emergence
論理的に指し示されるのでは
ない方向性について、
自分がどのように判断するか
という点に、その人が
一番現れるのだと思う。
「感性を磨く」とひとことで
言うが、それは、海図のない
大海原を闇雲に行くヨットに
似ている。
地球上の表面はくまなく
探検し尽くされてしまったが、
精神の宇宙の中には
まだまだ手つかずで多くの
暗黒大陸が残されているのだ。
飛行機が羽田にストンと
降りて目が覚めた。
東京工業大学すずかけ台
キャンパスへ。
長津田で遅い朝食を
とる。
日経サイエンス編集部にて、
京都大学の川合光さんと
超ひも理論のお話をする。
CERNで建築中のLHCで
ヒッグス粒子が見つかれば、
標準模型が事実上完成され、
未知の物理現象が発見される
ということはもはやほぼ期待
されない「砂漠」が広がると
川合さん。
「アンダーソン局在」
で知られる物理学者のフィリップ・
アンダーソンは、あるシステムが
理論から論理的に予想されることを
超える振る舞いをすることを、
emergenceと呼んだ。
たとえば、高温超伝導が
emergenceである。
しかし、「それは、理論が一時的に
追いついていないに過ぎない」
と川合さんは言う。
最終的には何らかの整合性のある
理論的記述ができるはずであり、
それまでに一時的に存在する
ギャップであると。
脳を探究していると、一つ
わかると十わからないことが
出てくるというように、
いつまでも理論がconvergeしない
印象を受ける。
これは、要素から積み上げてより
高度な組織ができるという
emergenceに固有の問題で、
逆に要素の方に還元していく
という知的探究においては、
標準模型が確認されれば
あとは超ひも理論で
その裏付けをするというように、
convergentな理論構築を
志向することができるのだろう。
超ひも理論においては、
いかに非摂動論的な
扱いをするかということが
理論的課題となっていて、
川合さんはその課題に
行列形式のダイナミクスの
記述で取り組まれている。
麻布十番の「かどわき」へ。
文藝春秋の女性誌CREA
編集部の方々と、遅い新年会。
文學界連載の時から引き続きお世話に
なっている山下奈緒子さん、
編集長の井上敬子さん、三井三奈子さんと
楽しくお話する。
最後に出た黒トリュフのごはんが
絶品だった。
それだけで完結した、足すものも
引くものもない世界をつくっている。
ごはんを食べる時には赤だしや
お新香がうれしいものだが、
それらのものが要らない。
トリュフご飯だけでずっと食べて
いたいと思った。
この世のさまざまは
理論からは予想できない
emergenceをふんだんに
示し、
その航海で頼りになるのは
自分の感性だけである。
豚はぶうぶう言いながら黒トリュフを
探りあてる。
視覚は一覧性を特長とするが、
幻視においては私たちは何も
見渡していないし、並列も
していない。
ただ、感性という鼻で探りあてる
だけである。
暗闇の中を行くゾと思うからこそ、
人生は美しい。
2月 20, 2008 at 06:18 午前 | Permalink
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» 日本の食文化(6) トラックバック 大きな国で
食の文化は 継承して 創造していく ことなくして
持続的に発展する食文化が形成されない。
地域特性 とは、食材だけではないような気がする。
中国の場合
四川料理が辛い料理が基本であるが、
それは、保存ずるという技術や
内陸部の新鮮ではない魚や肉を安全....... [続きを読む]
受信: 2008/02/20 7:41:37
» 初期作品集 トラックバック 御林守河村家を守る会
(ヘンに思われるかもしれませんが
しばらく三人称で日記を書こうと思います)
白洲信哉氏の著作を読みつづけているうちに、
彼のこころに、
二十歳のころの記憶が力強く立ち上がってきた。
西郷信綱の『万葉私記』を片手に、
国文学の教授だった近藤潤一先生の部�... [続きを読む]
受信: 2008/02/20 8:14:10
» 『谷島瑶一郎初期作品集』1 トラックバック 御林守河村家を守る会
『谷島瑶一郎初期作品集』1
讃歌
谷島瑶一郎
ヘルダーリン、貴方の瞳には空がみえる。
青さは澄み、秋の空だ。
貴方の瞳は、ギリシャの光に、神のひらめきを見ていた。
鳩�... [続きを読む]
受信: 2008/02/21 7:55:56
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コメント
今の仕事を始めた時に、知識と経験不足もあったのですが
何をしたら良いかがわからず、まさに大海にいかだで漕ぎ出した
ような気分になりました。すごく心細い。正しいのか間違っているのかすらわからない。
まだずっと漕いでいるのですが、清清しいお天気の日がたまにあったり、海に飲まれそうになったりしてます。いっそヘリに迎えに来てもらおうかと思ったりもしますが、もうちょっと頑張ろうかと思います。
良い航路をたどっていればよいのですが。
投稿: おか | 2008/02/23 21:23:37
理論は「石」のようであり、「鉄」のようだ。
感性は良く動くアメーバのようだ。何時もやわらかくて、しなやかに動いている。
この地球上に、最後に残された未開の開拓地・精神の(心の中の)宇宙の謎に、最初に切りこんでいくのは、その自在な“感性”…。
暗闇の中に勇躍切りこんでいく、しなやかで、やわらかな振舞い。
目を瞑って想像すれば、精神の宇宙は、天空のそれと同じように、限り無く大きく広がっていく。
私達が眼を開いて見つめる夜空の美しさに見惚れるのも、真摯な科学者達が心の宇宙の謎に挑もうとするのも、全ては、脳の複雑な振るまいから生まれて来る、しなやかでやわらかな、感性の成せる技なのだろうか…。
乱筆乱文何卒、お許し下さい。
投稿: 銀鏡反応 | 2008/02/21 19:38:55
物理学者の揺り籠は宇宙なのでしょうか?
宇宙創成の描像に、レーモン・ルーセルの「ロクス・ソルス」を侵犯させてしまうのは、私だけかもしれません。ブルトンをたよりに彷徨することを、真空の中の素粒子にたとえることも。
投稿: Nezuko S | 2008/02/21 2:31:23
emergenceは一時的なギャップであり、
最終的には理論的記述ができるはずっていう・・・
さすが科学者ですね。
もしこの宇宙を神様が創ったのだとしたなら
理論で表せる全てが最初から用意されていたのでしょうか。
私たちは神様に試されているのでしょうか。
「さあ、この世界を数式で表してごらん」と。
数理的秩序で表現できる物質世界に対する驚きと、
物質である脳が
法則などでは割り切れない精神世界を立ち上げている不思議さ。
目の前の事象に対してひとつの理論が成立するとき、
一種の美しさを感じます。
一方で奥深い精神の世界には限りない豊かさを感じます。
生きる時間の中で、理論に寄り添っていれば安心でいられる。
けれども最後の最後に自分を支えるのは感性なのかな。
初めはまるで頼りにならない危なっかしい感性でも、
ゆっくりとしっかりと育んでいきたいものです。
茂木先生の味わった美味しい黒トリュフ。
探してくれた豚クンの感性に感謝ですね。
投稿: s.kazumi | 2008/02/21 0:08:55
論理はそれがいかなる論理であっても、その体系を理解している私にまで適用しようとすると破綻します。
それは何故かと考察してみました。
言葉に囚われて、言葉が指し示す方を考察しない人と、
言葉が指し示す方を考察するが、そちらへは移動しない人がいますが、
言葉が指し示す方に移動すれば、その言葉は既に自らを指し示しています(逆向き)。
つまり、論理的に指し示されるものの方向は、絶対的ではなく相対的ではないでしょうか。
そのような相対的な立場から、記述しなおせば、おそらく、「emergence」は、その存在を絶対的な立場から疑うのではなく、私達にとって、相対的に事実そうであることをもって、記述できるようになると感じます。
しかし、それも結局は新たな論理的な方向に過ぎません。
>論理的に指し示されるのではない方向性について、
そんな方向はないといっても間違いだと信じているし
そんな方向があるといってもどこかおかしいと信じている。
ただ、その信念は、どこから来たのだろうと思いを巡らせてみると、その信念が来たところが答えなのかなと感じてはいます。
投稿: 金田恭俊 | 2008/02/20 12:02:42
茂木さん、こんにちは!
お昼前なので、黒トリュフご飯のお話を読んで、お腹がキュルル、と鳴りました(笑)
私の今日のお昼は、ポークと卵の予定です(笑)
茂木さんがおっしゃるように、精神はまだまだ分からないことばかりで、
これからは、茂木さんのされているお仕事が、世の中で一番重要になってくるんだと確信してます。
無意識や潜在意識の科学…と言ったらいいのでしょうか。
人の犯す過ちも、偉業も、潜在意識と必ず関連があると思いますし、
プロフェッショナル仕事の流儀は、分かりやすくそこに迫っていてとても勉強になります。
科学に利便性のみを求めると、環境問題など人間の課題が浮上してくるので、
やはりもっと深い神秘を茂木さんには追求して頂き、遅れてくる者に示してほしいです。
…ものすごく大変なことだと思いますが…私の想像を絶することだと思いますが…
投稿: ももすけ | 2008/02/20 11:11:51
こんにちわ
コンピュータで、ニューロンの処理回路を作っても、人間のニューロン回路は、変化して成長している。不確定原理のように、状態(位置)を調べると変化(速度)がわからないなる等の問題を含んでいるのかもしれない。
また、プログラムを作る場合、複雑になる場合、スクリプト(実行工程)のデーターを実行できるようにしたりします。簡単になるので見た目convergentぽくなるのだけど、emergenceになる、と考えられます。
私も、洋風キノコご飯食べてみたい。(^^)
投稿: 洋風キノコご飯のクオリアby片上泰助(^^) | 2008/02/20 11:02:47
長津田地元です・・(笑)
東工大ありますね。
学際はあすこではしないのかな?
この近くにいらしたっていうのがびっくりですね。
遅い朝食・・カメダかなぁ・・
ひも理論意味まったくわかりませんが好きです。
以前NHkの特集でやっていたのを見ました。
詳しく理解してないですが、今いる世界と別の世界が隣あわせになっていてすぐに手の届く所なんだとか?でしょうか。
SFが好きで、スタートレックの話がダン・ブラウンの小説に出てきます。反物質を使った兵器を開発してイタリアのバチカンを破壊する話です。結構面白いですよ。
ビックバーンは物質と反物質がぶつかりあってできたのかな?
その反物質はブラックホールと呼ばれるものだとか。
反物質が出来たらスタートレックみたいに宇宙探査にも行ける時代が来るかもしれないですね。
でもスタートレックって本当昔の作品なのにその時代から反物質の話が出てくるのがすごいなぁって思います。
でも未だに解明されてないんですよね。
宇宙もロケットじゃないと動かないし。
でもそうやって宇宙はどこまであるんだろうとか考えたり想像したりするのは好きです。
昔の人が地球が平だと思っていた時代、世界の果てがどこまでなんだろうって思っていたように後何百年かしたらなんだ~そんな事なのかって思う時代が来るかもしれないですね。
投稿: kazu | 2008/02/20 9:25:38