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2007/11/28

それはいつ、どこから来るのか

人間の自発性がいつどのように立ち上がる
かは難しくも興味深い問題である。

私は、小学校5年生の時に、突然
「絵を習いたい!」
と思い、母親に言って
油絵の教室に通い始めた。

最初に渡された素材は
「アジの開き」であった。

別に美大を受験するわけでもなく、
途中からはイマジネーションのままに
「空にさえざえと輝く月に向かって
手を上げている女」
などの自分でも謎のシリーズを描いて、
断続的に大学まで続いた。

小学生の私が、家にいて、
突然「絵を習いたい」と思った
瞬間の、あの奇妙な気持ちはよく
覚えている。

何の脈絡もなく、前触れもなく、
突然そう思って、
その瞬間には、もう決めていた。

このブログを書くこともそうだが、
突然決めてやり出す。
そして、一度始めたらやめない、
ということが、私の人生では多い。

電車の中で「ガタンゴトン」
というクオリアに目覚めた
のもその例である。

いつどんな脈絡でそうなって
しまうのか、
自省しても良くわからぬ。

ソニーコンピュータサイエンス研究所に
いく途中で、なぜか突然「そうだ、
ケーキが食べたい」と思った。

しかも、プチフールとかそういうんじゃ
なくって、普通のサイズのケーキが
ガッツリ食べたい、と思った。

自発性と言えば、修士二年の野澤真一
である。

「あのさ、ケーキを食べようと
思うんだけれども」
「はあ」
「五反田駅で合流して、一緒に
買おうぜ」
「わかりました。茂木さん、今、どこに
いるんですか?」
「これから電車に乗るから、あと十分ちょっと
で着くよ。でも、それから駅のホームで
立ち食い蕎麦を食べる予定だから、
五十分には改札に着くと思うよ。」
「ぼくは駅の近くの喫茶店にいます。
それじゃあ、これからそばを食べる、
という時になったら電話して
ください。」
「わかった!」

改札で落ち合い、
コージーコーナーに歩く。

これと、あれと、それから
そっちとあっち!

愛らしいケーキも、
たくさんあると、案外重い。

東京工業大学茂木研究室の
みんな、それから田谷文彦、張キさんと
ゼミをやりながら、みんなで
食べた。

むしゃむしゃ。ごくごく。

天玉そばのあとのケーキは
美味しい。

それからの午後の時間で、
目が回るような
忙しさの奔流に投げ込まれ、
ケーキはかみ砕かれ、
咀嚼され、すっかり
私の一部となった。

ケーキからクオリアまで。
いつも耳を澄ませて、自発性の
波が来るのを待つ。

それはいつ、どこから来るのか。

自発性のデルタ関数を
想いながら、偶有性の海を泳ぐ。

11月 28, 2007 at 07:36 午前 |

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コメント

そのシリーズを
今ではもう描いていないのですか?
なんだかとても気になりますw

先生の絵はかわいらしいものが
多いので
なんだか悔しい半分
自由で楽しい。

今度是非是非日記に
載せてください。

投稿: akifukasi | 2007/12/03 0:32:11

今晩は芋虫小僧です。(ニューパターン)

二人分の人手がいるとなるとケーキは10個どころじゃないですね?そんなにケーキが並ぶと爽快ですね。しかし茂木先生の日記にはいつもジャンクか肉か麺類が。そしてケーキとくれば、はて何故健康なのだろう?(笑)。

五反田の立ち食い蕎麦屋は旨いですかね?恵比寿駅品川寄り改札内側の讃岐うどんは相当旨いですよ。レモンがついてるぶっかけうどんを試してみてください。食後はフルーツジュースバーで糖分をゲット。目黒駅ホームのと新宿駅南口改札内の立ち食い蕎麦屋はかなりイマイチです。新宿駅を使うときには気をつけてください。

自発性の波は肉体快楽には正直なので考える前に体を動かしてしまいます。旨い駅蕎麦があるなら山手線駅ならば即向かってしまいます。あとは有名ラーメン店の制覇。食は「ロマン」というより「浪漫」って感じですかね。美しいトイレと旨い飯と快適な睡眠は我が人生の3大柱。あとはむくわれない愛がささやかに明かりを灯す。考える前に追いかけて、あっちへ行ったりこっちへ行ったり。場所ではなくて、その思考に。

何か突然思いつくと、不思議な世界が広がりますね。その瞬間は偶有性ですが、その後にも偶有性が連続するのは、また宝。

人生はそんな玉手箱なんですかね。先生の話を聞いていると、そんな宝探しに出かけないともったいない気がしてくるから不思議ですよ。

投稿: imomusikozo | 2007/12/02 21:27:11

自発性は、
いつどこから来るのか。

考えても、
考えが尽きない問題ですね。

ぼくは
この世界に自分が発生することが、
自発性の最初の現われだとおもいます。

自発性でも主体性でも、
なにかを媒体にして現れないことには
認知されませんから、
物理的に考えたら
胎内に発生したときかなと思います。

もうすこし夢のある考え方をするなら、
いま現に生きているぼくたちは、
未来に生まれてくる生きものの自発性に
動かされているのかもしれません。

すると世代交代の時期は、
創造することをやめてしまったときでしょうか(^^:

-----------------
ブログ(Picaso)で、
『脳と創造性』をおかりして
芸術について考えさせていただいております。
文脈を踏まえて引用できているか不安ですが、
とても刺激をもらっています。

投稿: Aoki* | 2007/11/29 3:10:19

確かに自発性というのは何の前触れもなくやってくるのだと思います。
しかしそれも個人が潜在的に考えていることとの関わりがあるのではないかと私は考えています。
なぜならその自発性の波が来た時にその波に乗るか乗らないかは潜在的に考えてるものに依存しているのではないかと思っています。
つまり本当は自発性の波というのは常に自分の周りを色々な波が流れていて、その波と波長が合った時にその波の存在に気づいてそれが行動へと駆り立てるのではないでしょうか。

投稿: つよし | 2007/11/28 22:58:28

コージーコーナーって、
関東中心にあるお店ですね。
10年前、東京のどこかで、紅茶となにかのケーキを、
子供の頃からの知り合いの方に、ごちそうになりました。
はじめて聞いた名で、ずっと、おぼえていました。
九州から私一人で来るなら道に迷わないかと
えらく心配して、早めに駅まで迎えに来てくださって、
無事に会えて、お互い、ほっと一息ついた喫茶店でした。
天気の良い日でした。そうだった。思い出した。
あれから、ささいな、すれちがいで、
若かった私は腹を立てて、恩を忘れた。
まるで、親のように気遣ってくれたのに。
ずっと、ずっと長い間。

今日、茂木様のブログのおかげで、
とつぜん、思い出せました。
いつだって、どんなときも、
だれかの、おかげだったのに。


投稿: F | 2007/11/28 21:38:36

いきなりに、何かがやりたい!と“思いつく”自発的な気持ち。

それは何の前触れもなく、まるで“天啓”のように訪れる。

何故?如何して?それをやりたい、と思ったのか、とんと判らない。何時なんどきにやってくるのか、見当もつかず。

私が幼い頃、何時の間にか、既に手にクレヨンを握り、好きなように絵を描いていたらしい。

何故そうなったのか、全く判らない。この場合、自分でも全然意識しないうちに、自発的にクレヨンを握って、絵を描き始めたのかもしれない。

あるいは…あるとき「絵をやりたい」と思って絵を描き始めたのかもしれないが、今は忘れているだけなのかも。

自発性という名の「天啓」。何か起こるか判らない偶有性に満ちた、この世界で生きているからこそ、私達のもとにやって来るのに違いない…。

投稿: 銀鏡反応 | 2007/11/28 21:26:44

茂木さん, はじめまして.

いつもブログを拝見させていただいてます.
私は現在,情報科学(ら辺の領域)を学ぶ大学3年生です.
茂木さんのような人になりたい,と強く思い,勉強に励んでいます.

>ケーキはかみ砕かれ、
咀嚼され、すっかり
私の一部となった。

茂木さんが発信する言葉や,情熱,考えもまた,私の一部となっていると思います.
これからも茂木さんに沢山のことを学ばせていただきたいです.そして私も,広く,深く,豊さを与えられる人になりたいです.
お体には十分気をつけて下さい.

投稿: THNK | 2007/11/28 19:19:42

こんにちわ

私も、無性に日清カップヌードルを食べたくなる事があります。

私の場合、三日坊主を繰り返して、三日坊主チェーンで、クルクル回ってる感じが多いです。(^^)

投稿: tain&片上泰助 | 2007/11/28 15:38:27

>「空にさえざえと輝く月に向かって
手を上げている女」

私かも(笑い)
だって、中学時代に学校内新聞に投稿した「月」と言う題名の
詩の文章に
「私は月のように生きたい」って書いたことがあるから、
思わず思い出してしまいました。

そのシリーズ見てみたいですね。

ケーキ・・・。私にもクデ(笑い)

高くて最近食べてないんだもの、、。(笑い)
昨日、たまたまケーキの話をしていて、
食べたくなったので買いに行ったのですが、
途中で回転焼き89円が目に付き、
同じ甘いものだから、、と買って食べたのですが、、。
「やっぱり、、違う(ボソ)。」


昨年の調査結果ですが、大学生の昼食に使う金額は
300円だとか。

「ゲッツ!。これじゃ、ファーストフードでしか食べられないじゃない」
と未来の日本の行く末を考えました。

家に若い人たちがドカドカとやってきて、バクバクとご飯を食べて、
そんなことにあこがれていました。

その風景を垣間見たようで、今日の日記楽しかったです。


投稿: あすか | 2007/11/28 12:53:03

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