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2007/12/04

身体の修理

最後の24時間はつらかった。
夏目漱石のシンポジウムを終え
家に帰り、
いろいろな仕事にとりかかった。

中でも「大物」は、新潮社の雑誌『考える人』
に新しく連載が始まる「偶有性の自然誌」
の原稿30枚であった。

成田空港に向かうタクシーの中でも
必死に書き続けた。
猛然とタイプする謎の客を、
運転手さんはどう思っていたことだろう。

フロー状態。時間の流れが止まる。

到着した時に、「もうあと少し」
の状態であった。
しかし、集合時間も迫っている。

有吉伸人さんの携帯に電話して、
「今メールを送ったらそちらに
行きます!」と言って、
それから仕上げにかかった。

送信した時には、全速力
で疾走した後のように汗びっしょりで、
息もたえだえになっていた。

これじゃあ、体調も悪くなるはずである。
有吉さんの隣りの席でうごうごしながら、
機内食もサラダやフルーツ
(ビタミン、ビタミン!)
以外はとらずに眠っていった。

身体の節々が痛く、お腹も痛く、
いろいろなものがバラバラになって
いる気がする。

ずっとヘンな夢を見ていて、
同じところをぐるぐるする。

イミグレーションで、
住吉美紀さんと合流したあたりから、
やっとつながり始めて、
「修理」がうまく行ったような
気がしてきた。

というわけで、
シアトルにやってきました!

本番は明日。
着いたのはこちらの午前中。
夕方から、カメラリハーサル。

とりあえずは、修理。修理。

ベッドで眠っていたら、
電話が鳴る。

ドアを開けたら、茶色い紙袋
があった。

すみきちが、コーディネーターの
村山さんと一緒に近所の
スーパーに行き、
カリフォルニア・ロールを
買ってきてくれたのだ。

村山さんから電話。
「すみません。眠っていました」

まだ身体は修理中である。

部屋は高速インターネットが
通じる。
すみきちのブログは、もう更新
されていた。

速い!

http://blog.livedoor.jp/sumikichi_blog/

金寿煥さんから『偶有性の自然誌』
を受け取ったというメールが来る。
苦楽を友にする「同志」の編集者から
温かいリスポンスをもらうと、
本当にうれしい。

雨の高速道路、気がヘンになりそうな
ままに書き綴って良かった。

身体の修理もうまく行きそうである。
金さんのメールを引用する。
それにしても金さん、文章うまいな。


茂木さま

 原稿たしかに拝受しました。お疲れ様です!

 世間を真っ向から受け止め相手して、
 相手の思っている以上の球を投げ返しても、
 茂木さんの思った以上の反応がなくて傷ついて、
 もうボロボロで傷だらけで、
 でも、「巨大な知」と「私という永遠の謎かけ」に、
 歯をくいしばって本気で格闘している茂木さんが、
 「考える人」という雑誌に、
 30枚というタフな論考を搾り出すように書いた、
 そんな、「今」の茂木さんの一挙手一投足がにじみ出た、
 すばらしい原稿ですね。嬉しいです。感無量です。

 茂木さんが、偶有性の魅力をとらえ、
 その素晴らしさを今回あらためてマニフェストとして、
 送り出すその裏には、穿ちすぎかもしれませんが、
 「○○よ、甘えるんじゃねえ!!」という怒りに似た何かを感じます。
 (○○には、人間でも、日本人でも、知識人でも、大衆でも、
 どのようなものも当てはまると思いますが)。
 
 偶有性を深く認識し考えることは、
 誰もが己の依って立つ位置というものを再認識せざるを得ません。
 それを見ずして、何が言えるか!
 何が環境保全だ! 
 何が国家だ!
 何が文学だ!
 何が芸術だ!
 何が科学だ!
 何が宗教だ!
 そんな怒りに似た叫びが聞こえるようです。
 
 科学の繭のなかで、甘えて生きている近代人、
 思想のゆりかごに揺られて、言い訳ばかりしている現代人に対して、
 まさに「甘えるんじゃねえ!」と、
 狭隘な現代人の視野を広げるような批評性にあふれていると思います。 
 
 しかし(文章の)表面にはそんな下品な怒りは見せず、
 あくまで穏やかで優しい茂木さんらしい文章。
 幼少の頃の蝶とのふれあいから、
 自然の一部である人間という存在、
 過去から未来が立ち上り、
 未来が過去へと通じるその緩やかでやさしい循環性。
 
 まさに、
 偶然と必然、
 主観と客観、
 過去と未来、
 全体と部分、
 普遍と特殊、
 アナログとデジタル、
 そして愛と憎しみ、
 さまざまな極の間を往還する、
 茂木さんらしい(茂木さんだけが!)全体性が志向された、
 大変すばらしい原稿だと思います。
 
 ラストもお見事。
 美しくもさりげなく、余韻を引きずる見事なフィナーレです!

 とまれ、ありがとうございました!
 完璧なスタートが切れましたね。
 連載、すばらしいものにいたしましょう!
 行くとこまで行っちゃいましょう!

 追伸
 校正はどういたしますか?

 新潮社 金寿煥

12月 4, 2007 at 07:41 午前 |

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良かった、兎に角三連勝で、 北京行きのキップを手にし、 星野ジャパンは、 五輪出場を果たした。 [続きを読む]

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受信: 2007/12/04 21:02:00

» 命とクオリア(19)-苦楽共に。 トラックバック 銀鏡反応 パンドラの函
@人生はあざなえる縄のように、苦楽が代わり万古(ばんこ)に現われる、あるいは、あっちこっちから予想もつかない事態が自分めがけてやって来る。嬉しいこともあれば、哀しいことも、悔しいことも、憤りたいことも、いっぱいやって来る。 @でも、そんないろいろな苦楽がある人生だからこそ、人は有意義によく生きようとするものなんだ。 @苦をば苦とさとり、楽をば楽とひらき、苦楽ともに思いあわせて・・・という先人の言葉にあるように、否定したくなるような感情に包まれているつらい日々も、肯定したい気持ちになるような楽しい日々... [続きを読む]

受信: 2007/12/04 22:26:03

コメント

新潮社の金さんの激賞を読ませていただくと
茂木先生がどんなに身体を張った文面を書かれたのか
が想像出来ます。

さずがにプロですね☆ プロフェショナルとは
ぎりぎりまで手を抜かない。ベストを尽くす。 
そんなお姿が浮かびました・・。

私は甘っちょろくて、そんな状況で30枚とは・・。
「考える人」今からワクワク楽しみにしています~♪
上半身人間、半身馬の考える人? プロの技ですね・・。

投稿: tachimoto | 2007/12/06 11:14:48

シアトルには、
プロフェッショナルのお正月スペシャルの収録で行かれたのですね。

>身体の節々が痛く、お腹も痛く、
いろいろなものがバラバラになって
いる気がする。

・・・そんな様子を想像すると心配を通り越して悲しくなります。
機内食のサラダとフルーツで
ビタミンを摂った気になっていてはダメですよ(笑)。
どうかお体、ご自愛ください。
せめてシアトル滞在中くらいは
茂木先生の身体が完全に「修理」できるよう
どうか神様、僅かでも時間をお与えください。

それにしても、
気がヘンになるくらいの激しい疾走の中で、
金さん曰く「美しくもさりげなく、余韻を引きずる見事なフィナーレ」を
よくぞ記すことができましたね!
ほんっっっと、尊敬します。

金さんのメールからは、
今の自分の未熟さをも自覚させられます。
その気迫に満ちた文面により、
この連載は絶対読まなきゃ、と強く思いました。

偶有性については、その魅力も含めてこれからもっと深く認識し、
どんな不確実性に直面したときにも逃げない態度を持って、
広い世界と行き交いしていけたらと考えています。
(今のところ自信ないですが。)

先生と番組スタッフの皆様にとって
現地での時間が充実したものとなりますように。
そして皆様、無事に帰国なさるよう願っています。

投稿: s.kazumi | 2007/12/05 0:13:15

シアトルへ無事ご到着されたのですね。

「偶有性の自然誌」、連載がいよいよ始まるのですね!「考える人」を読むのが、今から待ち遠しいです…!

現地に発たれる直前の、必死の原稿ご執筆の甲斐あって、金さんから素晴らしいメールも頂けて、本当によかったですね!

茂木さんの、命をかけた「この世の最大級の“難問”」との真正面からの格闘が、茂木さんならではの、美しい文章になって私達の前に現われる…。本当に、楽しみにしています!

それでは、シアトルでの日程が御無事でありますよう…。

投稿: 銀鏡反応 | 2007/12/04 21:16:14

こんにちわ

茂木さんの言う「偶有性」を、「福袋」として考えたりします。
福袋があるのは確かですが、中身は分からない。偶然と必然。

DVDや本を買う時、強い偶有性があると思います。
また、人も強い有遇性があると思います。

私の頭の中の福袋に何か良いモノないか、探しています。(^^)

投稿: tain&片上泰助 | 2007/12/04 17:46:37

しぜんちゆりょく、しぜんちゆりょく。

生きものの体内には、
「お医者さん」がいて、
お薬を調合してくれたり、
治そう、治そう、とする
自然治癒力がある。

私も、あきらめず、がんばりたいです。


投稿: F | 2007/12/04 17:20:06

身体の修理が上手くいきそうな、心強いメールですね!!
お疲れ様です。
「偶有性の自然誌」読みたいです。

投稿: bob | 2007/12/04 9:39:06

お疲れさまです。♪°.

イチローさんの取材でアメリカへ行かれたのでしょうか?
今日のOAも来年のスペシャルも、「プロフェッショナル」、愉しみにしています。

わたしは疲れを感じたとき、栄養ドリンク(リポビタンDなどの類で、少し値段が高くなっているバージョンのもの)を、冷蔵庫へ入れずに、あえて常温で飲みます。キンキンに冷えたドリンクよりも、常温の生ぬるいドリンクのほうが、身体に効くような感じがするのです。

シアトルは現在、日本と同じような気候でしょうか?
全国、国外、津津浦浦でのお仕事・・・くれぐれもお身体をご自愛くださいませ。

投稿: 才寺リリィ | 2007/12/04 9:30:04

編集者の役割を完全に納得!金さん、すごい!

茂木先生、ラテン語の綴りは忘れたが「無言が一番の叫び」というじゃないですか。

流行りのケータイ小説でなく、金儲けのハック本でなく、著名人(マスメディア美人投票限定)のエッセ(感想文)でなく、本物の普遍を、その意味での古典を!

投稿: th | 2007/12/04 8:47:07

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