« 天上の音楽 | トップページ | 『脳を活かす勉強法』9刷 »

2008/02/14

ロマンティック・アイロニーと再会するために

音楽でも、何となくその時々に
聴きたいものがあって、
無意識のダイナミクスが
それを欲しているのであろう。

無意識を耕すきっかけとなる
もの。
それを私たちは「文化」
と呼ぶ。

寒風の街を歩いていて
大学時代のことを思い出した。
赤門を出て、郵便局の横を
入ったところにあった
森川町食堂。「ニュートン」
が必ず置いてあったアルルカン。
セイロンカレーを食べながら議論
したルオー。

あの頃のロマンティック・アイロニーは
今でも身体に染みついていて、
ふとした時に私を支えてくれる。

東京工業大学すずかけ台キャンパスにて、
博士最終試験。

関根崇泰が、一生懸命
トークをしているのを見ながら
胸が熱くなった。

慶応の経済を出てやってきた
時には理屈っぽい男で、
しばらくして、身体感覚という
ものは無から幾何学的原理に
よってつくり出されるのだと
言い出した。

手が手であるのは、アプリオリに
自明のことではなくて、ブートストラップ
的に立ち上がるのであると。

なるほど、それはそうだ。
マッハの原理や
相互作用同時性を唱える
人間として、よーくわかる。

しかし、いかに経験科学に着地させるか。
大抵の人は、抽象的な議論には
ついてきてくれないものだ。

そして、科学とは、
populismの芸術でもあるのである。

関根崇泰は成長した。
指を交差させる一連の面白い
実験を考えて、
興味深いデータを出した。
柳川透に手伝ってもらった
自作の実験装置を使って
リアクション・タイムを
計測したり、
研究室の飲み会では、
「宴会部長」をつとめた。

「部長、一つお願いしますよ。」
「ああ、そうかね、茂木君、君も
がんばりたまえ。」
「はい、お願いします。こっちの
新入社員の星野英一もよろしく
お願いします。」
「ああ、そうかね、君はなかなか
見込みがあるね。大いに期待しているよ。」

関根の「だみ声」による
「部長との対話」
最後は、必ず爆笑に包まれる。

審査員の先生方に誠実に
答えている関根の姿は、立派だった。

特に、自分の論理に「入り込んでいる」
時のintricateな感じに、
ボクは、自分自身のロマンティック・
アイロニーを想起させられた。

PHP研究所へ。

いくつかの取材を受ける。

ブラインド・スポットの
平塚一恵さんが
ブック・プロモーションに
加わって下さって以来、
『脳を活かす勉強法』
と『すべては音楽から生まれる』
は動きがねずみ花火になった。

ちりちりちり。ちりちりちり。
パチン!

木南勇二さん、横田紀彦さん、
丹所千佳さんとともに、
すっかり「戦友」の趣きである。

時は流れる。
しかし、目を閉じた時に見える
もっとも純粋な夢の姿は
変わらない。

森川町食堂は建物が変わった
と噂に聞く。

今度本郷界隈に用事がある時に
訪れてみよう。

自分自身のロマンティック・アイロニー
と再会するために。

2月 14, 2008 at 07:18 午前 |

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ロマンティック・アイロニーと再会するために:

» 『鰐口考』27 トラックバック 御林守河村家を守る会
私が見いだした「静岡県史」の一節は、 丁度その時期の助次良の、次のような記録である。  「大宝天王に鰐口(わにぐち)を寄進し奉る 願主大代の助二良    天分七年十一月吉日     大工 又二郎 」 助次良が、大代の地名を冠しているのは、 大学教授の言葉を... [続きを読む]

受信: 2008/02/14 8:10:47

» さらに気を引き締めて トラックバック 須磨寺ものがたり
先週いつものように、拙ブログのアクセスレポートを、 見ていると、何やら見慣れないアクセス元があり、 逆にアクセスすると、ビッグローブの「ウエブリブログ」の、 記事別ランキングにつながった。... [続きを読む]

受信: 2008/02/14 14:39:11

» She ・・ ノッティングヒルの恋人と三四郎と トラックバック 旅籠「風のモバイラー」
She Maybe the face I can't forget A trac [続きを読む]

受信: 2008/02/15 6:07:07

» 白洲信哉氏の著作(5) トラックバック 御林守河村家を守る会
それがいつのことだったかは思い出せない。 「浪漫」という雑誌にそれは掲載されていた。 こんな一文である。 「幾山河越えてきて 一番うまいものは 水だ」 この言葉はじつに印象深く、 いまでも私はそれを大切な言葉のひとつにしている。 白洲信哉氏の文章を読む... [続きを読む]

受信: 2008/02/15 7:18:41

» 「ねぇねぇ、聞いて・・・」 トラックバック Little Tree
今朝も、カチンカチンの氷が張るほどに寒いんですけれど 2月も半ばの陽射しは、こんなにも明るくって眩しいんですね〜! さてさて…今日は、どんなお話をさせていただきましょう〜?... [続きを読む]

受信: 2008/02/15 7:22:49

コメント

やはりほぼ毎日このクオリア日記を見る理由は、茂木さんの気取らない前向きさと、日記の詩的な表現にあります。今回の話題も、凝らないので、素直にポエジーが滲んでいる(ホメゴロシではありません)。

この時期になると、私も30年近く前の博士論文発表会を思いだします。
「特に発表関連の基礎的知識の質問は怖いぞお」「今回の誰それはうちのボスに敵対していて・・」とか、色々脅されて結構緊張していた。猛烈ににわか勉強していたヘムの対称性の件が質問されて、嬉しかった。

なんとか上手く行って、帰りに、出始めの頃の菜の花の漬物を買って、「やれることはやった」という満足感をもって、下宿で久々に炊いた飯で食べ、しみじみと人生の次の段階を夢想した。

投稿: | 2008/02/15 14:43:03

Happy Valentain's Day!
毎日毎日、とってもハードな日々を送られてる茂木さん、
茂木さんの脳はきっとフル回転で喜んでいるんだろうな。
そんなことを思いながら、今「それでも脳はたくらむ」を愛読中です☆
いつも思いついたらすぐ行動!をモットーにしていますが
やっぱり頭の中に疲労物質がモヤモヤ登場してしまう場面も・・。
わたしの脳も茂木さんみたいに切り替えがパッとできて
動きが、思考が止まらなきゃいいのに。
「脳のたくらみ」からすると、まだまだわたしの脳は
刺激が足りないってことですね!
茂木さんの本やトークからもいい刺激をいっぱい与えてもらって
スーパーウーマンになるべくがんばります☆

投稿: | 2008/02/14 22:26:04

ロマンティック・アイロニー、う~ん…何と切なく甘美な薫りのする言葉なのだろう…!

中学のころから、本郷~向丘のあたりは大好きな町で、よく家から自転車をこぎ漕ぎ、遊びに行ったものだ。六丁目あたりの細かい路地を「子供」になって「探検」したり、古い建物を観て感動したり…。

本郷近辺には、実は昔務めていた会社が入っていたビルがあって、それは東大とは眼と鼻の先だったが、どちらかというと湯島寄りで、やはり坂道と路地が多かった。

そこから歩いて5分くらいの所に、洋食屋「キッチンジロー」があり、お昼休みによく弁当を買いに行ったり、ランチを食べに行ったりしたものです。

今でも時折自転車でぶらりと訪れることがありますが、連休最後の日に訪れたら、本郷通り沿いの街並で再開発がもう始まっていて、昔日の面影が消え、何とも寂しい思いをしました。

あの街並だけはあまりつくり変えないで、昔の面影を何時までも残して欲しいと願わずにはいられません。

追伸:今日の日記を拝見し、教え子の方の成長に、眼を細められる茂木さんのお姿が眼に浮かんでくるようでした。関根さんが、志あふれる素晴らしい科学者になられることを願ってやみません。

投稿: 銀鏡反応 | 2008/02/14 22:17:07

初めまして。
昨日でしたか。。朝の番組で茂木先生が出演しているのを見ました。
朝起きて一番にブログを書くっていうのが面白いって思ってネットで検索して見にきました。
本当に朝つけてらっしゃいますね。
私も毎日ブログ書いてます。
ふたつあってひとつは毎日あったことや、疑問や今好きな事など。
もうひとつは写真をメインに作ってます。
ブログの内容を見て、シェークスピア?風だなぁって思いました。
読んだ事ないんですが。
毎日日記更新がんばりましょう~。
読みに来ます♪
チョコレート沢山もらえますように。

投稿: kazu | 2008/02/14 14:12:02

こんにちわ

身体感覚に、無から幾何学的要素があっても不思議ではないと思います。脳細胞一個から成長するわけで、その上に乗る意識も無から成長すると考えられますし、皮膚の平面的感覚が生まれ時、また、平面的感覚から、位置を含めた立体的感覚に移行する時、ニューロンの幾何学的成長により身体感覚に幾何学的要素が入ってくる事もあると思います。

トヨタかホンダが、社内の技術を総動員して、「宴会部長ロボ」を、作るかもしれませんね。(^^)

投稿: | 2008/02/14 10:27:18

博士はドイツ文学に造詣が深くていらっしゃるんですね。
フリードリッヒ・シュレーゲルが、ロマンティック・アイロニーの現象をひとつの具体的な文学作品を手がかりに示すため選んだのは、古典主義のゲーテの「ヴィルヘルム・マイスター」でしたが、つまりは、ご自身が未完(?)であるとお思いなのでしょう。
でしたら、永遠はどのように見えていらっしゃるんですか?

投稿: Nezuko S | 2008/02/14 9:32:00

コメントを書く