「ソラリス」ともっとも近しく
変化への胎動というものは
気付かないうちに、深い
ところで少しずつ
進行している。
アンドレイ・タルコフスキー
の名作『惑星ソラリス』。
巨大な水の塊が
人間の意識に感応して
姿を変える。
私たちの身の回りには、
明示的にそのような変貌を見せる
ものはないけれども、
目には触れない脳髄内部の
無意識の潮流の中では、
常に渦が巻き、よみがえり、
風が吹き、そして気が付くと
どこか遠くへと運ばれている。
新幹線で京都へ。
関西経済連合会及び
関西経済同友会主催の
「第46回関西財界セミナー」で
お話する。
講演を前にして、ホワイエで
コーヒーを受け取り、
庭に出る。
京都国際会館は大谷幸夫さんの
設計。
丹下健三さんとずっと
いっしょに仕事をしていた
人だけに、確かに、かの人の
風情を感じさせる。
コーヒーカップを手に
ゆらゆらと歩く
そのような時間に、
自らの内なる「ソラリス」
ともっとも近しく
対話をしているように
感じるのだ。
「2月の京都はいかがですか?」
「一年でいちばん空いてますよ。
なにしろ、京都は寒いですからなあ」
「それじゃあ、案外来るのには良い時期かも
しれませんね。」
「そうですねえ。余り知られていない
素顔が見られるんじゃないですか。」
いずれにせよ、私はとんぼ返り、
日帰りなのである。
N700に当たった。
座席の電源コンセントに入れると
大いに安心する。
白いものがちらつく空気の
中を、時速300キロで鉄の
かたまりがつらぬく。
ボクの無意識の中にも、
新幹線のようなものはあるだろう。
大いなる山もあるだろうし、
海もあるだろうし、
とにかく人間を人間たらしめる
ものは
一通り揃っていることだろう。
朝日カルチャーセンターの
後、懇談をしていると
増田健史がきた。
タケチャンマンはふふん、ふふんと
歩きながら、ソラリスの海に
現れた巨大な赤ん坊などではなく、
ぴったりと人間のサイズをしていた。
私たちの仲間が人間の大きさ
でいるというのは、
なんとうれしいことだろう。
2月 9, 2008 at 10:47 午前 | Permalink
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@すうはあと息をし、友と語り合い、ある時は望み、ある時は諦め、何かを作り、何かを信じ、物を食べ、異性と出会い、結ばれ、子孫を残し、老い、一生を終え、やがて風化し、無にとけこ... [続きを読む]
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コメント
ソラリス!
すばらしい画像表現!
いま、あのイメージを超えるSF作品がありません。
投稿: 長谷邦夫 | 2008/02/10 20:41:39
小林秀雄を読み始めました。有名な方であると知りつつも、今まで本を開くことがありませんでした。
目次から「一ツの脳髄」を選びました。その中の凝縮された1行が心からなかなか離れませんでした。
投稿: Nezuko S | 2008/02/10 7:01:42
我々を取り巻く外的世界にも、
我々の中で営まれる内的世界にも、
まだ人間が知覚していないだけだったり、もしかしたら、
人間が直接的に知覚する術のないソラリスが隠れているように思います。
「見えるものこそが真実だ」という物質的な考え方は、私は好きじゃない。
自由と寛容の精神をこれからも大事にしていきたい。
そして、畏敬の念を今後も持ち続けていきたい。
投稿: ひろぽん | 2008/02/10 5:55:40
こんにちわ
アメリカの教育場面で、ダーウィンの進化論ではなく、神により創られたと教えている場面をTVでやっていた。「うさぎは神により創られた。」と教えている場面があり、私はピンと来た、「うさぎは、うさぎ
が創った。」と。うさぎはうさぎが選択して子孫を残して進化してきた。すると、「人間は、人間が創った。」と、考えられるのではないか?
人間は、人間の理想に向かって、どこまで、進化するのだろうか?(^^)
投稿: 人間のクオリアby片上泰助(^^) | 2008/02/09 14:25:50
意思をもつ水の惑星ソラリス・・・。
それはまるで、生きている大きな一つの細胞のようだ。
七割水を含んだ体中の細胞が、今こうしている間にも、徐々に変化をしつつある。細胞の一つ一つが、小さく出来たソラリスなのに違いない。
頭の中でも、そんなソラリスたちが無数に渦巻いて、生き死にを繰り返し、どんどん変化していく・・・。人はそうやって変わっていき、成長していくのだろう。
キツい寒さがまだまだ続く。何時まで続くのかと訝りつつ、町の路地かなんかを歩くと、少しずつだが小さな、小さな変化が始まっているのに気づく。それはよくよく観ないと
ついぞ見落としがちな変化だ。
春への変化も「私」の変質も、見落としているうちに、進行していくものなのだなぁ。
投稿: 銀鏡反応 | 2008/02/09 13:25:46