葉ですが、病気の人や障害を持っている人には、とんでもない言葉だとわかる。知らず知らずに、普段の言葉の上で、自分はとんでもない事を言っているのではないかと、考える事があります。


私は、愛媛の比較的暖かい地方に住んでいるので、今年も霜柱を踏まず春が来そうです。(^^)

投稿: | 2008/02/07 10:03:51

茂木さん、こんにちは。
東京は珍しく大雪だそうですね。

私は、南の島に住んでいるので、
雪とは無縁の生活をしています。

東京に住んでいたこともあるので、
雪の生活も経験はありますが、
運動神経0な上に、
つるつるすべる凍った道を、
たくさんの人に抜かれて、
普段の倍の時間かかって、ひいひい言いながら通勤していたことを
思い出します(笑)

雪の日は、必ず、小さな雪だるまを作って、
古里の家族や友達に写メールを送るのが
私の楽しみでした^^
今では、よい思い出です。


昨日、上司から、ひどい言葉で怒られました。
使命感からくる怒りではなく、
上司の個人的感情から来る怒りでした。

そういう言葉、言いかえれば毒矢、でしょうか、
毒矢を避ける技術をある程度、得たつもりでしたが、
昨日のは強烈で、
半日たっても毒矢が心に刺さったままです。

私自身、もちろん、人間ですから、
怒りの感情が出てくることもあるけれど、
言葉にするときは、相手に致命傷を負わせないような言葉を
選んで発してきたつもりです。
まだまだ至らない部分もありますが・・・

ですから、今日の、茂木さんの”生かす言葉”に、
とても癒されました!
プロフェッショナル仕事の流儀を見ていると、
茂木さんが、人を生かす言葉をたくさん使われているのが、
とても心を打ちます。
奥の深い言葉ですよね、
私も、人を生かす言葉を出せるようになりたいです。
ありがとうございましたm(__)m

投稿: | 2008/02/07 9:01:40

自分の王国、築き上げてます。

投稿: LINUS | 2008/02/07 8:24:15

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